ナタンとメルヴェ達は、アジトへと続く帰路を、ひたすら走っていた。
彼らは、先ほどの任務を終えたため、一刻も早く安全な場所に戻る必要があったからだ。
「敵は居ないよな?」
「大丈夫みたいね?」
地下の闇が、ナタンとメルヴェ達を包み込む中、二人が走る足音だけが静かな夜空に響いていた。
「はあ、はあ、もう少しだけ走ろうか」
「そうした方が良さそうだわ…………?」
ナタンは、息を切らしながらも、決して立ち止まることなく、前を見据えて走り続けた。
アジトまで、出来るだけ急いで戻らないと、テロの後ゆえに、帝国側が巡回などを強化するからだ。
メルヴェは、彼の後ろで背中を見つめながら、時おり背後に振り返る。
こうして、背後から敵が襲撃してこないかと彼女は警戒を怠らないのだ。
「もう少しで、セーフルームだわっ! ナタン、頑張ってねっ!」
「そこまで行ったら、少し休もうか?」
メルヴェが笑顔で声をかけると、ナタンも微笑みながら、さらに走る速度を上げた。
彼等は、仲間たちとの再会を心待ちにしながら、アジトへと近づいていった。
だが、その前にレジスタンス側しか知らない、小さな仮拠点がある。
二人は、後少しで秘密裏に作られた、そこまで、たどり着けるのだ。
「ここだ、このドアの中に入れば、セーフルームだ」
「まさか、ここが私達の安全圏だとは、帝国も思わないでしょうね」
配電盤室と書かれた、プレートが貼り付けられた、ドアを開くと、ナタンは室内に入る。
メルヴェは、周囲や背後への警戒を解かず、静かにドアを閉めた。
それから、二人は奥に設置してある黒い機械をズラして、すばやく中に飛び込んだ。
また、蓋を閉めてしまい、そこで彼等は、二つの天井から下げられた電球に明かりを灯した。
「木箱が幾つかある? 座って休もうか、コーヒーとクラッカーもある」
「そうしましょう…………道は長いし、少しだけ休憩したら、また何処かから地上に出ましょう」
ナタンとメルヴェ達は、長い逃走の後、疲れ果ててながらも、セーフルームにたどり着いた。
身を寄せ合うようにして、疲れた体を休めるために、二つ並んだ木箱に、彼等は座り込んだ。
「ふぅ…………やっと休めるね」
「だわね~~? でも、もう安心よっ!」
ナタンが肩から力を抜いて、ため息をつくと、メルヴェも微笑みながら頷いた。
この仮拠点《セーフルーム》は、外から遮断されており、静寂と安全が保たれていた。
「ふぅ~~ふぅ~~?」
「よっと」
ナタンは、電球が放つ柔らかなオレンジ色の光を浴びながら、目を閉じて深呼吸を繰り返した。
メルヴェも、死体から剥ぎ取った、H&K416を木箱の右側に置いて、全身から力を抜いた。
「ここは、本当に心地いいね? こんなに静かな場所だと寝てしまいそうだよ」
「フフ? こらこら…………ここに、コーヒーのペットボトルがあるでしょう? それを飲んで眠気を覚ましなさい」
ナタンが言うと、ナタンも微笑みながら、クラッカーの袋を開きつつ返事する。
「だね? ここは、まだ敵地のど真ん中だ? コーヒーを飲んだら、また動きに行かなきゃね」
「そうよ、弾詰まりしてないか、確認しなきゃ成らないわね」
ナタンとメルヴェ達は、地下道で敵から奪った銃の確認作業を始めた。
「っと、その前に一杯だけ飲むよ」
ナタンは、ペットボトルを手に取り、コーヒーを一気に飲み干した。
それから、敵が使用していた、H&K416を注意深く点検し始めた。
機関部の状態、射撃モード、それに弾倉を抜いて、装填されている残弾数を確認した。
これ等を、丁寧に確認することで、彼は自動小銃の状態を正確に把握しようとする。
メルヴェは、彼を隣で見守りながら、周囲に対する警戒を怠らなかった。
彼女は、敵が上から襲撃してくることを想定して、天井に目を配った。
「メルヴェ、銃の点検が終わったから、こっちは木箱を積み上げる? その間に、君も銃を調べてくれ」
「分かったわ、じゃあ階段を作るのは頼むわねっ!」
ナタンは、重たい木箱を何個か積み重ねて、階段を作っていく。
その間に、メルヴェは自動小銃を弄って、手早く確認作業を終えた。
こうして、二人は休憩を済ませると、また蓋にしている黒い機械をズラして、慎重に外へと出た。
「よっとと、敵は無し? メルヴェ、大丈夫だっ!」
「うっしょ? 本当に居ない見たいね?」
配電盤室には、敵は見当たらず、ナタンはH&K、416の銃口を下げる。
しかし、彼は気を抜くことなく、いつ敵兵士が現れても対応できるように、心構えが出来ている。
メルヴェも、外に出ると、暗闇や真後ろから帝国軍や帝国警察などが、奇襲して来ないかと見張る。
それから、黒い機械を移動させながら、仮拠点への入口を閉めてしまった。
