どの道を選択しようかと、一人悩むウェストに、右からハキムはかけた。
「どの道繋がっている…………のか? なら匂ってこない、カタコンベを通るか」
「だ、そうだ…………皆聞いたな進むぞ」
ウェストが皆に指示を出すと、ハキムも、仲間達に着いてこいと指示を出して歩き出す。
こうして、彼等は、中世から現代までの死者が遺体として眠る地。
静まり返る、地下墳墓《カタコンベ》の中へと入口を通り入って行った。
入口から奥へ行くと、そこには鉄製で赤錆ている、塗装が剥げ掛けた緑色のドアが存在した。
それを、ナタンが右手に握る、MASー1935の銃口を向けながら開く。
すると、中からは微かにヒンヤリとした、気味が悪い風と冷たい湿気の匂いが漂ってきた。
「ナタン、レギナ、メルヴェ、ハルドル、済まないが先導してくれ」
「分かったわ、私とナタンが先導するからレギナ、ハルドル達は後ろから援護してっ」
帝国警察隊員に変装した、四人へ皆の先導を頼む、ウェスト。
彼から指示を聞いた、メルヴェは他の三人に早く動くように急かす。
「また僕が前か…………」
「何か言った?」
溜め息を吐きつつ、再び自分が先導役なのかと、ナタンが愚痴る。
その一言を聞き逃さなかった、メルヴェは、彼の方へと冷たい表情で振り向いた。
「いえ、何も…………」
「そう…………なら良いのよ、私達には愚痴る時間も無いんだからね?」
ナタンは、メルヴェの凍てつくような真剣な強い眼差しに気圧《けお》されて焦り、口ごもってしまう。
彼女は、そんな彼の様子を、呆れた顔で見下すような冷たい視線を向ける。
それから、彼女は時間が勿体ないと話す。
「おい? 痴話喧嘩は良いから先に行くぞ」
「イチャつくのも良い加減にしろっ!」
「全くだわ、いくら中が良いからって…………」
「二人共、呆れるわね」
ウェスト、ハキム、レギナ、サビナ達。
四人から次々と文句を言われてしまった、痴話喧嘩中の二人は、恥ずかしさで顔を紅潮させる。
「メルヴェ、先導しよう…………」
「そ…………そうね?」
皆の呆れた視線が突き刺さる中、ナタンとメルヴェ達は開かれた、カタコンベ内へと無言で進んだ。
カタコンベの内部は、静寂に包まれており、とても人気は感じられなかった。
また、ここは先程の微かに吹いてきた、風と同じく、僅かに湿気が混じった、冷たい空気が漂う。
MASー1935を両手で構えた、ナタンを先頭にして、彼の背後からメルヴェが続く。
彼女は、ティルク製のMKEKーMPT小銃を構えつつ、カタコンベ内を慎重に進んで行く。
『ガサガタッ!?』
「敵だわっ!!」
メルヴェは、咄嗟に聞こえてきた音に反応して、MKEKーMPTを、音のした方へと向けるが。
そこには、何の変哲も無い、鼠が一匹居ただけであった。
「チュッチュウ、チュウッ!」
メルヴェから銃口を向けられた、鼠は驚きの余り走り出す。
そうして、自らの小さな身体に、銃口が重ねられる前に慌てて逃げ出して行った。
「何よ? 脅かさないで、ちょうだい…………」
「鼠だったか?」
銃口を向けた先に居た者が、まったく害の無い、鼠であったことに安堵した、メルヴェ。
それに、安心した彼女は、口から溜め息と共に愚痴を溢した。
隣で、彼女を援護しようとした、ナタンも逃げる鼠の鳴き声を聞いた。
それで、彼も敵では無かったのかと、ホッと胸を撫で下ろす。
壁づたいに走り、鼠が暗い影の中に消えて行くと、十人のレジスタンスは、再び奥へと向かう。
その道中には、蜘蛛の巣が彼此に張り巡らされており、非常に気味が悪かった。
しかも、蜘蛛の化け物である、アラクネでも、出てきそうな雰囲気に包まれていた。
それから、邪魔な蜘蛛の巣に被われていた、無機質な灰壁が終わる。
すると、広々とした空間にまできた、十人の前には石製で作られた、柩が無数に並べられていた。
彼等は、ついに死者が眠る黄泉の国へと足を運んできたのであった。
