テントまで捕虜を引き連れてきた、フロスト中尉は、中に入って様子を確かめた。
「連れてきた連中を、洗脳改造して欲しいんだが? 責任者は?」
日陰の中に入った、フロスト中尉は、責任者である医務官や軍医を探す。
テント内は、もちろん暗く冷たい空気と湿気に満たされていた。
「私です、現在、空いているタンクは十四個ですが、全員を一度に投入しても、洗脳完了までは時間が掛かりますよ」
「構わない、それでは連中を頼む」
何人か存在する、バクテリエラー・ゾルダートが白衣を纏ったように兵士たちが存在した。
その中から、一人軍医が前に出てきた。
制帽を被っている事から、フロスト中尉は彼が責任者だと分かった。
「隊長、本当に勝手に増員していいんですか」
「他の部隊や上から制裁を科されるんじゃ?」
レオは、囚人の頭を引っ張りながら、ミアも同様に連中を引き連れながら話してきた。
「ラヴィーネ大佐が何とかしてくれるさ? それに、戦場じゃ一個大隊が、兵力をかき集めて、一個師団なみに増強される…………これは、よくある事だろ?」
そう言いながら、心配は要らないとフロスト中尉は話した。
「では、こちらに囚人を…………」
「分かった、さっさと入れっ!」
「ぐぅ?」
軍医の指示により、フロスト中尉は囚人が頭から被る白袋を剥ぎ取る。
その中から出てきた顔は、赤茶色に染色した、ドレッドボブヘアを持つ黒人女性だった。
「逆らえると思うなよ?」
「ヴェーー?」
フロスト中尉は、囚人女性の額に嗤いながら、MABーモデルDを突きつける。
そして、反抗しようとする彼女は、口をギャグボールで拘束されているため罵詈雑言すら吐けない。
「暴れないように、鎮静剤を射ちます」
「ああ、分かった…………頼むよ」
軍医は、注射器を黒人女性の首に打ち込むと、彼女はギャグボールから涎を垂らす。
こうして、大人しくなった彼女を、二名のバクテリエラー・ゾルダート達が、ポッドまで運ぶ。
その中に、彼女が運ばれると、白い拘束衣は外されて、両手両足が天井と足元に固定された。
胸と腰の部分は、後ろから黒い機械に拘束される。
また、口輪を外された彼女は、洗脳バイザー&黒いガスマスクを口に装着された。
上から伸びる黒いホースから媚毒ガスを吸わされた、彼女は恍惚の笑みを浮かべる。
それを見ながら、フロスト中尉は培養層から離れていく。
「レオ、ミア…………後は任せたよ? ネージュ、着いてきてくれ、二十三人か? 僕を容れると二十四人になる? これは部隊再編しないとな」
「了解、おら、入れっ!」
「はい、やっておきますっ!」
「フロスト隊長、了解しました、後で再編するように通達しておきます」
フロスト中尉は、レオとミア達に囚人連中の後処理を任せる。
そうして、次なる任務を行うべく彼は、ネージュ準尉を連れて、テントから出た。
「ん、なんだ、アレは?」
「旧式航空機と、護衛部隊の飛竜ですね?」
スカイクレーンと呼ばれる、Miー10ヘリが上空を飛んでいる。
その特徴的な長い足下には、黒いコンテナらしき物が抱えられていた。
まるで、足長蜘蛛やアメンボを思わせる機体下部の長足は車輪が着いている。
そして、下部からロープで吊り下げた、ワゴン馬車にも見える、それを地上に降下させた。
こうして、巨大ショッピングモールの一番手前にある駐車場に、物品は下ろされた。
「あの玉ねぎは、空挺礼拝堂だな?」
「と言う事は、従軍司祭が乗っているんでしょうか?」
ワイバーンに乗った、シュヴァルツ・リッターの護衛達とともに、Miー10は飛びさってゆく。
上空を飛翔していく、飛行部隊を見ながら、フロスト中尉は呟く。
ネージュ準尉も、降下された物体を見ながら、聖職者が登場するのかと注視する。
ワゴン馬車に見える、黒い車体中央の屋根には、正教会で使われる金色玉葱が着いている。
「新たな神の信徒となる者らは何処です?」
「ブラニミール高位司祭、まもなく到着します」
中からドアを開いて、高位聖職者らしき老人が飛び降りる。
白髭と白髪の老人聖職者は、蒼白い肌と淀んだ蒼い瞳を持つ。
