自動車の残骸や大型バス車内から、レジスタンス員達は、自動小銃や汎用機関銃を撃ちまくる。
どうやら、連中はAK47を持つ歩兵隊を中心に、必死の抵抗を続けているようだ。
PKやRPDの射手も、弾丸を途切れなく、ひたすら放ってきている。
そんな中、ナタンとプリンス達は、その攻撃を、自動車に隠れながら密かに観察している。
「密かに近づくのか」
「そうしよう、迂闊に攻撃したら蜂の巣にされるかも知れないからな…………」
プリンスの問いに対して、ナタンは適当な理由を考えて答えた。
もちろん、それは嘘であり、真の目的は今直ぐ戦場から離れて、姿を眩ます事だ。
「通りの様子は…………」
ナタンは、反対側に位置しており、レジスタンス部隊に反撃している帝国軍部隊へと目を向ける。
そちらでは、ティーグルM装甲車が二台正面を向いて止まっていた。
また、車両裏や周辺ビルの陰からは、帝国軍兵士たちが、自動小銃を連射している。
しかし、レジスタンス側の方が、汎用機関銃があるためか。
やはり、火力と制圧力が高く、ここでは帝国軍側が圧されている。
「…………どうする? 行くか?」
「ああ…………援護してくれ、ビルの中から連中の背後に回り込むっ! 行くぞっ!」
プリンスの問いに、ナタンは答えたかと思った瞬間、直ぐに動きだす。
こうして、彼はビルの中から、レジスタンス達が陣取る要塞バリケードと化した裏手に回る。
それならば、今自分たちが隠れていた、ビルから室内を通って行けばいい。
だが、彼が走りだし、ワザワザ反対側にあるビルを目指したのは理由がある。
「って、あっ? たく…………分かったぜ」
ナタンが走り出した直ぐあと、プリンスは右手に握る、バルチエフ拳銃を素早く何発も撃つ。
「やばい、味方に撃ち殺されちまう」
レジスタンス達の激しい攻撃に晒されながらも、ナタンは通りを走りきる。
「向こうに、一人行ったぞっ!!」
「それより、あっちにも一人撃ってきてるっ!?」
レジスタンス達は、ナタンとプリンス達の存在に注目し始め、新たに現れた的に制圧射撃を加える。
「ぐあっ!?」
レジスタンス側の集中攻撃が、プリンスが隠れているビルを削り、弾痕をいくつも作っていく。
「うわわっ!! こっちを狙って来やがったか…………あの野郎は? …………無事か?」
スコールのように浴びせられる銃撃に、プリンスは直ぐに、ビル陰へと身を隠す。
そして、ナタンが無事に反対側にあるビルへと、たどり着けたか見て見るが。
「…………無事だ」
ナタンは、小さく呟きながら左手の親指を立てて、プリンスに見せた。
それから、直ぐ彼はビルの茶色いドアを開けて、中に入った。
ここは、どうやら一階が宝石店だったらしく、様々なアクセサリーが並ぶ。
赤や緑などもあるが、青色の宝石が数多くショーケースに入っている。
だが、中には、ガラスや宝石類が割れたり、床に散乱している物もある。
「激しい戦いで、ここも荒らされたか」
ナタンは、そう呟きながらも店内を歩いて、レジスタンス達が陣取るバスを目指す。
ーーのではなく、左側にあるカウンターを越えて、そそくさと奥へと向かって行く。
「ここを出ていけば…………後は、レジスタンスに合流するだけ」
ナタンは、呟きながらも足早に店内を歩いて通りに出ようとする。
そして、彼が店奥にあった、両開きのドアを開けた途端。
「っ…………!?」
背後で大きな爆発音がしたので、ナタンは一瞬自分が開いた、ドアには罠が仕掛けてあったか。
それにより、ブービートラップが作動してしまったのではないかと思った。
だが、後ろを振り向き、窓から店の外を眺めると、何人か帝国軍兵士たちが走る姿が見えた。
その中には、RPGー7、カールグスタフ無反動砲などを、肩に担いで走る兵士も存在した。
「バスは、丸ごと破壊されたのか?」
