「今度は何だ?」
「コサックよっ!」
後方からは重装騎兵隊が迫る中、ナタンとメルヴェ達の前方には、コサック騎兵が存在した。
「コサック…………帝国の傘下に入った連中か?」
「それより…………来るわよっ!」
ナタンが呟きながら敵を睨むと、メルヴェは叫び、コサック部隊は突進を始める。
灰色パパーハ帽を被り、黒い弾入れポケット付き伝統衣装チェルケスカを纏った、コサック騎兵隊。
連中は右手に、小型拳銃であるボロ・モーゼルを構えだした。
「ぐぅっ! 避けられるかっ!」
「ヤバイッ! ヤバイわっ!」
コサック部隊による射撃が開始されると、ナタンとメルヴェ達は、バイクをジグザグに走らせた。
こうして、蛇行運転をしながら拳銃弾を避けるべく、二人は必死でバイクを走らせ続ける。
しかし、ボロ・モーゼルから発射された拳銃弾は、ナタンの左肩を撃ち抜いた。
また、メルヴェの右手を掠《かす》めて、血を滴らせた。
「このまらじゃ、拳銃弾の餌食…………しかし、突破するしかないっ!」
「もちろん…………私達は後退なんかしないわよっ!!」
意気込む、ナタンは勢いを下げるどころか、逆に速度を上げて突っ込んでゆく。
気合いを入れ直した、メルヴェも臆する事なく、体当たりでもするかのように突進する。
二人の無謀な特攻戦術に、コサック騎兵も慌て出し、連中は刀剣を鞘から抜き出した。
彎《わん》刀シャシュカ、騎兵刀サーブリャ、砲兵刀ベーブトなど。
コサック達も、二人の進撃を止めるべく、白兵専用武器を手に握る。
「格闘武器だっ! どうするっ!」
「斬り合いなんて、御免よっ!」
もう既に眼前に迫るコサック騎兵を前に、ナタンとメルヴェ達は、それぞれ拳銃を撃ちまくる。
今度は、二人が先ほどのお返しとばかりに何発も弾丸を放ち、コサック達や騎乗する馬を倒す。
コサック騎兵たちは余程、腕に自身があったのか、遠距離から片手でボロ・モーゼルを発砲した。
しかし、それは連中による射撃技術が高いだけてはなく、モーゼル拳銃の反動が弱いだからだ。
この距離なら確実に、二人が放つ弾丸も当たるワケだ。
「ぐっ! ぐぅ…………!」
「不味っ!! あっ! ぐっ!?」
二人による射撃は、何人かのコサック達を、見事に撃ち抜いて落馬させた。
だが、特攻は連中のど真ん中を突っ切らなければならず、鋭い刃が歓迎してくる。
ナタンは、右肩や頬を斬られ、出血しながらもバイクのハンドルを確りと握り続ける。
メルヴェも腕や顔を斬られても、決して速度を緩めず突っ走る。
敵の剣激を交わしつつ、何回か斬撃を喰らいながらも、二人は突破に成功した。
「やった、敵を切り抜けた…………」
「何とか生きているわね…………」
「逃げられたぞっ! 追えーー!」
斬り傷だらけに成りながらも、ナタンとメルヴェ達は無事窮地を切り抜けた。
そして、コサックの指揮官らしき人物は、何人か仲間が殺られた事を気にせず叫ぶ。
部下に、指揮官が命令を下した途端、右側にある建物から二人の前に何かが飛び出した。
「うわっ!? 馬車だと、ここは中世ファンタジーの世界じゃねーーんだよっ!!」
「知らないわよ、いいから早く撃ち殺してってば~~!?」
急に飛び出てきた馬車には、防盾《ぼうじゅん》と車輪がついた、水冷式機関銃PM1910が載せてあった。
しかも、水冷式の銃口はこちらを向いている。
これは、ロシャ内戦時に黒軍などで使用された、タチャンカと言われる兵器だ。
「奴らを撃てっ!」
「あいよ?」
「ヤバイぜっ! いったん、スピードを下げないとっ!」
「下げなきゃ当たるっ! きたわっ!!」
タタタタッと凄まじい連射速度を誇る、PM1910の火力。
それに圧倒された、ナタンとメルヴェ達はバイクの速度を落とす。
薙刀を、横から凪払うかのように、機銃掃射が右から左へと行われる。
二人は、ともに機銃弾を避けようと速度を下げるだけでなく、蛇行運転しながらバイクを走らせる。
そのお陰か、機銃弾は一発も当たる事なく、二人は難を逃れた。
「横だっ! こっちに来てくれっ!!」
「馬車から逃げなきゃねっ!」
いつまでも、馬車タチャンカを相手にしていられるほど、二人には余裕がない。
