廃墟とビル郡の間を抜けて走る、TR6トロフィー、ハーレー39年型。
「無事、戦場から離れたようだ…………もう大丈夫だな」
「ようやく、私たちも落ち着けそうね?」
正面と、サイドミラーで背後を確認して、ナタンは追跡してくる敵は居ないと安心する。
やっと戦場を突破したと思い、どこからも銃声や爆発音がしないことに安堵するメルヴェ。
二人の通る道には、バイクが出す排気音だけが木霊していた。
「はぁ? これで安心だな…………いや、前言撤回するわ」
「へ? ああ、どうやら執拗な奴が来た見たいねっ!」
完全に気が抜けていた、ナタンとメルヴェ達だったが、後ろから新たに迫る驚異に気づく。
それは、一台のバイクに跨がる帝国警察隊員だった。
「死ね、獲物は逃がさんっ!! 狼は一匹でも執拗に追いかけるっ!! シベリア人を嘗めるなよっ!!」
パンッパンと右手に握る、ピストレット・ヤリギンの発砲音を鳴らしてくる、ザミョール中尉。
その狙いは、かなり正確であり、ナタンとメルヴェ達を焦らせる。
奴の精密射撃は、バイクで走ってなければ確実に当たっている。
そう思わせるほど、二人の頭上や頬を掠めて弾丸が飛んでいくからだ。
彼が乗っているゴツくて黒いバイクは、ロシャ軍用のタウラス2×2だ。
「ヤバいわよ、アイツ…………かなりの強敵だわっ!?」
「それより、前を見ろっ! 戦車隊だっ!」
メルヴェが追撃してきた、ザミョール中尉に気を向けていると、ナタンは前を見ながら叫ぶ。
彼が言った通り、前方には機甲部隊が展開しており、何台か青い戦車の姿が見える。
機甲部隊の正面左側に位置する、レオパルド2A8戦車は、砲塔に備えられた同軸機銃を掃射する。
「うわっ! 撃って来たっ!」
「でも、後ろの奴に当たらないようにしているわねっ!」
前からも、MG3による機銃弾を放つ、レオパルド2A8戦車だったが。
ナタンとメルヴェ達の真後ろには、ザミョール中尉が追撃している。
ゆえに、同士討ちを避けるためか、機銃弾は断続的に連射された。
その射撃を避けつつ、二人は戦車隊へと臆することなく突っ込む。
「行くぞっ!」
「分かってる」
短い言葉を吐き、レオパルド2A8の左側へと進んでゆく、ナタンとメルヴェ達。
しかし、そこにはTー90プラルィブが存在しており、二人を叩き潰さんと体当たりをしてきた。
「うわっ!」
「ヤバ……」
だが、二人は寸でのところで回避し、Tー90プラルィブによる体当たりを無事に通過した。
「チッ! クソが…………獲物が追えねぇだろう」
しかも、ナタンとメルヴェ達を追っていた、ザミョール中尉だったが。
彼は、Tー90プラルィブに前進を阻まれ、バイクを止めて悪態を吐くほかなかった。
「最後は、コイツか?」
「どうせ、図体だけよ」
今度は、車体全体を、プルシャンブルーに塗装されたTー14アルマータが現れた。
道路の遠方、ど真ん中に位置した、敵戦車は自動機銃と同軸機銃を撃ってきた。
砲塔上部・右側からは、無人自動機銃である、Kord《コード》重機関銃が1、27ミリ弾を連射する。
砲塔からも、PKTM機関銃が猛烈な勢いで、7、62ミリ弾を放つ。
しかし、ナタンとメルヴェ達は、左右に別れることで簡単に射撃を避けてしまった。
「やった、抜けたぞっ! あとは戦車も敵兵すら居ないっ!」
「これで、私たちは自由だわっ?」
Tー14アルマータの車体後部に回り込んだ、ナタンとメルヴェ達は、左右から合流する。
戦車隊から無事逃走できた、二人は真っ直ぐにバイクを走らせ、速度を上げる。
こうして、彼等は安全地帯まで何事もなく、逃げ切れると思った。
しかし、現実は甘くない。
「ん?」
ナタンは、サイドミラーを覗くと敵が近づいている事に気づく。
「待て、お前ら…………絶対に逃がすかよ? この俺から、そう簡単にトンズラこけると思うなっ!!」
何と、ザミョール中尉が右側の路地から、タウラスを走らせ飛び出てきた。
奴は、猛スピードで突っ込んで来ており、段々と距離を縮めようとする。
しかも、またもや、ピストレット・ヤリギンによる精密射撃を繰り出してきた。
