時間は遡り、フロストが教師として、潜入していた頃、ハンザはまだ自由な雰囲気に包まれていた。
夜遅くなって、残業を終えて校門から出てきた、フィーン先生。
「くあーーーー! これで、点数の採点は終わったわあーーーー!」
フィーン先生は、夕方になるまで、一人で教室に残っていた。
そうして、仕事に熱中していたせいで、体中が痛くなっていたのだ。
「ん、アレは? フロスト先生よね?」
日が落ちていく方へと向かう、フロスト先生を見つけた、フィーン先生は呟く。
彼の背中を見て、黒いコートを着ているせいか、彼女は吸血鬼が歩いているみたいに思う。
「なんか、彼は不思議な人なのよね? 普通の人なんだけど、抜け目がないと言うか?」
「僕が、どうかしましたか?」
普段から、フィーン先生は、仕事をしているフロスト先生を見ているが。
何やら怪しい雰囲気を感じており、それが凄く気になっていた。
しかし、彼女が考えこんでいると、いきなり正面から声をかけられた。
「えっ! あ、その? えと…………」
「フィーン先生? どうやら、貴女も残業してたんですね?」
突然の質問に、あたふたする、フィーン先生は、どう答えようか困ってしまう。
なぜなら、彼女の前に、フロスト先生が立っていたからだ。
しかし、彼は柔和《にゅうわ》な笑顔で、話しかけてきた。
「せっかくですし、この後、レストランに行きませんか?」
「えっ! いきなり、言われても…………」
フロスト先生は、何を思ったか、フィーン先生を突然食事に誘った。
「無理にとは言いませんよ? しかし、知り合いと予約していた、ラ・ローズ・ブロンシュに一人で行くのはね…………」
フロスト先生は、言葉巧みに誘導しているのか、上手く事情を話す。
「それから? 料金は、すでに向こうが前払いしてくれてるんですが」
「そうなんですですか? それなら、うーーん?」
フロスト先生の前払いと言う言葉に、フィーン先生は一考する。
夕食を作る手間は省けるし、レストランを探す必要もなく、食事代も浮かせることができる。
そう考えた彼女は、最終的には悪くない提案だと思う。
『…………ああ~~? 誘われるのは嬉しいけど、少し怖い気も? あと、あそこはリーズナブルな値段だけど、歴史的な建物が、高級レストランみたいな雰囲気を出してる、いい店なのよね? …………』
フロスト先生からの誘いを怖いと、フィーン先生は思った。
だが、一方で、レストランで食事すると言うのも魅力的である。
「それで?」
『…………まあ、相手はイケメンなフロスト先生だし、良いかしら? 変なことをしようなら、スタンガンで、バチればいいし? それに、前々から気になっていることも直接本人から聞けばいいし…………』
フロスト先生は、答えを求める中、フィーン先生は腹を括《くく》った。
「分かりました、私も暇ですし、ちょうど夕食の準備も面倒でしたからね? 喜んで、お受けいたしますっ!」
「そうですか? では、今から僕達のタクシーを呼びますね」
フィーン先生は、色々と考えた結果、フロスト先生による食事の誘いを了承した。
「もしもし、僕だ? ああ、今から来られるか?」
フロスト先生は、スマホを取り出すと、誰かを呼んだ見たいだ。
たぶん、知り合いがタクシー運転手でも、やっているのだろう。
「ちょうど、近くを走っていたので、今すぐ来るそうですよ?」
「まあ、それは良かったわ」
フロスト先生の言葉に、速く迎えが来るなら嬉しいと、フィーン先生は考えた。
そうして、少しばかり待っているのかと思った瞬間、送迎車が向かってきた。
車体上部が白く、車体は黒く塗装された、かなり古い高級車だ。
「はあっ!? 超高級車…………」
「ロールスロイス、シルヴァークラウドIIですよ? さあ、どうぞ」
いきなり、現れた車のド派手さに、フィーン先生は一回だけ叫んだ後、絶句してしまう。
