「先生? どうしたの…………」
「先生に何をしたんだっ!」
メルヴェとナタン達は、別人のように、無表情な顔で両手を腰に着ける、フィーン先生を心配する。
だが、背筋を伸ばした、彼女は無言で気を付けの姿勢を続けるだけだ。
「彼女は帝国の兵士として既に洗脳済みって訳だよ、そうだねっ? ネージュ准尉」
「はい…………フロスト中尉、私は偉大なる帝国の一兵士として、この身を一生捧げます…………」
妖しく冷たい笑みを浮かべる、フロスト中尉は、フィーン先生を、既に洗脳していた。
こうして、彼女を帝国に忠実な改造人間、ネージュ准尉へと、人格を改竄していたのだ。
「スネージュ准尉…………洗脳改造車両じゃあ子供達を全員収容できないから? 総合病院に連れて行こうか?」
「はっ! 彼処の地下室なら大勢の子供達を収容できますっ! それに総合病院ならば101号室も有りますので大規模な洗脳も行えますからね」
フロスト中尉とネージュ准尉たちは、子供らの処置について話し合う。
それから、ナタンを含む大勢の生徒達に向けて、催眠ガスを使うように兵士達に命じる。
「兵士達諸君…………子供達を催眠ガスで眠らせて上げてくれ、あははっ! 皆、良い夢を見るんだよっ?」
「ふふ…………眠りから覚める頃には帝国の未来を担う兵士として産まれ変わっている事でしょうね」
フロスト中尉とスネージュ准尉たちは、怯える生徒達の前で、さらに不穏な言葉を吐く。
また、命令された帝国兵たちは、ジュース缶みたいな形をした催眠弾を投擲した。
こうして、催眠ガスを体育館に撒き散らし始める。
ブシュワ~~と白い煙が体育館内に充満して、その煙を吸い込んだ、生徒達は床に倒れていく。
そして、ナタン達も煙を怖がるが。
「嫌ぁっ! イヤーー!!」
「くそっ! やられて堪るかあっ!」
帝国兵から銃をつきつけられている、ミアは催眠を怖がり、レオは催眠ガスから逃れんと暴れだす。
「ぅっ! ん? …………ガ…………」
「ガスがっ! ここま…………」
催眠ガスは、やがて、ナタン達を徐々に包み込むように迫る。
カルミーネとベーリット達は、ガスを吸い込んでしまい、意識が混濁し始める。
「カルミーネッ! ベーリットッ!」
「二人とも、大丈夫っ!?」
深い眠りに陥った、二人を心配する、ナタンとメルヴェ達。
だが無情にも、ガスは彼等に迫り、意識を刈り取ろうとするが。
その時、とつぜん体育館が揺れ動き、天井が崩れたかと思うと、ヘリコプターが墜落してきた。
数人の生徒達と帝国兵たちが、崩落した天井と、ヘリコプターの下敷きに成ってしまう。
また、風圧で催眠ガスは霧散してしまい、突然の事態に、帝国兵たちは混乱する。
「何が起こったんだっ!?」
「中尉っ! 子供達が逃げてしまいますっ!」
フロスト中尉とスネージュ准尉たちは、何が起こったのかと混乱する。
その間に、ナタン達ガスを吸わなかった生徒達は、一斉に逃げ出し始める。
「今だっ! お前らぁーー!! 走れぇぇーーーーー!?」
「逃げ出すなら今よっ!!」
走り出した、ナタンに続き、遊び仲間達や他の生徒達も走り出し、体育館からの脱出を図る。
「逃がすなっ! 早く催眠弾を投げて捕まえろっ!」
「待て、発砲は禁ずるっ! 子供達を絶対に撃つなよっ!」
スネージュ准尉とフロスト中尉たちは、そう部下らに命令を下す。
これにより、兵士たちは近くに居る逃げ惑う、生徒達を格闘術を使って捕まえようとする。
逃げ出そうとする者達は、押し倒されたり、足払いを掛けられて、次々と倒されていく。
「ナタンッ!? カルミーネとベーリットが逃げ遅れてる運んでやろうっ!!」
「分かったレオ、奴等を置いては行けないからな」
ナタンとレオ達は、ガスを吸い込んでしまった、カルミーネとベーリット達を背負って走り出す。
だが、彼等が目指した場所は、渡り廊下へと続く、体育館の入り口ではなく。
ヘリコプターが墜落してきた時に崩れた、壁を目指す。
「ナタンッ! レオ、待ってっ!!」
「ミア、早く走って、でないと奴等に捕まるからっ!」