その一発が、ナタンを背中から襲い、脇腹を貫いた。
不意に喰らった一撃に、彼は渋面《じゅうめん》を浮かべるが、何とか痛みを堪える。
「ぐああ? やるな、でも諦めないぜ……」
「ナタン、その怪我はっ!」
鋭い痛みと熱さを脇腹に感じるナタンだが、血を垂れ流しながらもハンドルを握る手は緩めない。
苦悶の表示を浮かべる彼を心配して、メルヴェは声をかける。
「怪我は大じょっ! うわわっ! 射撃の腕が良いのねっ!」
「メルヴェ、心配は要らない、一発喰らいは耐えらる」
もちろん、メルヴェにも弾丸は飛んできており、顔や首の間近を通りすぎてゆく。
当然、それを彼女は黙って受けている訳がなく、ホルスターからFADを取り出す。
次いで、後ろを振り向くことなく、適当に何発か連射しつつ応戦する。
こうして、背後から襲うザミョール中尉を彼女は牽制する。
FADの弾が切れると、奴に当たれと弾倉を後ろに投げ捨てる。
また、銃本体をホルスターに戻して、替えの弾倉を取り付ける。
「チィッ! 小癪な…………ウサギは黙って餌に成れば良いんだよ」
ザミョール中尉は、反撃を喰らう前にタウラスを減速させて距離を二人から離す。
「お返しだっ!!」
ナタンも、腰からMASー1935を抜き取ると同時、後ろに向かって発砲する。
こうして、ザミョールを牽制出来たと思った、ナタンとメルヴェ達だったが、別な問題が起きた。
前方から、新たな敵が現れたのだ。
「敵発見、追跡を開始するっ!」
「射撃を許可するっ!」
IGパルサーが、四台も十字路の右側から飛び出して来た。
しかも、電動トライクである、黒色のオーヴムが二台も走ってきた。
この三輪車には、右側にAGSー30自動擲弾銃が、ロボットアームとともに備え付けられている。
「ヤバいぜっ! 増援だ、撃ち殺すっ!」
「しかも、あの車、横にグレネードランチャーを取り付けているわよっ!」
「ぐわっ!」
「うわあああっ!」
「ああーーーー」
急いで、ナタンはIGパルサーと警察隊員を狙って何発も弾を撃つ。
一方、メルヴェは一瞬だけ目を丸くすると、すぐにFADをオーヴムに向けて乱射した。
彼の撃った弾は、IGパルサーに乗った警察隊員に当たり、横から首を貫通した。
彼女の射撃も、オーヴムをパンクさせ、建物に突っ込ませた。
「反撃だっ! グズグズするなっ!!」
「撃て、相手は二人だけだ」
「ここからならば…………」
ザミョールは背後から怒鳴りながら増援部隊に指示を飛ばす。
そして、自身は自動擲弾銃や銃器による攻撃から同士討ちを避けるために、バイクの速度を下げた。
それを聞いて、IGパルサーに跨がる警察隊員は、後方にPP2000短機関銃を撃ちまくる。
オーヴムに乗った隊員も、遠隔操作で自動擲弾筒AGSー30を後方に向けて乱射した。
「うわ、グレネード弾だっ!」
「ふぅ……厄介な連中ね」
道路のアチコチで、グレネード榴弾が爆発すると、コンクリートを飛び散らせる。
そんな中、PP2000による銃撃も飛んでくる。
当然、ザミョールも後ろから撃ってくる。
なので、ナタンとメルヴェ達は攻撃を避けるだけで手一杯だ。
しかし、このまま何もしなければ、二人纏めて殺られてしまうだけだ。
そのため、彼等は正面から撃ってくる敵部隊に銃を撃ち返した。
「ぐっ! これくらいっ!」
「被弾した、だが大丈夫だっ!」
「いや、違う…………奴らの狙いは逃げ切る事だっ!」
ナタンは、MASー1935を弾倉が空になるまで何発も撃ちまくった。
メルヴェも、FADを乱射しまくって敵に反撃させぬように圧力をかける。
これにより、IGパルサーに跨がる警察隊員や、オーヴムの運転手は反撃を受けて焦った。
彼等は、万一自身に攻撃が当たることを避けるべく、二人から速度を上げて離れた。
しかし、それが仇となり、二人は一気に消えてしまった。
ザミョールだけが、それに気づき、タウラスの速度を爆上げした。
面白かったら、ブックマークとポイントを、お願いします。
あと、生活費に直結するので、頼みます。
(^∧^)
読み終わったら、ポイントを付けましょう!