帝国軍の野戦病院では、拉致された民間人や逮捕された捕虜が、次々と洗脳改造されている。
「グルルッ! お前ら、こいっ!」
「はいっ!」
「ガルルッ!」
オーレル師団長が、馬に跨がり、騎兵湾刀フス・サーベルを振るう。
すると、ワーウルフの軍団と化した避難民だった者達は、後に着いてゆく。
「グフフフフ…………お前達は、こっちだ」
「は、い」
「う、ぅ…………」
キリアコス将軍も馬に跨がると、青血を体中から垂らす、ゾンビ達を連れていく。
ノロノロと青紫色に染まった肌をした、集団が歩くさまは、世の終末を思わせる。
「凄かったね? 高級将校のやり方は派手だよっ!」
「…………ですね、圧倒されましたよ? んん? あっちでも何かしてますね」
「イリナ少将、準備が整いました」
「おっし、それじゃあ~~幻影魔法をいくよっ!」
帝国軍・高級将校による虐殺と惨劇を目にした、フロスト中尉とネージュ準尉たち。
二人は、再び帝国軍の将校が民間人に襲いかかる様を見物する。
帝国軍兵士から、イリナ少将と言われた、青ラバーのピエロ女性は、両手をグルグルと回した。
「いやああ~~~~!? 怪物よ~~~~!!」
「ぎゃああああーー!!」
「うわああぁぁっ! た、助けてくれーー!!」
「ぐわわわわっ!」
サントネール通りに、一台のフクス装甲兵員輸送車が停車した。
その後ろには、輸送トラックである、メルセデス・ベンツ・ゼトロスが、四両もあった。
その幌内から、一斉に避難民らしき人間たちが走り出す。
「皆さん、こっちですっ! このトラックに乗れば安全ですっ!」
イリナ少将は、連合軍兵士に変装すると、逃げ惑う群衆を、輸送型のXH3トラックに誘導する。
金髪カールボブヘア、明るい肌、澄んだ水色の瞳を持つ、彼女は真剣な顔で叫んでいる。
今の彼女は、赤ベレーを被り、ウッドランド迷彩服を着ている。
これにより、烏合の衆と化した民間人は完全に、彼女を連合軍兵士だと信じたで。
「うわっ! うわああっ!」
「ぐわ~~~~!!」
「グヒヒ、騙されたわねっ! おいっ! ガスを出せっ!」
もちろん、民間人を追い回す巨大な黒狼は、イリナが作った幻影に過ぎない。
逃げ回っていた全員が、コンテナに入った後、彼女は部下に命令を下す。
『きゃーーーー!!』
『ゲフッ! ゲフッ!』
「これで、目が覚めた後は、帝国軍兵士になれているわよ、クヒヒッ!」
コンテナ内から聞こえる悲鳴を聞いた、イリナ少将は変身を解いて嗤う。
XH3の隙間から、白い睡眠ガスが漏れてくるさまを見て、彼女は喜んでいた。
「ああ言う、やり方もあるんだな? おっ! 今度は何だ」
「私には思いつきませんよ…………ん?」
幻影により、罠に嵌められた民間人を見ていた、フロスト中尉とネージュ準尉たちは呟く。
そして、今度はサントネール通りの奥側に、ブッシュマスター防護機動車が、八両停車した。
「ペータル特務大尉、準備はできてる?」
「ああ、ヤロスワヤ特殊工作局長、大丈夫だ…………おい、やれ」
「了解です」
「了解しました」
「はっ!」
「ただいま」
そこには、制帽を被り、制服に身を包んだ、女性グールとバクテリエラー・ゾルダート達が居た。
四名の兵士が、後部ドアを開くと、中で座っていた民間人たちは驚く。
「は? ここは何だ? ぐわあーー!!」
「え、何、何なの? ぐぇ…………」
「があ、ぎ、ぐぐ」
「ゲホッ! ゲホッ! うぅ」
ペータル特務大尉は、口からガスマスクを外すと、細菌液を車内に勢いよく噴出する。
ヤロスワヤ特殊工作局長も、口を大きく開き、毒ガスを噴射した。
「ウガアアーー」
「後の奴らも同じようにしてやれ、その後は培養層に入った後、武器と装備を準備しろ」
「ぎゃ、ぎぎいっ!!」
「貴女も同じく、ウイルス・キャリアになったんだから、後ろの車両に詰まっている連中を頼んだわよ」
ゾンビが走ると、ペータル特務大尉は命令しながら後ろの車両に向かわせる。
