【暗黒騎士団VS反逆のレジスタンス】 吸血鬼アンデッド軍団と最後の人類は、たった一人でも戦う

レジスタンスは今日も戦う
デブにゃーちゃん
デブにゃーちゃん

第125話 階段を出ると真っ白な世界へ

公開日時: 2024年7月10日(水) 20:31
更新日時: 2024年7月13日(土) 11:37
文字数:3,277


「クゥ~~」


「スピーー」


 微かな寝息が、暗く冷たい地下防空壕の階段で聞こえる。



「呑気な奴らだ、これから洗脳改造室に連行されると言うのに…………」


「ハハッ! だな、全くガキの癖に帝国に逆らうから罰が下るんだ」


 帝国兵である、トーテン・シェーデル・ゾルダート達。

 彼等は、自分たちの背中で安らかに眠り続ける兄妹の寝息を聞くと、二人して呟く。



「おい、もうすぐ外だ…………そいつ等を背負ったまま、トラックにまで行ってくれよ」


「了解です」


「分かりました」


 黒髪ワーウルフは、帝国兵たちに、安眠している子供たちを運ぶように頼んだ。



「明るいな?」


 黒髪ワーウルフの言った通り、ナタンが上を向くと、白い光が見えた。



「白い光? 外は真っ白な世界か…………」


「それも、白銀のねーー」


 階段上方を見た、ナタンは若干の眩しさを感じて、目を細めて呟く。


 その直ぐ後ろを歩く、イラクリも同様に目を瞑って、歩いていく。


 地下防空壕への入り口は開いているらしく、外からは冷たい風が少しずつ入り込んでくる。



「白銀か?」


 一言呟いた、ナタンは心の中で暖かい春景色を思い浮かべる。



『…………白銀よりも青い空と明るい太陽の方が嬉しい…………それに溢れんばかりの緑が恋しいよ…………』


 春の暖かさを思いだし、ナタンは冬景色を見て、もう見飽きたと感じる。



「ようやく外か」


 そう呟きながらも、さっきから春の季節を懐かしんでいる、ナタン。



『…………生温かい風が吹かないかな? …………』


 だが、ナタンが地下防空壕内から出てみると緩やかな坂があった。


 そこを上がると、忌々しく感じる冬景色が入口の外側には広がっていた。


 それに、冬の寒さと白い風景だけではなく、帝国軍兵士たちと装甲車両も多数あった。



 さらに、周りは巨人の如く、聳え立つ、コンクリート・ビルに囲まれている。


 ここは、どうやら広い駐車場の端らしく、辺りは雪に覆われていた。



 コの字型に、周りを高層ビルに囲まれた、ここは、地下より空気は寒い。



『…………駐車場の真ん中に入り口があったのか…………』


 ナタンは背後を見たが、そこに存在する光景は周りと同じく、高い青色のビルだ。


 ビルを見れば、正面真下にある玄関手前に、地下防空壕の入口へ通じる坂があった。



「やっと、外に出られたな」


 入り口から出たばかりのナタンは、外に広がる世界を見ると、不意に小さな声で呟く。



「急げ、二番隊に負傷者が出たぞっ!」

 