服装は、正教会に所属する司祭らしく、真っ青なステハリに、首から紫色のオラリを垂らしていた。
その後を、黒服を着た部下たちが続くと、彼等は階段を取り付けたり、車体側面を広げたりする。
「さて果て、彼等は、どんな洗脳方法を取るのか、これは見物だな」
「いったい、どんな方法を取るのでしょうか?」
遠くに見える聖職者を、フロスト中尉とネージュ準尉たちは見守る。
すると、世界最大実用ヘリ、Miー26が、二機到着して、空挺礼拝堂の左右両側に降り立った。
それから直ぐ、どちらからも黒いBTRー94装甲車が飛び出てきた。
さらに、二両はトレーラーを牽引しており、その上には死体が山積みにされていた。
「よし、やろう…………」
ブラニミール高位司祭は、敵味方を問わず、様々な死体の山に、両手から紫電を放った。
その後、死者は次々と立ち上がり、ユラヤラと揺れ動きながら歩き始める。
「貴様ら、今は大人しくしておけ、来るべき時が来たら投入してやる」
揺れ蠢くゾンビに対して、そう命じると、ブラニミール高位司祭は両手を下げた。
それにより、死者の群れは大人しく、駐車場で体育座りをした。
「ふむ、凄い物だな? あのゾンビ達を敵軍に衝突させたら…………」
「一瞬で、我が軍は勝利しますね?」
死体が、ゾンビと化した瞬間を見て、フロスト中尉とネージュ準尉たちは驚嘆した。
「今度は、再び旧式ヘリが来たぞ」
「果たして、中から何が?」
Miー6大型ヘリが、アトミウム方面にある夜営テント左側に降下着陸した。
フロスト中尉とネージュ準尉たちは、興味を持って、ヘリの方へと歩いていく。
そんな二人から少し離れた前を、二頭の馬に跨がった騎兵隊が走ってゆく。
「オーレル師団長、キリアコス将軍ですねっ!」
「お待ちしていましたっ!」
機内後部ハッチが開くと、中から黒いフライトスーツを着た、二名の搭乗員が出てくる。
「本物の避難民たちの退避は、完了しているな?」
「コイツらは、たんなる市民なんだな」
「はい、軍警察関係者の家族は、既に疎開が完了しています、彼等は単なる市民に過ぎません」
馬から降りた、オーレル師団長は、騎兵湾刀フス・サーベルの鞘に手を掛けながら問い質す。
キリアコス将軍も、低く掠れた声で、市民の事を搭乗員に聞いた。
「あのう…………ここが戦地から離れた安全地帯なんでしょうか?」
「ここから、田舎に退避できると聞いたんですけど…………」
「ああ、そうだ、だから安心しろっ!!」
「これから、さらに後方に運んでやるからなっ!」
女性難民と男性難民たちが、不安げな表情で話しかけてきた。
みな、戦地から早く離れて、安全な場所に避難したい気持ちで一杯からだ。
しかし、そんな彼等に、いきなりオーレル師団長とキリアコス将軍たちが襲いかかった。
二人は素早く動き回り、次から次へと民間人に噛みついていく。
「ぎゃああああっ!?」
「ぐああーーーー!!」
突如、二人が暴れだした事で、何十人も居る避難民たちはパニックを起こす。
「グルルッ! さあ、増えろっ!」
「このまま数を増やせっ!!」
オーレル師団長は、騎兵科の将らしく、黒い野戦帽を被っている。
服装は、ファー型の大きな襟が付いた黒い軍服コートを左側から垂らす。
また、下には青い肋骨服《ドルマン》に金色の装飾が施された物を着ていた。
一方、キリアコス将軍は、青目で濃い顔をした、茶色い短髪の中年男性だ。
制帽を被り、軍服コートを羽織っている普通の将官が着る服装をしている。
「ぐああ~~~~!? グルルゥッ!!」
「いやあーー! ぐおっ! グオーー!」
「奥へ行けっ! 急っ! があっ!?」
「きゃああああ~~~~~!?」
押し合い、へし合いを繰り返しつつ、機内の奥に逃げようとする避難民たち。
しかし、獣化した、オーレル師団長に噛まれた者はワーウルフと化す。
また、キリアコス将軍の爪で、引っ掛かれた難民は、ゾンビに変化する。
そうして、どんどん感染しながら民間人を全て、アンデッドに変えてしまった。
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