戦いが終わった事に安堵しつつも、ナタンはプリンス達が来ない内に立ち去ろうと通りに出る。
「急げ、三番隊は警察署に向かう」
『CP、次の指示を乞う…………』
「味方の負傷者は? 戦利品は?」
「捕虜なら居ない、ここは死体だらけだよ」
ここは、既に帝国側が制圧したらしく、彼方此方《あちらこちら》に帝国軍兵士と警察特殊部隊員たちの姿が見えた。
「…………不味いな、早く行かないと?」
ナタンは、なるべく敵中を静かで目立たないように歩いていく。
帝国軍兵士たちは、走りながら何らかの黒い装甲車に向かっていく。
黒と青に塗装された、パトカーの側では帝国警察特殊部隊員が無線機を使う。
衛生兵であるリッチが叫ぶと、疲れたような顔で、ワーウルフが答える。
「…………負傷者は無しか? 敵も味方も死体になったのか?」
この場所でも、熾烈な戦闘が繰り広げられていたと思い、ナタンは暗い顔になる。
そんな中、何気ない顔で歩く彼の耳に、奇妙な声が聞こえてきた。
「おーーい? 誰か助けてくれっ!」
「…………生き残りが居たのか?」
灰色の瓦礫山から声が聞こえ、さらに青い血液を出血させた右手を出している。
おそらく、負傷者が居るに違いないが、ここで助けないと、自分が怪しまれてしまう。
そう思った、ナタンは負傷者を救出する事にした。
「よいしょ、よ…………」
ナタンは、瓦礫を一つずつ取り除き、負傷者の顔を見た。
「は…………!?」
「有り難う、いや~~助かったぜ~~」
瓦礫の下敷きになっていた人物を見て、ナタンは驚く。
「あと、少し右手を引っ張ってくれないか?」
『…………不味いっ! な、なんで、ここにレオが…………』
レオが現れた事に、不味いなと思うナタンだが、顔を見られないように帽子を深く被る。
「…………わ、わかった、今やる」
少し声色を変えて、ナタンはレオの右手を強く引っ張る。
「…………悪いな、ナタン、助かったぜ?」
「…………はっ!?」
レオは、ナタンの正体を見破ったらしく、いきなり彼を呼んだが。
「あっ! しまったぜ、いや、あんまり知り合いの奴に似てたからな」
「…………そ、そうだったんですか?」
レオは、そう言いつつ、煤《すす》けた両目を、左手の袖で拭った。
どうやら、彼は瓦礫の下になっていた事で、まだ周りを良く視認できないようだ。
「レオ、そこに居たのか? 全員、向こうに集合しているぞっ!」
「カルミーネッ! いや~~敵のグレネードが、俺の頭上で炸裂しちまってよっ! そんで、今まで瓦礫の下敷きよ?」
遠くにある、ティーグルM装甲車の車上に立っている、カルミーネは叫ぶ。
それに、レオは自分が瓦礫の中に埋もれていたと恥ずかしげに語った。
「…………んな事は、いいから早くこいっ!」
「そうよ、フロスト隊長が新米隊員を連れて来たんだから?」
カルミーネは再び叫ぶと、その背後からベーリットも現れる。
「分かった、分かったよ…………おい、アンタに礼を言わなくちゃ? アレ? 何処に行ったんだ…………」
「レオ、早くしろ」
いきなり消えた、恩人の姿を探すレオだったが、それを、カルミーネは叱る。
彼等が、そうこうしている間に、ナタンは近くのビルへと、密かに入って行った。
「ふぅーー!」
大きな溜め息を吐いた、ナタンは外から聞こえる旧友たちの声に耳を傾ける。
こうして、彼はどさくさに紛れて、目立たぬように戦場から離れようと歩き出す。
また、彼はビルの奥にあるドアへと向かう。
それを拓いた途端、複数のレジスタンス員たちが死体として、彼を迎えた。
「ぐっ! 帝国兵…………」
「あっ!」
しかし、一人だけ瀕死状態で背中をドアに預けて、ナタンに拳銃を向けるレジスタンス員が居た。
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