「ハァッ! ハァッ! ここまで来れば大丈夫か?」
「はぁはぁ…………だと良いけどね?」
息を切らして、疲れ果てた、ナタンとメルヴェ達は、何とか敵から逃げることができた。
二人は、路地裏にあった、何かの店裏に設置された物置き場らしき場所で、壁に凭《もた》れて座り込む。
「これから、どうする?」
「決まってんだろ、デパートを目指す」
メルヴェの問いに対し、ナタンは向かう先はデパートだと答える。
その後、二人は十分だけ、ここに座り込んだまま休憩する。
そして、再び路地裏から薄暗い影の中を行だした。
「誰も居ないことを祈ろう?」
「その誰かが居たら、最悪よっ!」
薄暗い路地裏から先に、光の差し込む道路を見付けた、ナタンとメルヴェ達。
二人は、そこに帝国軍が居ないことを、神様に祈った。
「坂道だっ!」
「坂道ね?」
路地裏を進んだ、二人は、やがて緩やかな坂道に出た。
その場所には、坂道上方に帝国警察部隊が存在している。
連中は、複数のコンクリート壁を設置して、陣取っていた。
その陣地に置いた、壁にある小さな隙間穴から、銃口を突き出す。
こうして、連中は眼下を通る、左翼の暴徒や、ベルギュー州軍部隊が来ないかと監視していた。
下方には、ベルギュー州軍歩兵部隊が、対峙するように展開している。
AFTディンゴ2装甲車と、ピラーニャ装輪装甲車などの陰に兵士達が隠れている。
彼等もまた、坂の上方を防衛する、帝国軍部隊と睨み合いを続けていた。
「ここは駄目だな…………」
「そうよね? また来た道を戻りましょう」
この坂道は、とても危険だと判断した、ナタンとメルヴェ達。
二人は、今来たばかりの道を戻り、別ルートを辿ると、今度は広い道路に出た。
「あのホテルは大きいわね」
「あそこなら安全だろう?」
広い道路には、遠くに立つ、大きなホテルらしき立派な建物が見える。
こうして、安全そうな場所が存在することを発見した、ナタンとメルヴェ達。
二人は、警戒しながら歩き、壊れた乗用車の陰から大型トラック裏へと隠れながら進んで行く。
「メルヴェッ! 止まって」
「何? どうしたの…………」
二人が、タクシーの陰に姿を隠して、すばやく辺りを見渡す。
すると、向こう側から、帝国警察部隊の車列が、自分たちに向かってくる姿が見えた。
しかし、車列は隠れている二人の存在には気付かずに行ってしまった。
その様子を、じっと隠れて見ていた、ナタンとメルヴェ達だったが。
二人は、帝国警察の黒いパトカーが居なくなると、再びホテルを目指して、走って行った。
「これで、あのホテルまでの敵は居ないな」
「どうかしら? 油断しないでね」
急いで、ホテルを目指して、道路に停まっている車の間を走る、ナタンとメルヴェ達。
だが、そんな二人の前に、いきなり男達が現れた。
「止まれっ!」
「貴様ら、白人はいつもこうだっ! 虐殺ばかりしやがって」
「良くも俺達の仲間をっ!!」
ホテルへと急ぐ、ナタンとメルヴェ達は、道路へと走っていく。
二人の前に、現れた男達は、アラビ人と黒人で構成された、六人からなる暴徒達であった。
彼等は、帝国兵から奪った物なのか、AK74で武装している。
そして、銃口と激しい憎悪の感情を、二人に向けてきた。
「待って下さい、僕達は助けて欲しいだけ何ですっ!」
ナタンは両手を上げて、六人の難民らしき大人達に助けを求めるが。
怒り狂った彼等は、銃口を向けて、怒鳴り声で彼を罵る。
「信用出来るかっ!」
「子供とは言え、奴等帝国のスパイかも知れないぞっ!」
「撃ち殺せっ!!」
彼等は、仲間を殺された怒りの余り、ナタンを撃ち殺そうと、引き金に指をかけようとするが。
その瞬間、メルヴェが口を開いて、すぐに彼を庇った。
「待ってよ、私はティルク系よ? 貴方達と同じ難民なのっ! 彼は私の両親が帝国兵に撃ち殺された時に助けてくれたのっ!」
「ティルク人だと? その証拠は何処に有るっ!」
右手を胸に添えつつ、前に出て、口から出任せを言った、メルヴェ。
この場を乗りきろうとした、彼女に対して、証拠を出せと怒鳴るAK74を構えた、アラビ人男性。
「分かったわ、これを見てよ?」
メルヴェは、落ち着いた表情で、ポケットの中に手を入れる。
そして、中から青色と白色に塗られた、ガラスでできたた、目玉の飾りを取り出した。
「ナザール・ボンジュウよっ! どう、これで信じてくれた?」
メルヴェが、取り出した飾り、それは彼女が母親からプレゼントされた物である。
そして、これはティルク製の御守りである、ナザール・ボンジュウであった。
