レジスタンス部隊は、屋根に陣取る帝国軍兵士たちを倒そうと、建物や自動車の陰から銃を撃つ。
一方、帝国軍部隊は、BTRー80装甲車から続々と降車してくる。
双方による戦闘で、このヴァン・マルデ通りは、白灰い煙に包まれてしまった。
これにより、姿の見えない敵を狙って、互いに激しい銃撃が始まる。
その中には、機銃掃射や対戦車武器を使う音が混じっており、戦闘音が止む気配はない。
「うわっ! これじゃ、戦うしかないっ! やるぞ、メルヴェッ!」
「仕方ないわねっ! 護身用の拳銃を撃つしか? うわ…………」
ナタンとメルヴェ達は、それぞれの武器を抜き取り、戦いに参加しようとした。
そう思った瞬間、二人の間近に、柄付き手榴弾が頃がってきた。
「離れろっ!」
「きゃああっ!」
ナタンは急いで、それを壁に向かって蹴っ飛ばし、メルヴェは直ぐに身を伏せた。
そして、柄付き手榴弾は、壁際で爆発してしまい、窓ガラスを吹き飛ばす。
「不味いわ、私達の存在もバレているわ…………」
「心配ない、ここから中に入れるぞ」
メルヴェは、即座に立ち上がり、直ぐさま、乗用車の陰に隠れる。
その間、ナタンは窓から建物に侵入して、室内へと避難した。
「メルヴェ、手を出してくれ」
「分かってるわ、ナタン」
ナタンは後ろに振り返り、メルヴェの手を掴んで持ち上げつつ、彼女も室内に入れた。
それから、二人は戦闘から離れるべく、奥へ向かって、走り出した。
「軽装備で、拳銃しか今はない…………あっちの組織は手伝えない」
「私達も戦いに参加したいけど、不利な戦闘に巻き込まれるのは、ごめんだわ」
今のナタンとメルヴェ達に取って、大事な第一目標は、拠点に無事帰還する事である。
出きる限り、二人は他のレジスタンス勢力や組織などを支援したい。
だが、帝国側が強すぎて、包囲されているような状況なら、味方とは言っても見捨てる他ない。
また、敵との戦闘事態を、なるべく回避しながら行動したいわけだ。
「こっちは、誰も居ないっ!」
「なら行くわよっ!」
こうして、ナタンとメルヴェ達は、そそくさと民間人の振りを建物内を通っていく。
「行くぞっ! 味方が殺られているっ!」
「増援に向かわないとっ!」
「は…………」
「…………?」
誰か分からないが、近くから何人かの戦闘員らしき、人物たちが走ってゆく、足音や声が聞こえる。
ナタンとメルヴェ達は、壁に貼り付いて、耳を澄ましながら、じっと動かない。
「今のは、どっちだろうか?」
「さあ、分からないわ」
増援に向かったのは、味方を助けに行った、レジスタンス部隊か、それとも帝国側の部隊か。
それを確認している暇は、ナタンとメルヴェ達にはなかった。
「通りに出たな? ここはグロウナング通りだ」
「あそこは、セルフ洗車場よ、あの中を進みましょう」
さっきの場所と同じく、グロウナング通りも、建物と自動車が、ズラリと左右に並ぶ。
その中でも、両側を建造物に挟まれた、一階建てである、セルフ洗車場は目立っていた。
その見た目は、灰色屋根や赤茶色い煉瓦があり、大きな窓には防犯用に鉄格子があった。
運よく、ここの中央にある入口は開かれており、ナタンとメルヴェ達は、取り敢えず中に入った。
「また、向こう側に出るぞっ!」
「ええ、行くわよ…………」
「うわあっ!」
「レジスタンスかしらっ!? 不味いわっ!!」
セルフ洗車場の入口から突入した、ナタンとメルヴェ達は、奥へと走ってゆく。
その近くでは、戦闘音や彼等が走る足音を聞いて、会社員やOLなど何人かが壁際に伏せていた。
彼等、民間人は戦闘に巻き込まれたくないため、ひたすら身動きせず、建物内に隠れているのだ。
そんな中、正面から何人かの帝国軍部隊が飛び出てきた。
「動くな? ここの人間は全員、怪しいから拘束させて貰う」
「あっ! しまった…………」
「不味いわ、不味い状況になったわね…………」
帝国軍兵士たちは、フリッツ・ヘルメットと、弾帯付き防弾ベストを、全員装着している。
連中は、ナタンとメルヴェ達に、AK15の銃口を向けてきた。
「待って下さい、彼等の身分は私が保証します」
「誰だ、貴様はっ!」
しかし、いきなり二人の前に茶色いコートを身につけた、女性が現れた。
