ある日、天気は快晴であり、気持ちいい温風が漂う午後のハンザは平和な日常が続いていた。
「しまった、見つかったかっ!?」
「早く逃げましょうっ!?」
屋根の上を、ガタガタと金属音を鳴らしながら、ナタンとメルヴェ達は、素早く駆け出していく。
やがて、キョロキョロと左右に目を動かして、二人は銀色に光る梯子を見つける。
屋根の隅に設置された、そこから下に降りて、彼等は工場・敷地内へと降り立つ。
「次はアッチだ」
「あのドアね」
ナタンとメルヴェ達は、好奇心と絶対に、四人に捕まりたくないと言う気持ちに駆られる。
こうして、工場の建物内へと、彼等は急いで入ってしまった。
「…………アイツ等、入っていきやがった」
「後で、大人達に怒られないと良いけど…………」
二人の様子を、工場側に停まった、銀色トラック後部ドアから見ていた、レオとミア達は呟く。
そんな事など知らない、ナタンとメルヴェ達はと言うと、どんどん工場の奥に入っていってしまう。
こうして、彼等は山積みにされた、ワインが詰められた、ダンボール箱の裏へと隠れた。
そこは、狭い室内であり、幾つものワイン用箱が、きちんと分けられて置かれていた。
「はぁ~~? ここまでくれば、奴等も追っては来ないよな?」
「どうかしら? 取り合えず休みましょう…………」
ダンボール箱の山に、背中を預けて休む、ナタンとメルヴェ達だったが。
彼等の目に、ふと一つだけ開かれた、ダンボール箱が目に入った。
それを怪しむ、二人は中身を調べようと、恐る恐る、ダンボール箱に近づこうとするが。
「誰か来たのか? バタバタと足音がしたようだが」
「気のせいだろう、それよりもさっさと、武器を仕舞おうか」
「ああ、見つかったら大変だからな」
そこに来たのは、友達四人ではなく。三人からなる作業着を着た、工場労働者たちであった。
彼等は、狭い室内へと並びつつ、さらに喋りながら入ってきた。
この大人たちに見つかると、ナタンとメルヴェ達は不味いと思った。
二人は、物音を立てず、素早くダンボール箱の裏へと身を隠した。
『…………武器? 彼奴らはテロリストか? それとも、マフィアか? …………』
『…………怪しい連中ね? これから、ここで何をしようってのかしら? …………』
三人の男達を、ナタンは犯罪者だと思い、メルヴェも、彼等を怪しいと思いつつ様子を探る。
「よし、銃をしまったら、また製造作業に戻るぞ」
一人の男が、ワインが仕舞われている、ダンボール箱を開いて、そこから取り出した物。
それは何と、ロシャ製で世界中で使用される武器、AK74自動小銃であった。
『…………あれはっ!? …………』
『…………まさか本物っ! …………』
ナタンも、メルヴェも、ダンボール箱の中身が、まさか銃であるとは思ってなかった。
彼等は、思わず声が出そうになるのを堪《こら》えて、じっと動かずに隠れる。
しかし、二人の存在は悟られず、三人の工場労働者たちは、仕事場に帰って行ってしまった。
「ぷはぁ~~行ったかぁーー?」
「やっと、一息つけるわぁ」
そう言って、ナタンはダンボール箱から、AK74を取り出す。
もう一挺のAK74を、メルヴェも両手に構えて、アチコチ調べてみる。
「どう考えても可笑しいじゃない、こんな銃がワインの箱に入れられてる何てさ?」
「だろうな、何で銃がワイン箱に入れられてるのかな、密輸でもするのか?」
「密輸じゃないぞ、クソガキどもが」
銃の引き金を引いたり、構えて狙い撃ちする真似を、ナタンとメルヴェ達はしていた。
彼等の背後から、警察官みたいな格好をした男が、拳銃を構えて現れた。
「それを床に置け、さもないと撃つぞ」
「はっ? はい、分かりました」
「…………分かったわ」
こちらに拳銃を向ける男の言葉に従い、ナタンとメルヴェ達は、銃を下ろすが。