「よしっ! 良いだろう」
「おいっ! 本当に良いのかよっ!」
「信用しない方が良いぞっ!」
それを見た、難民達のリーダーらしき、アラビ人は取り合えず、ナタンとメルヴェ達を信用したが。
仲間のアラビ人と黒人達は、納得していない様子だった。
「ねぇ? 私達は、もう言って良いかしら」
「ああっ! だがホテルは駄目だぞ、帝国軍の通信所が設営されているからな? 取り合えずは向こうの店に俺達の仲間が隠れて居るから、そこに行けっ!」
二人の処遇を巡って、揉めている難民達に、声を掛けた、メルヴェだったが。
リーダー格らしきアラビ人男性は、親切に色々と二人に情報を教えてくれた。
そして、彼は近くの店に避難している、仲間達が潜んでいる所に行けと言ってきた。
「有り難う、感謝するわ」
「僕からも、有り難うございます」
二人は、リーダー格らしき、アラビ人男性に礼を告げる。
それから、クリーニング店の建物を目指して走って行く。
だが、そこに妙な音が、遠くから聞こえて来た。
「何だっ? この変な音は…………」
「花火かしらって、これは大砲のっ!」
聞こえてきた風を切るような音に反応した、ナタンとメルヴェ達。
彼等の前で、派手な爆発が起きて、クリーニング店が吹き飛んだ。
爆発・爆炎・爆風などに巻き込まれた、ナタンとメルヴェ達は、一瞬意識が飛んだ。
「くそーーー!? 良くも俺達の仲間をーーー」
「貴様ら許さんぞーーー!!」
「仲間の仇だっ! くたばれぇぇぇーー!!」
その数十秒後に目を覚ました、ナタンは衝撃的な光景を見てしまう。
それは、難民達を包囲殲滅しようと、迫り来る帝国軍の戦車部隊だ。
また、それに随伴する、大勢の帝国軍兵士たちが向かってくる姿であった。
「…………メルヴェは? 何処だ…………」
ナタンは視線を動かして、メルヴェを探すが、何やら体に異変を感じる。
それは、下半身が瓦礫の下敷きになり、動けなく成っていたからであった。
彼は、下半身の埋もれたクリーニング店の瓦礫から這い出ようと、もがくが。
体は一向に動かず、一ミリ足りとも、ズレることすら無かった。
「ナタンッ! 大変っ! 大丈夫?」
そこに、メルヴェが背後から現れて、瓦礫の中から細長い板を見付ける。
それを上手く使って、ナタンの下半身を覆う瓦礫を退かそうとした。
しかし、一生懸命に力を込めて、梃子の要領で板を動かしたが。
当の瓦礫は、ビクともしなかった。
「メルヴェッ! 僕を置いて君だけで逃げてくれ」
「ナタン! 諦めないでっ私が絶対に助けるからっ! …………絶対によっ!」
二人の前には、包囲した難民男性たちを虐殺する帝国軍兵士たちの姿が映る。
彼等難民たちは、果敢に抵抗したが、二人を残して、他は戦死してしまう。
その生き残った、二人も腕や足を負傷して、もう戦えそうに無かった。
「居たぞ…………劣等生物共めっ!」
「害獣を排除します」
制服姿の帝国軍士官と、部下である帝国軍兵士たちは、ゆっくりと進軍してくる。
彼等は、先程の戦闘で、穴だらけに成ってしまった自動車に近寄る。
また、その陰に隠れていた、難民達を虐殺しようと迫る。
右腕を負傷した、アラビ人男性、両足を負傷して、動けなく成った黒人男性など。
二人に、帝国兵たちは、拳銃と自動小銃の銃口を向けた。
「まっ! 待ってくれっ! 撃たなっ!」
「撃つなっ! 降伏ううっ!?」
難民男性たち、最後の生き残りである、二人も処刑されてしまった。
そして、次は自分達の方へと、帝国兵達が来ると考えた、メルヴェは。
「ナタンッ! 私も瓦礫に身を隠すわ、だから貴方も奴等が来ても、大人しく死体の振りをしてっ!」
「ああ…………メルヴェ、分かった」
ナタンの前で、メルヴェは上手く隠れるように告げると、すばやく瓦礫に身を隠した。
それから、帝国軍士官を先頭にした歩兵部隊が現れた。
身を動かせない、彼にも、帝国兵達が警戒しながら進んで来るのが見えた。
「…………奴等が近付いて来る…………心臓がバクバク鼓動する…………」
ナタンは、疲れ果てたのか、それとも瓦礫に頭を打ち付けられたせいか。
彼の意識は、深い闇に段々と沈んで行った。
「おいっ! 子供が居るぞ、負傷してるっ!」
ナタンの意識が、完全に闇に呑まれる前、帝国軍士官が発した、声が聞こえてきた。
だが、彼は眠るように意識を手放してしまい、暫くの間、何も聞こえ無くなってしまった。
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