グールが駆け出すと、ヤロスワヤ特殊工作局長も、同様の指示を出す。
どうやら、二人は民間人を完全な無知性型アンデッドに変えず、配下としたようだ。
こうして、効率的に彼等の部下達は、どんどん作られていく。
「いや、凄いな…………上級アンデッドの彼等じゃないと、できない技だ」
「流石、高級将校ですね…………」
フロスト中尉とネージュ準尉たちは、圧倒的な力を前にして、称賛と感嘆の言葉を呟く。
そんな彼等は、今度は回転砲塔を搭載した、HK3自走砲トラックが何台も走る様子を目にした。
こうして、帝国軍・帝国警察が最後の決戦を挑もうと、戦力を増強していた。
その間、もちろん連合軍・レジスタンス側も、様々な兵器や物資を揃えて、戦いに備えていた。
「おっ? なんか、走ってくる? 白いな…………」
「味方の軽偵察車両じゃない?」
歩哨戒に立つ、ナタンが目にした白くて小さな車は、カワサキ製TERYXだ。
メルヴェは、椅子代わりに持ってきた木箱に座りながら横目で、外の様子を眺める。
「確かに、そうみたいだ?」
「でしょ?」
ナタンは、連邦政府庁舎の隣にある、ランベルモンド通りから、TERYXが走る姿を見ていた。
この軽車両が、公園内にある歩道を低速で進んでくるさまを、彼は見続けた。
一方、メルヴェは、イエローボーイに弾薬を込めながら、椅子に座ったまま答えた。
「なあ、メルヴェ? フロストの奴と対峙したが、仕留められなかった」
「あん時は、それどころじゃなかったからね…………」
ナタンは、隣のビルで戦闘した事を思いだし、メルヴェに話す。
フロスト中尉と相対した時、彼を殺害できれば良かったが、生憎そんな暇はなかった。
だが、あそこで排除していればと、彼には後悔の念が消えない。
「フロストは悪人だ、それも、教師の皮を被った狼だ」
「確かに、キーラン以外は彼に喰われちゃったわね?」
ナタンは、敵の指揮官であるフロストに対して、憎しみが籠った言葉を放つ。
「レギナやウェスト達は、大丈夫かな?」
「絶対に無事よ、心配ないわ」
ナタンは、元レジスタンスの仲間たちを思いだして、彼等が生きているか心配した。
それを聞いて、メルヴェは彼を安心させるべく、無用な心配は要らないと優しく語りかける。
「そうだね、心配しても仕方がないね」
「そう、私達は今やるべき事をやるだけよっ!」
ナタンは、前を向きながら公園に眼を向け、パレ広場を走る、タンカラーのマンバ装甲車を眺めた。
八台も列を成して、走行してくる車両からは、道端に連合軍兵士たちを続々と降ろす。
一方、メルヴェは後ろから黄土色の多口径ライフル、KNー12を持ち出す。
そして、十字照準のレティクルを調整して、いつでも敵歩兵を、撃てるように準備する。
「それも、そうだ…………次こそは、フロストの野郎も仕留めるっ!」
「その息よ、ナタンっ!」
ナタンは、半壊しかけた壁に背中を預けながら、真剣な表情で意気込む。
メルヴェも、KNー12に弾倉を取り付けながら、二脚を床に起きつつ答えた。
そうして、二人が公園を眺めると、深緑色のHQー7自走型対空ミサイル車が走る姿が見えた。
これは、チィーナ製の対空兵器だが、防空用にデュカル通りを巡回しているんだろう。
二人は、そう考えた。
「照準を覗くと…………お? 見えてきたわ」
「どれどれ?」
メルヴェは、床で俯せになり、KNー12のスコープを覗いてみた。
ナタンも、望遠鏡の代わりに、狙撃銃用に使用されるスナイパー・スコープを目に近づけた。
そこでは、ビル屋上で、対戦車用ミサイルや携帯式対空ミサイルを準備する歩兵部隊が見えた。
さらに、ザンネ通りから、チィーナ製、09式自走対空機関砲が走行する姿が視認できた。
こうして、彼等は帝国軍・機甲師団を待ち構えた。
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