「さて、残りは貴様の処遇だが…………」
「どうするってんだよ? く、うっ!」
フォイルスニェーク大尉は、ナタンの方を向くと指揮棒《タクト》の先を彼の顔に合わせる。
しかし、それに動じず、ナタンは即座に、MASー1935を引き抜く。
「なっ! 私を撃とう…………」
「いや、あんたの後ろさっ!?」
反撃しようと指揮棒《タクト》から氷結魔法による冷凍ビームを放つ、フォイルスニェーク大尉。
しかし、ナタンは彼女の攻撃が、左肩を掠めようと全く気にせず、拳銃から弾丸を二発も撃った。
「ぐ、ぅ………………」
ドサッと路上に転がる、全身が真っ黒に染まった、レジスタンス員。
ナタンは、あの炎獄を生き延び、不意打ちを加えようとした伏兵を撃ち殺したわけだ。
彼が倒れたと同時、地面には粗悪な鉄パイプを組み合わせて作られた、二連散弾銃が落下した。
「助かったぞ、しかし相変わらず貴様の所属は不明なままだしな? 取り敢えずは銃を下ろせ」
「ぐ…………助けたのに、まだ信用しないのかよ、あんたは相当用心深いらしいな」
フォイルスニェーク大尉は、自らを助けたはずのナタンを未だに疑う。
それは、彼が帝国側の者である振りをするために行った、今のレジスタンス側に対する攻撃だが。
これが、信用を得るために、敢えて行われた裏切り行為かも知れないからだ。
まあ、実際には彼女の思う通り、彼はレジスタンス側の人間であることは事実だが。
『…………この女指揮官は疑い深い…………どうしたら良いんだよ…………』
助けたにも関わらず、信用を得られなかった、ナタンは心の中で愚痴る。
「タメ口なんて生意気な奴だ…………だが、しかし気に入ったぞ、今夜は貴様を喰うとしよう」
「うっ!? な、何を?」
フォイルスニェーク大尉は、ナタンにサッと近づいたと思ったら、彼の頬を強く抱き締める。
それから、青く光る舌を素早く這わせ、右頬を舐めた。
「さっきの紅いトラックは私の攻撃魔法で充分に吹き飛ばせた、それを邪魔するとはな…………貴様の動きを察するに主の身を守るように躾られたんだろう」
「は…………顔が近いですよ」
女狐みたいに目を細めて、フォイルスニェーク大尉はナタンの両頬を掴む。
そうして、彼のルクソールブルー色をした、眼を真っ直ぐ見つめる。
透き通るような瞳を覗き込む、彼女の目は見開かれており、瞳孔が点になっている。
「それも、騎士のように忠実な下僕として身を挺するよう、脳にインプットされたんだな」
「はぁ? そうかも知れませんが…………」
「ケッ!?」
フォイルスニェーク大尉は、ナタンを見つめつつ目を細めてニヤリと嗤う。
彼が、困惑していると何処からか誰かが咳き込む声が聞こえてきた。
「ゲホッ! ガハ………………」
「は? まだ生きていたのか、よし連れて行け」
二人が目を向けると、雪積もる路上に一人だけ黒焦げに成った、レジスタンス員が倒れていた。
フォイルスニェーク大尉は、無慈悲にも連行するように周囲を走り回る部下に命じた。
「…………く、最後のいちげっ!」
苦しそうに咳き込みつつ、体を起こそうとした、煤まみれのレジスタンス員だったが。
彼は、焼けたジャケットから手製のジップガンを素早く取り出す。
「させるかっ!」
「このおっ!」
「ぐおっふ?」
間一髪で、レジスタンス員の右腕をスーラーンが蹴り上げ、イラクリが後頭部を踏みつける。
「我々の戦力は、常に不足しているからな? それも、これも貴様らのせいだがなっ!」
「グゥフッ!?」
フォイルスニェーク大尉にも、背中に体重を掛けて踏まれる、煤けたレジスタンス員。
彼は、レジスタンス部隊の中で、生き残ってしまった者であり運が悪かった。
酷い火傷を負いながらも、帝国兵に最後の一撃を与えんと考えたと思われる。
しかし、捕まってしまえば、人生を終える死刑か、或いは精神と記憶を消す人格の抹消かだ。
『…………またか? また、これか…………』
そして、ナタンは捕虜にされた、レジスタンス員を前に何も出来ないでいる。
「イラクリ、スーラーン、連れてけっ!」
「はいっ! 大尉っ!」
「了解しましたっ!!」
フォイルスニェーク大尉の命令に従い、イラクリとスーラーン達は直ぐに動く。
二人は、素早くレジスタンス員の両腕を後ろ手にしてから手錠を填める。
「くそぉ…………」