PM1910による機銃掃射は、他の機関銃よりも射撃持続力が高い。
なので、二人に何発か命中する可能性もまた高いからだ。
しかも、後ろからはコサック騎兵隊と重装騎兵隊が、直ぐそこにまで迫ってきている。
ナタンは状況を打開するべく、またもや路地に入った。
メルヴェも、路地へとバイクを走らせた。
「…………たく、レオと昔やった、タイムクライシス3を思い出すぜっ!」
「ああ? アレ? ゲーセンで、私ともプレイしたわよね?」
ナタンは、ハンドルを強く握りしめながら、シューティング・ゲームを思い出す。
メルヴェイも、名前を聞いて懐かしいと感じたが、すぐに意識を前に向ける。
路地から出た二人は、左側へとバイクを走らせるが、またもや執拗な追撃を受けた。
今度は、前方に黒いカボチャの馬車とオムニバス馬車が、二台並走している様子が見えた。
後方からは、空飛ぶ何かの大きな影が、雪により白く染まった路上を黒く染める。
「おいおい……マジかよ…………だから、ファンタジーの世界じゃあないって言ってるだろ……」
「アイツら、どこからファンタジーの怪物なんて連れて来たのよーーーー!?」
ナタンが一瞬だけ振り向き驚くと、メルヴェも後ろから迫る黒いドラゴンに驚く。
ドラゴンの上には、中世風な鎧に身を包んだ、シュヴァルツ・リッターが騎乗していた。
そちらに気を取られていると、不意を突くように馬車隊から攻撃が仕掛けられた。
「うわっ! なんだ、あの顔はっ! また炎かよっ!」
「ムカつくわねっ! って、火炎放射器なのっ!」
右側を走る、カボチャの馬車だが、いきなり顔をくるんと回した。
そこにあるのは、当然ながら、くり貫かれたハロウィンで使われる、カボチャ顔である。
そして、スマイルの形に開かれた口から、猛烈な火炎を吐き出した。
「ヤバい、減速させないとっ!」
「あのカボチャは危険すぎっ!」
左右に、ゆらゆらと火炎を噴射し続けるカボチャの馬車。
その左肩を走るオムニバス馬車からも、弓矢が放たれる。
さらに、ナタンとメルヴェ達の後ろを飛んでいるドラゴンも口から火炎弾を射ち出した。
前後から攻撃され、二人は絶対絶命の窮地に陥った。
「不味いっ! このままじゃ前か後ろの奴らに殺られちまうっ!」
「挟み討ちにされちゃったわね、どうするっ?」
蛇行運転で、交差するように、バイクを走らせ続ける、ナタンとメルヴェ達。
二人は、三種類の攻撃を回避するべく、必死で敵が放った連撃を交わす。
「うわっ! もう火炎がっ!」
「きゃっ!! 痛いっ!!」
噴射され続ける火炎は、ナタンの間近に迫り、放たれる矢はメルヴェに命中した。
だが、幸いにも脇腹を貫通したらしく、突き刺さりはしなかった。
「メルヴェ、大丈夫かっ!?」
「何とかね……それより、連中を何とかしないとっ! んんっ?」
ナタンは、敵に怪我を負わされた、メルヴェの傷を心配した。
出血した箇所を、当のメルヴェは押さえながら、ある物が飛び出す場面に驚いた。
「グレポンだっ!」
「やったれ、やったれっ!」
いきなり現れた、それは小さな車体ながらも軽快な動きで疾走する。
そして、荷台からM79グレネードランチャーを放った。
ドカンッと言う音とともに、放たれた榴弾はカボチャの馬車に命中した。
顔面に、グレネード榴弾が当たった事で、カボチャの馬車は煙に包まれる。
「あっ! 味方かっ! 戦闘に加勢してくれるんだなっ!」
「助かったわぁ…………これで、私たちも反撃に移れるわっ!」
ナタンは、目の前を走る深緑色に塗装された、ダイハツ軽トラを視認すると安堵した。
走る味方車両の荷台には、連合側兵士が二人も乗っている。
その様子を見て、メルヴェも疲れたと言うように溜め息を吐く。
だが、グレネードを撃たれた、カボチャの馬車は煙が晴れると、再び姿を現した。
「げっ! まだ壊れないのかよっ!」
「アレを、ぶっ壊すにはRPGが必要よっ!」
ナタンとメルヴェは、未だ健在なカボチャの馬車を化け物かと思った。
とは言え、敵の頭部分は半壊しており、顔面左側が崩れていた。
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