「もうすぐで、出口だっ! みんな頑張れっ!」
「もう帝国っていったい何なのよーー! 何で、こんな酷いことするのーー?」
ミア・メルヴェ・キーラン・レギナ達は混乱する体育館の中を、ナタンとレオ達に着いていく。
こうして、彼等は難を逃れようと、ひたすら必死に走る。
「カルミーネ、ベーリット? お前らは無事に運んでやるからな?」
「ナタンッ! 後ろから奴等が来てるっ!」
レオの一言に、ナタンは一瞬振り向き、自分達を追い掛けて来る帝国兵たちを見た。
さらに、その中で指揮を取るフロスト中尉を一瞬だけ、チラリと視認した。
そして、彼は捕まったらヤバイと思い、クルリと踵を返して、出口を目指して再び走りだす。
「追えっ! 逃がすな! こうなっては仕方がない? 多少は手荒な手を使っても構わないっ! だが殺すなよ」
「了解しました、中尉」
「了解…………」
「了解っ!!」
フロスト中尉は、命令を下して、スネージュ准尉や兵士達と共に素早く走っていく。
彼が率いる部隊は、崩落した壁を目指す、ナタン達を追い掛ける。
「壁までもう少しだっ! 皆諦めるな」
「あっ!?」
ナタンが皆を励まそうとして叫ぶと、急にレギナが、体育館の床に倒れてしまう。
「レギナ、今助けるっ!! キーラン、ベーリットを頼む」
「預かるのは分かったが、お前、まさか?」
レオは、背中に背負っているベーリットを、後ろに居るキーランに預けた。
そして、自らはレギナの手を取り、立ち上がらせた。
また、彼女を庇うようにして、フロスト達帝国兵の前に立ちはだかる。
「レギナ! 行けっ!!」
「有り難う、レオっ! でも貴方は…………」
レギナは心配そうな顔で、レオに礼を言うと、自身はどうするのかと質問したが。
「良いから行けっ! ここは俺が食い止める…………ナタン、皆を頼んだぞっ」
「レオっ! ふざけるなっ! お前も来い、皆で逃げるぞぉっ!」
レオは、みんなの事を親友であるナタンに託して、自らは振り向く。
そして、正面に立っていた、フロスト中尉に右手の拳を強く握り、勝負を挑む。
「くたばりやがれっ! 偽教師ぃぃーー!」
「くたばるのは君の方さ…………」
レオが放ったパンチを、フロスト中尉は軽く交わしてしまい、逆に彼の拳を左手で掴む。
次いで、溝内に強烈な一撃を叩き込む。
「仲間を守る為に自ら犠牲に成るとはね? レオ君は中々勇気が有るねぇ~~どうだい? 僕の部下に成らないかい? 悪いようにはしないさ」
「誰…………がっ! お前っ!?」
自らの左手で、腹を押さえて苦しむ、レオは前に倒れてしまい、膝をついてしまう。
フロスト中尉は、彼の右手を掴んでいる左拳に更に力を入れる。
こうして、痛みに耐えようとしている、彼の頭を踏みつける。
「あははっ! それじゃあ~~レオ君は、おねん寝の時間だね? くぁーー! ガブッ!」
フロスト中尉は、レオの体を抱くようにして首筋に噛み付き血を啜る。
「つっ!? うぅぅ~~~~? うぐ…………」
「今は痛いだろうが、直ぐにそんな事も考え無くなるさ」
レオは、首筋に鋭いナイフが深く突き刺さったかのような痛みを感じる。
しかし、彼はナタン達が脱出したか、確認しようと首を動かす。
そうして、ヘリコプターが墜ちて出来た、穴の方へと視線を向けた。
「…………」
そこでは、ナタンが背中に、カルミーネを背負っていた。
彼は、体育館の壁が崩れてできた出口から、こちらを心配して見ていた。
「行けっ! 行…………て? れ、ぇ?」
「ぷはあーー! ああ~~美味しかったな?」
首筋から赤黒い血を流し、ガクリと項垂《うなだ》れる、レオを抱き抱えた、フロスト中尉。
そんな奴を睨みつけながら、ナタンは穴から脱出して行った。
「逃げ切ったか? まあ良いさ、どの道僕ら帝国の追跡からは逃れられないからね…………」
フロスト中尉は、レオを抱き抱えながら、何処かへと向かって行った。
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