そうすると、奴は睨み付けながら、次なる指示を二人に下す。
「お前らっ! 何処から入ったか知らんが、不法侵入罪でヤキを入れてやるからな、覚悟しとけよっ!」
「はい…………」
「はい」
シュンとなる、ナタンと、男を強く睨む、メルヴェだったが。
奴は、そんな二人の後ろから、銃口で背中を押して長い廊下を歩いていく。
「ん? 入れ」
「失礼します」
工場長室と書かれた、プレートが取り付けられた扉の前まで、三人はきた。
すると、男がドアを軽く叩いた途端、中から入れと指示する声が聞こえてきた。
それから、ナタンとメルヴェ達を連れた、奴は入室すると、二人を自分の前に立たせる。
室内で、椅子に座りながら、机に置いてある書類に作成していた、作業着姿の老人は溜め息を吐く。
「はぁ~~トラブル発生か?」
「この二人が、侵入しました」
まるで疲れたと言うように、顔をしかめた老人は、男に何があったのか、簡潔に報告させる。
「分かった、お前は仕事に戻れ」
「はっ!」
老人は、これは仕方無いかと思い、男に退出するように促す。
そして、今度は鷲みたいに、鋭い眼光の矛先を、ナタンとメルヴェ達に向ける。
「それで、君たちの目的は?」
「その…………友達と隠れ鬼をしていて迷い混んでしまいました」
「その通りです」
老人の問いに、ナタンは素直に答えて、メルヴェも短い言葉で答える。
「本当かな、最近は物騒だからな?」
『…………物騒なのはてめーーだろ…………』
『…………あんたの正体は? エイリアン・テロリスト…………』
老人が呟くと、奴を、マフィア&エイリアンなどの親玉だと、ナタンとメルヴェ達は確信する。
「はっ? 入れ、今度は何だ?」
またかと呆れる、老人が先程の男が立てたであろう、ドアを叩く物音に入室を促す。
「また、二人も侵入者を見つけました」
「ナタン、済まん」
「見つかっちゃた」
やはり、ドアの向こう側から出てきた者は、さっき二人を連れてきた、男であった。
奴の両腕で、首根っこを捕まれて、レオとミア達も部屋に入室してきた。
「君たちの仲間か? 全くっ!」
「はい」
頭を、かきむしる老人を前に、ナタンは小さな声で呟くように答える事しか出来なかった。
「それで、後から来た君たちも…………」
老人が直も、くどくどと説教を始めようとすると、突然ドアが開かれた。
そうして、なぜか、ナタン達が良く知る人間が現れた。
「今度は何だっ!?」
「私ですよ」
その正体は何と、フロスト先生であり、彼は部屋に入るなり、頭を深く下げた。
「お久しぶりです」
「おお…………君か? では、この子供達が例の?」
深々と頭を下げた、フロスト先生に対して、老人は驚いた顔をする。
ナタン達の事を、彼から知らされていたらしく、顔から怒りが消えて、穏やかな表情になる。
「そう言う事なら、君達は帰って良いよ? 今回の事は多目に見よう…………だが、いくら遊びだからって勝手に工場の敷地に入っては駄目だよ? 分かったな?」
「はい、分かりましたわ」
「分かりました」
「もうしません」
「済みませんでした」
落ち着いた口調で、説教する老人を前にして、四人は大人しく従う。
こうして、メルヴェ・ナタン・レオ・ミア達は勝手に、工場の敷地内に侵入した事を謝った。
「済みません、僕の教え子が勝手に…………彼等を、工場から追い出しますから、また後程に改めて話をしましょう」
「そうじゃな…………君達は彼に着いていきなさい」
フロスト先生の説得に応じた、老人はナタンたち四人を、部屋から退出する許可を出した。
こうして、ナタンを含む四人の子供たちは、何とか不法侵入罪に問われず済んだ。
また、同時に、工場長から激しい怒りで、罵声を浴びせられずに助かったのだった。
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