そして、恐る恐る柩の間を緊張しながら歩く、ナタンとメルヴェ達。
その後に続き、レジスタンスの仲間達は進む。
向こう側に見える、別の墳墓へと繋がる、アーチ型出口へと、彼等は向かう。
彼等が通る、不気味な墳墓は、ここ以外にも多数地下に存在する。
一部は、観光客向けに解放されていたりするが、殆んどは、手付かずのまま放置されていた。
ここにも、多少は彼方此方《あちらこちら》に蜘蛛の巣が張られている。
そして、カタコンベ内に漂う、暗く不気味な雰囲気とともに、蜘蛛が歓迎した。
いきなり入ってきた、余所者である、レジスタンス達十人だが。
彼等を、ここには既に存在しない、柩で眠る、死者達の魂に代わって出迎えたわけだ。
『…………本当に不気味な場所だ…………お化けが出て来ても可笑しく無いな…………』
『…………誰か隠れて居ないかしら? 何か気配を感じるわ? 気のせいかしら…………気のせいなら良いんだけど…………』
ナタンとメルヴェ達は、柩内や隣にある墳墓へと繋がる出口の暗闇に、鋭い視線を向ける。
また、いつ何処からでも、帝国兵や帝国警察が襲ってきても対応出きるように気を張る。
こうして、二人は警戒を怠らず、柩の間を通って慎重に進む。
『…………僕が先に行くっ! 後に続いてくれ…………』
『…………分かったわ…………後に続くわよ…………』
ナタンは、FAーMASライフルを構えると、隣の墳墓内に突入しようと、壁に張り付く。
そして、メルヴェに向かって、かれが目配せをすると、意思を理解している彼女も動きだす。
走り出した、彼の後に続くべく、彼女もMKEKーMPTライフルを構えて待機する。
『…………今だっ! …………』
『…………行くわよ…………』
意を決して、墳墓内部に素早く突入した、ナタン・メルヴェ達。
二人の前には、やはり誰も居らず、ガランとした、空間が広がっているだけであった。
また、そこにあった物は、中身が空の柩が無数に並べられているだけで、他に怪しい姿は何も無い。
「誰も居なかったか…………」
「どうやら、その様ね?」
隣の墳墓にも、誰も居ないことを確認すると、銃を下ろす、ナタンとメルヴェ達。
しかし、彼等はそれでも警戒を怠らず、ゆっくりと柩の間を通る。
そうして、墳墓内を敵の伏兵が潜んで居ないかと、調査する。
ナタンは、左側の壁際を通って、柩に目を配り、内部に、敵が息を殺して身を隠して居ないか。
罠として、どこかに即席爆弾《IED》が仕掛けられてはいないか。
一つ一つ丁寧に、彼は視線を向けて歩いていく。
蓋を開いて、中を調査しないのは、開けた途端、罠が作動して爆弾が爆発するとか。
蓋の裏に仕掛けられた、クロスボウ・ショットガン等による、矢と散弾を使った射撃など。
さまざまな不意打ち攻撃を、警戒してのためである。
メルヴェは、右側の壁際を通り、墳墓内に設置されている柩だけに目を向けない。
灰色の壁や地面と天井にも、彼女は気を抜かず、鋭い視線を向けて歩く。
壁からは壁を崩して、オーガーが飛び出して来ないか。
地面からは、グールが蓋を開いて、口から毒ガスを吐いて、科学攻撃しないか。
そして、天井からはソーサラーが幻術を仕掛けて、混乱させようとしないか。
と、彼女は警戒心を解かず、何に対しても疑念を向けつつ、墳墓内を進む。
「怪しいと思ったけど、やはり誰も居なかったな…………でも居そうな感じはするんだよな」
「そうね、でも奥の墳墓にも敵が潜んで居るかも知れないから警戒心は解かないで」
「そうそう、敵は居るかも知れないからね?」
ナタンとメルヴェ達は、墳墓内に敵は居ない事を仲間達に伝えようとする。
だが、墳墓へと続く、アーチ型出口から側にある柩の蓋が、いきなり開かれた。
それが、音を立てて動き、そこから誰かの声が聞こえてきた。
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