どうせ、タクシーが現れるか、それとも普通の乗用車が来ると、彼女は思っていた。
しかし、フロスト先生の知人と言う人物は、かなり裕福らしいことが、彼女にも理解できた。
「悪いね? 私用に使ってしまってさ? あと、ドアは僕に開けさせてくれ」
「いえ、どうぞ、お構い無く」
フロスト先生は、フィーン先生を先に後部座席へと座らせると、運転手の方に声をかけた。
それから、自身は車体後部から右側の座席に回り、ドアを開けて乗り込む。
「さあ、フィーン先生、乗って下さい」
本来ならば、運転手がドアを開く事が、エチケットであり、それが仕事でもある。
だが、フロスト先生は、フィーン先生に格好いい姿を見せようとしたのだ。
「あの? フロスト先生は貴族か、上流階級なのでしょうか…………」
「あはは、そこまで高い地位ではないけど、僕の知り合いは、貿易関係や資産家が多くてですね」
フィーン先生は、車内に緊張しつつ座りながら、アレコレと考える。
知り合いを呼んだにしては、運転手は明らかに、彼よりも上下関係があるのだろうと思う。
それを、聞かれた当のフロスト先生は、交友関係が広いらしく、また友人に金持ちが多いと答えた。
「彼も、知り合いの会社に務める運転手なんですよ」
「マドモアゼル、以後お見知りおきを」
フロスト先生は、運転手を紹介すると、彼はハンドルを握っているため、挨拶だけしてきた。
「あ、はい? どうも…………」
「そう、緊張しないで下さいね」
高級車に乗っているため、フィーン先生は緊張しながら答えるしかない。
謎多き新任教諭フロスト先生は、そう言って再び柔和な笑みを向けてきた。
「は、はぁ…………」
果たして、彼は何者なのだろうかと思いながら、フィーン先生は呟く事しかできなかった。
こうして、二人を乗せた、高級車ロールスロイス、シルヴァークラウドIIは街中を走る。
黄色い明かりに照らされた繁華街は、美しく、街行く人々は歩道を行き交う。
皆仕事が終わった帰りで、これから家族や恋人と夜を過ごすのだろうと思われる。
そう言った、景色をボンヤリと眺めつつ、二人は黙って座席に座る。
こうして、目的地であるレストラン、ラ・ローズ・ブロンシュ付近へと辿り着いた。
「目的地に着きましたよ」
「ありがとう、では行きますか?」
「ええ…………」
運転手が、ブリュッセル市庁舎の裏にあるアミゴ通り右端に車を停車させると、二人に声をかける。
フロスト先生は、またも彼に、フィーン先生側のドアを開かせず、それを自身でやる。
また、二人は十字路から、シャルル・ビュル通りへと向かっていく。
それから、ブリュッセル市庁舎横と、カフェであるメゾン・ダンドワの間を歩いていく。
『………う~~? 車内でも、困ってたけど、何を話そうかしら? しつこく、フロスト先生に話しかけるのも失礼だし? んんっ? ………』
だが、そんな中、フィーン先生は緊張のあまり、首を傾げながら悩む。
「やはり、ここは混んでますね~~♪」
「でも、御安心あれ、レストランは先ほど言った通り、席を予約してますのでっ!」
市庁舎前は、グランプラスと言われる巨大広場であり、大勢の人々が笑顔を浮かべながら行き交う。
フィーン先生は、活気ある街並みのようすに、自然と笑みを浮かべてしまう。
フロスト先生も、彼女に対して、執事や騎士のように話しかける。
「ふふっ! それなら、安心ねっ!」
「ええ、では姫様、それでは魔法の館に行きましょうか」
人の多さから安心しきった、フィーン先生は、すっかり、フロスト先生を信用してしまっていた。
また、彼が優男であり、高級車を見たり、上流階級の人間であることも、そう思わせた一因だろう。
こうして、近くにある、ラ・ローズ・ブロンシュへと、二人は並んで歩いていった。
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