カールさせた薄茶髪ロングヘアーの女性は、微笑みながら黒目を、隊長らしき人物に向ける。
「私は、このセルフ洗車場の管理人で、帝国軍や帝国警察の車両洗車の仕事を請け負っています? 彼等は、私が読んだ機械整備士なんですが? テロに巻き込まれて、ここまで命からがら逃げて来たんでしょう」
「ううむ? どうやら、身分証を見る限り、本当にそう見たいだな…………」
笑顔のまま女性は、隊長に身分証を提示して、二人に関する説明を行った。
「よし、別に変な所は、無さそうだな? 良いだろう、お前達は開放してやるっ! ただし、他の者は連行するっ! 反体制側の人間なら、直ちに洗脳部屋に送ってやるっ!」
「私達は、テロリストじゃないんだ、分かってくれっ!」
「ひぃぃっ! やめてっ! 痛いっ!」
隊長の命令を聞いて、帝国軍部隊は周辺で、身を伏せていた民間人を連行していく。
会社員は、必死で弁明するが、帝国軍兵士は彼の言う事を無視して、銃を背中に突きつける。
OLも、背中を蹴られながら無理やり、何処かへと歩かされてゆく。
こうして、帝国軍部隊は、周辺の人間たちを捕まえながら奥に向かっていった。
「貴方たち? レジスタンスね? 私のコードネームは、サンドラ…………さあ、こっちよっ!」
「やはり、協力車だったか?」
「助けてくれて、ありがとう? 危うく捕まえられちゃう所だったわ」
いきなり、現れた女性は、民間人の協力者であり、窮地を救ってくれた。
名前はサンドラで、彼女も密かに、レジスタンスを陰から応援する支援者だった。
彼女は、ナタンとメルヴェ達を、帝国軍の追手から逃がすために、手助けすると言って歩きだす。
こうして、彼女に案内されながら、二人は安全なルートを通って、無事に逃亡できると安堵した。
「こっちに来て、地下道を案内するわ」
「また、地下に行くのか」
「文句を言っても仕方ないわよ」
サンドラは、セルフ洗車場の裏に出ると、芝生《しばふ》に指を突っ込み、蓋を開いた。
彼女が穴に入ると、ナタンとメルヴェ達も、サッと飛び込んだ。
「蓋は閉めて置かないと」
案内役である、サンドラは上空から敵に発見されないように、すぐに入口を塞いだ。
こうして、三人は真っ暗な洞窟を進んでいき、やがては行き止まりの岩壁に辿りついた。
「ここよ、この上は教会に通じているわ? ここの地下にも、武器弾薬から食料に医薬品まで隠してあるの?」
「分かった…………よっと? ここも、セーフルームなんだな」
「ふっ! ここまで来れば、さっきの戦闘からは、ようやく離れられるわね」
サンドラは、地下道の天井に四角い枠を見つけ、ジャンプして、両手で草を掴んだ。
ナタンは、彼女に引き上げられると、今度は彼がメルヴェが出られるように助ける。
こうして、三人は正教会の建物である、パウエス・デ・サン・セバ教会まで来た。
今、彼等が立っている場所は、教会の左側に作られた、芝生が生えた大きな庭である。
「次は、こっちに行きましょう」
裏道や秘密通路に詳しいサンドラの後に、ナタンとメルヴェ達は着いていく。
彼女の案内で、巧妙に帝国側の捜査網を掻い潜り、安全な場所へと、無事に逃れることができた。
「この中で休んでて…………茶を用意するし、後で秘密経路を案内するから」
「済まない、何から何まで助けてくれて」
「サンドラ、本当に助けるわ」
サンドラは、茶色い床上を歩きながら、広々とした白い教会内を進んでいく。
彼女は、右側の空間にある、茶色い十字架と白いキリスト像にまで、二人を案内する。
ナタンとメルヴェ達は、手前にある燭台が置かれた、台座を見ながら彼女に礼を言った。
そして、彼女が開いた右側のドアへと向かっていき、二人とも室内に入った。
「ククッ! いえ? 礼を言うのは、こちらこそよ…………」
「警察だっ! 手を上げろっ!」
「動くなっ! 貴様らを逮捕するっ!」
こうして、サンドラは二人に対して、武器や情報を提供して、彼等の逃亡を手助けしてくれた。
そう思えたが、彼女の正体は、帝国警察が市中に紛れ込ませた、密告者だった。
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