と、レジスタンス員は呟きながら、何処かへと両足を引き摺られながら連行されて行った。
「これで、ようやく片付いたな…………それで、貴様の名前は何だ?」
「は? は、はい…………ナタン二等兵ですっ!!」
ナタンは、緊張しながら目の前に立つ、フォイルスニェーク大尉を見た。
また、いきなり魔女から名を問われた、彼は慌てて姿勢をビシッと正して答える。
「気に入った、今から貴様も私の指揮下に入れ、さあっ! 残敵を掃討するぞっ!」
「……はい、了解しました」
頭を撫でながら、フォイルスニェーク大尉は、ナタンを褒める。
『…………これはコレで困ったな? おかげで逃げるタイミングを見失ったぞ…………』
今度は、気に入られた事により、ナタンは再び逃げる機会を失なってしまった。
「今度は何だ、テロリスト達は派手なカーニバルでも始めたのか」
「報告しますっ! 付近のビルから奇襲を受けましたっ! 現在、帝国警察部隊が応戦中との事ですっ!」
フォイルスニェーク大尉は、苛ついた様子で爆音が聞こえる方角を探す。
そこへ、通信機付きの野戦帽を被った帝国兵が報告しに来た。
彼を見るなり、彼女は不機嫌なまま呟く。
「まぁ良い…………貴様は私と一緒に来いっ! 指揮下に入って共に戦うんだ、もちろん、嫌とは嫌とは言わないよな?」
フォイルスニェーク大尉から、ギロリと睨みつけられた、ナタンに拒否権は無い。
「了解です、着いて行きます」
魔女から気に入られた、ナタンは渋々魔女が率いる部隊に同行する事となった。
「早速だが、今聞いたビルに向かうっ! 行くぞっ!!」
フォイルスニェーク大尉は走り出し、付近に居た彼女の部下達も後を追う。
彼女とナタン達を含む、八名の帝国軍部隊は、炸裂音と銃声が木霊する隣の道路を目指す。
今、彼等が走っている場所は、ビルの合間だ。
この向こうでは、レジスタンス達が頑強に抵抗を続けているようだ。
「イラクリ、スーラーン、ブラトノワ、貴様等は私とともに来い…………ラハーラー、プリンス、オリガ、ナタン達は右から行けっ!!」
フォイルスニェーク大尉の命令が響くと、合間から出た全員が、二手に別れて通りを走抜ける。
ナタンは、ビルに立て籠るレジスタンス達が、自動小銃で撃ってくるのを確認する。
その手前では、警察隊員たちが破壊された、警察車両から応戦していた。
四台もある、パトカーの黒と青に塗装された車体は、既にズタ襤褸に成っていた。
だが、他に身を隠す場所はない。
「まずは隠れなきゃな、」
ナタンは、一番右端にあった、パトカーの側面に貼り付く。
そこに居る、警察部隊員は、僅か四人のトーテン・シェーデル・ゾルダートだけだ。
もちろん、フリッツ・ヘルメットと防弾ベストを身に付けてはいる。
それに、武装はH&K、416ライフルだ。
しかし、二階や三階から大量の銃弾が降り注ぐ現状では、心許ない装備と武装であった。
「増援かっ! 有り難いっ!」
「助かったぜ?」
警察部隊員たちは、後方から現れた味方に安堵したのか、溜め息を吐いたり弾倉を変える。
「何を手こずっているっ!! 相手は、たかが貧弱なテロリストだぞっ!!」
「ああ? 何言ってやがるっ! 連中は重武装で、ハイテク兵器まで投入して…………」
ナタンは、真ん中から右側のパトカーに隠れた、フォイルスニェーク大尉を見た。
すると、彼女に口答えした警察隊員の背後から、突如銃撃が始まった。
「ぐきゃっ!」
後頭部を撃たれた、警察隊員の青い血と髄液が吹き飛んだ。
「はっ? 空襲だと、ええいっ! 撃ち落とせっ!」
空から滑空してきた、襲撃者の正体は、たった一機しかないドローンだった。
奴は、銃撃を止めると、反撃を予測したのか直ぐに飛び去る。
それを、目で追いつつ指揮棒《タクト》から氷結魔法を放つ、フォイルスニェーク大尉。
『…………アフレアからの支援か? ギデオン達も使ってたな…………しかし、今の俺には厄介な敵だ…………』
空を良くみると、他にも多数のドローンが飛び交い、滑空しながら銃撃しているのが見える。
ナタンも、自身のMASー1935拳銃を撃ちながら、飛び回る無人機部隊を牽制する。
幸いにも、後方のビルにも味方部隊が居るらしく、そちらにドローン達は攻撃を集中させていた。
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