「ここから先も、先導するっ! メルヴェ、着いてきてくれ」
「分かっているわ、ナタン…………じゃあ、後ろは私が担当するわね」
ドアを静かに開けると、ナタンは敵が存在しないかと確認する。
また、敵影がない事を確かめた彼は、なるべく足音を立てずに、地下道を歩いていく。
メルヴェも、背後に一回だけ振り返ると、そこに誰も居ないことに安堵する。
そうして、彼女は前を歩くパートナーの背中を見ながら足早に進んでいく。
「ん? ヤバいな…………」
「どうしっ? 敵ねっ!」
暫くの間、ナタンとメルヴェ達は、暗い地下道を歩きながら息を潜めていた。
二人は、帝国軍・帝国警察の部隊が巡回しているのを知っている。
まして、テロが起きた後なので、尚更連中が動いており、それらと出くわさないように願っていた。
しかし、運悪く、警羅に出ている帝国警察部隊の一団と遭遇してしまった。
だが、幸いなことに連中は、まだ彼等の存在に気がついてない。
「この先に、敵が隠れているかも知れないっ!」
「いいか? 全員、気を抜くなよ」
「不味いな…………? 今きた道を戻るか?」
「いいえ、こっちに行きましょうっ!!」
帝国側部隊の指揮官が、歩きながら部下たちに命令を下している声が聞こえてきた。
また、副官らしき人物の出した指示も、前方から響いてくる。
身を隠すために、ナタンは再び後ろに戻ろうかと考えて、踵を変えそうとした。
その瞬間、メルヴェは前方に忍び足で、そそくさっ進んでいった。
「メルヴェッ!?」
「着いてきてっ!」
驚く、ナタンだったが、メルヴェは前へと、どんどん歩いていく。
「こっち側からなら、大丈夫っ!」
「なるほど、別な道から行くんだな」
メルヴェは、十字路を右に曲がると、ナタンも同じ場所に向かっていく。
そして、帝国側部隊が進んでくる足音を、二人は聞きながら隣の道を密かに移動する。
「これなら、バレないわね」
「全くだっ!」
メルヴェは前を見据えつつ、ナタンは後ろを警戒しながら隠密行動を取る。
「ん? 足音が…………しかも、テロリストの匂いがする? しかし、味方部隊の匂いも一緒に感じる?」
「それは、どう言う事だ?」
しかし、いきなり隣の地下道から、帝国側部隊が発する声が聞こえてきた。
ある兵士が匂いを嗅いだらしく、他の者も妙な存在に警戒感を高めたようだ。
ナタンとメルヴェ達は、急いで壁際に身を寄せ、息を殺して隠れる事にした。
「出てこい? テロリスト野郎? そこに居るのは、バレてんだよ?」
「出て来ないと、閃光手榴弾を投げてやるぞっ!」
匂いを嗅ぎながら歩く兵士と、銃を構えつつ歩く兵士たちの足音が、段々と近づいてくる。
「何言っているのさ? 私達は味方部隊だよ、今さっきテロリストを排除したばかりなんだよ」
「メルヴェ?」
「あん? 何だって…………」
「味方だと? 本当にかっ! 怪しいな」
メルヴェは、咄嗟に出任せを言って、近づいてくる敵兵士たちを欺こうとした。
いきなり、嘘を言われた、ナタンは驚いたが、彼女に合わせることにした。
しかし、匂いを嗅いでいる兵士と、その相方は警戒心を解かない。
二人の装備は、民間人が着ている衣服と、帝国側が使用する防弾ベストなどだ。
それ故、本人達から漂うレジスタンスと、帝国側の匂いが混じっている。
これで、嗅覚と聴覚が鋭い者ならば、どちら側の人間かが分からず、正体を怪しむわけだ。
「私達は、こっち側から巡回していて、貴方たちと出会ったの? そんなに心配なら、そっに行くわよ?」
「分かった、今から俺達も向かうからな」
「グスタフ、ヨハンッ! 隊列を乱すなっ!」
メルヴェの返答に、正体を確かめようとする兵士は、ゆっくりと歩いてきた。
だが、副官の声が地下道内に響きわたり、こちらに向かっていた、二人は足を止めてしまう。
「仕方がない…………グスタフ、行くぞっ!」
「ああ、そう言うことで済まないが、我々は先を急がせて貰うぜ」
「それは分かったわ、じゃあ、またねっ!」
「勘違いさせて、悪かったなっ!」
ヨハンと呼ばれた兵士が踵を返したらしく、匂いを嗅いでいた、グスタフも離れていくようだ。
メルヴェとナタン達は、二人に別れの挨拶を告げながら、反対側へと歩きだした。
「メルヴェ…………」
「ええ」
ナタンは、メルヴェに静かに合図を送り、二人は早々と帝国側部隊から距離を取ろうとする。
この後も、彼等は長い間、地下道を歩き続け、足音を立てずに進んだ。
そうする事で、帝国軍&帝国警察の注意を引かないようにして、なるべく目立たないように動いた。
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