「三番隊は、捕虜を捕まえたそうだ」


「衛生兵っ!! 衛生兵は何処だっ!!」


「ドローン指揮車が破壊された、修理不能」


 辺りは、騒々しく走り回っている、帝国兵達で一杯だった。


 ナタンは、周囲で忙しそうに動く、連中の中に混じってしまおうかと考える。



 そうすれば、どさくさに紛れて密かに消え去る事ができるからだ。



 音もなく、また、気取られずに自然と姿を消す。



 ここは見ての通り、戦闘による攻撃で、兵士達が慌てふためくほど、ひどい混乱振りだ。


 今のナタンに取っては、正に打ってつけと言った状況なわけだ。



「負傷者を連れて来たぞっ!」


「手当てしなくては」


「早く台に載せろっ!!」


 右側にあった、黒い軍用救急車の側で、オーガーが、帝国兵達を二名も担いでいる姿が見えた。


 その側では、衛生兵らしき格好をした、リッチ達が、負傷者たちに駆け寄る。



「捕虜を回収してきた」


『…………アイツ等は? 向こうに行ったか…………』


 一方、ともに階段を上がって来た、黒髪ワーウルフを含む帝国兵たち。


 連中は、ナタンから遠く離れた場所に行ってしまう。



 連中が向かった、駐車場・右側には、多数の軍用車両が並ぶ。



 BMPー3装甲車とウラルー4320トラックが、一台ずつ横に並んで停車している。


 その後ろには、三台のBRDMー2装甲偵察車が乱雑に集まって停車していた。



「ここは、ビル街だからな」


 BMPー3装甲車とBRDMー2装甲偵察車の砲塔や銃塔は、斜め上に向けられている。


 そして、敵の襲撃を警戒しているのか、左右上下に砲身や銃身を動かしている。



 こう言った、奇襲を予測している軍用車両を見て、ナタンは呟く。



「レジスタンスとの戦いで、こうなったのか」


 よく見れば、複数の軍用トラックやBTRー80が炎上したり、破壊された姿が確認できた。


 駐車場・周辺に散らばる、それ等の残骸を見て、ナタンは呟く。



「温かいな…………」


 未だ消火されておらず、燃え盛る炎がパチパチと音を立てる何らかのトラックだった残骸。


 駐車場の左側で、姿が見えぬほど、激しく炎上する装甲車らしき物体だが。



 それを目にすると、ナタンは何気なく近づいていき、様子を確かめる。



「テロリスト共め、奇襲を仕掛けてくるとは」


「次も、いつ仕掛けて来るか分からんなっ!」


 燃え続けるトラックの側で、消火剤入りタンクを背負う、オーガー。


 その後ろで、三つも消火器を背中に背負う、シュバルツ・リッター。



『…………この混乱振りなら楽に逃げられるな…………』


 ナタンは走りだし、左側の方から駐車場を出て道路に向かって行く。


 その間にも、帝国兵達は走り回っていたが、誰も、ナタンを気にしない。



 何故なら、連中は負傷者や捕虜の後送を行わねば成らないからだ。



『…………これなら行ける…………』


 ナタンは、歩道左側を進みつつ、道路の真ん中に目を向ける。


 そこには、横転したまま荷台のキャリバーM50重機関銃を、空に向ける茶色い軍用車両がある。


 アルメア軍を中心に、世界中で使用される、ハンヴィーがある。



 また、紛争地帯でよく見かけ、レジスタンス達も頻繁に使うピックアップ・トラック。


 ジューポン製、白色のトヨタ・テクニカルがあった。



「うぅ…………た、助けてくれ?」


『パンッ!』


「お願いだ、殺し…………」


「連れていけ」


 路上でも、帝国兵達は戦闘の後処理を行うために、大忙しだ。


 何故ならば、赤い血だらけの森林迷彩服を着たレジスタンス員達が、二名も居たからだ。



 そして、横転していた、テクニカルの下敷きに成っていた、黒人レジスタンス員が撃ち殺された。


 銃殺を行った、野戦帽を被る帝国軍下士官はMP5の銃口を下げる。



 もう一人の白人レジスタンス員は、名誉ある死を望んだが、無情にも連行されてゆく。


 下士官は、彼の願いを聞いたにも関わらず、銃殺しなかった。



 その理由は単純であり、帝国側は戦力を強化するために、常に白人捕虜を求めているからだ。



「頼むっ! 俺を死なせてくれぇ~~!!」


『…………このままでは、彼も洗脳されてしまう…………だが、今は…………』


 二名の帝国兵達から手錠を施されてしまい、連れて行かれる、白人レジスタンス員。


 そんな彼を、遠目に見ている事しか、今のナタンには出来ない。



 何度も目にした光景だが、やはり何時までも見ていては気分が悪くなる。


 だから早く、自らの仲間の元を目指して進むべく、彼は顔を剃らして歩き出す。



『…………急ごうっ! メルヴェ達が心配だ…………』


 前を向いた、ナタンは横転したままになっている、テクニカルの橫を通り抜けようと歩道を歩く。



「待て…………貴様っ? 何処へ行くっ!」


「いつ? っと…………」


 背後から聞こえる、ドスの効いた、女性が発する低い声に驚いた、ナタンは振り返った。


 急ぎ振り向いた、彼の眉間は細い杖によって軽く小突かれた。



 そこに居たのは、女性士官だ。



 彼女は、ラベンダーグレイ色ウシャンカ帽を被り、襟元が白色の黒いロングコートを着ている。


 足には、黒い乗馬用ズボンと、黒いロングブーツを履いていた。



 ペール・ホワイト・リリーとミルク・ホワイト色が混ざった、マッシュボブヘアは、微かに揺れる。


 クラウドブルー色のアイシャドウが塗られた、ゼニスブルー色の丸い瞳は、かなり眼力がある。


 プルンと膨らんだ、アクア・マリン色の唇は、怒りに歪んでいた。



『…………不味いな? …………』


 見た目は美女だが、同時に魔女だと、ナタンに思わせる帝国軍の女性士官。



「お前は見ない顔だな、その真っ赤な血は何だ? 変装した、テロリストか?」


「い、いえ? 自分は…………」


 フォイルスニェーク大尉から演奏指揮者の指揮棒《タクト》を向けられた、ナタン。


 彼は、思わぬ質問に焦り、ただ慌てて答えに困るしかなかった。

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