ナタンは、自身を包囲する警察隊員たちから銃口を向けられて、絶対絶命の窮地に陥っていた。
「やはりな、赤い血液を流しているから怪しいと思えば…………」
「レジスタンスのスパイか、ならば全ての情報を嫌でも吐き出させてやろう」
降伏した、ナタンに対して、ワルサーモデル3とワルサーP38を向ける、二名の警察隊員たち。
「くっ! ここまでか…………」
ナタンは、降伏する振りをしつつ、自決しようとする隙を伺っている。
『…………とっ! 見せかけて…………』
自爆しようと懐に隠してある、手榴弾のピンを引き抜こうと、ナタンは画策する。
そんな彼の額からは、緊張のためか、冷や汗が、ダラダラと大量に流れ出る。
「ナタン、お前はよく頑張った…………だから諦めろ」
「ナタン、ゴメンね…………今の私はレオの女なのよ?」
「くぅ」
ジリジリと詰め寄る、レオとミア達は、こちらに銃口を向けたまま、慎重に歩いてくる
さらにに、周りを取り囲む警察隊員が向ける、銃を前にした、ナタンは動けないままだ。
「ふぅ? 降伏するしかないか?」
ナタンは、下手に動けば、手足を撃たれてしまうと思い、手榴弾での自決を躊躇する。
撃たれて死ぬのは良い。
しかし、敵に捕まった場合は、洗脳されて情報を吐かされた後、使い捨ての駒にされるだけだ。
それを理解している彼も、下手な行動を起こす訳にも行かず、重たい空気の中で、無言を貫く。
「ナタン、銃を捨てろ? はっ!?」
ワルサーP5Lを、右手に構えたまま、一歩ずつ、レオが近づこうとした。
しかし、いきなり地震が起きたかの如く、警察署内が揺れた。
「ぐっ! 何だっ!?」
「レジスタンスの仕業よっ!」
レオとミア達は、慌てる事なく、ナタンに銃口を向けたまま姿勢を保とうとするが。
何度も、外からの砲撃を受けて、警察署は揺れ動き、分厚い壁が吹き飛んだ。
「今だっ!?」
彼等が怯んだ隙を見逃さず、ナタンは、開いた壁の向こう側へと、一切躊躇なく身を投じる。
「チッ! 逃がすなっ!!」
「ナタン君っ!」
逃走した、ナタンを捕まえようと、レオは彼の右肩を掴み、ミアも手を差しだした。
「っ!?」
「ナタン…………また一緒に楽しくやろうぜ? 二人で子供の頃のように戦争ごっこの続きをしよう、それに今度はメルヴェも連れて来いよ」
「そうよ? ナタン…………私達は何時でも貴方達を歓迎するわ、だって仲間なんですもの」
警察署の壁から見下ろす形で、ナタンに目を向けた、レオとミア達。
二人は、彼に語りかける。
それは、嘗ての遊び仲間に対する優しい言葉であった。
「ふざけるなっ!! 俺はレジスタンスだっ! 例え俺とメルヴェだけになったとしても、俺は貴様ら帝国から彼女を守り通して見せるっ!」
「おっと危ない、危ないっ!」
「ヤバイわっ?」
ナタンは叫びながら、腰からMASー1935を取りだし、レオとミア達に向けて、発砲する。
「くっ! 離すしかないよな」
「まさか、撃つとはね…………」
それを、レオは回避しながら肩を掴んでいた手を放し、ミアも直ぐに穴の中に身を引っ込めた。
そして、ナタンが落下した瞬間に、再びレジスタンス達の攻撃が再開される。
何らかの兵器による砲弾と、機関銃から放たれ続ける銃弾が、警察署に当たり、壁を破壊しまくる。
こうして、凄まじい砲撃と制圧射撃が、加えられるようすが、ナタンの目に入った。
警察署・敷地内や外側壁面に真っ黒い煙が充満する。
それは視界を奪う煙であり、レジスタンス達が放った、幾つかの砲弾は煙幕弾だった。
「くっ! マジかよ…………」
「これは不味いわね? 外が見えないンだもの…………取り合えず一階に下りましょう」
ナタンを見逃してしまった、レオとミア達は急ぎ、彼を探しに、一階にまで走って行った。
「ぐわっ!? うぅぅ?」
警察署の三階から身を投げた、ナタンは一気に落下していく。
彼は、やがてGAZー67ジープのボンネットに、ブチ当たり、背中に感じる痛みに悶え苦しむ。
「ギデオン…………」
「今、助けてやる」
車から出てきた、ギデオンに視線を向け、助けを求めるべく、ナタンは右手を伸ばす。
しかし、奴は懐から、ウェブリー&スコットを取りだし、彼の四肢を撃ち抜いた。
「なっ! 何を? 何をするん…………」
「おいっ! この男を見ろっ! 出血した血が赤だぞ、こいつはレジスタンス側のスパイだっ!! 誰か奥に連行しろっ!」
「了解っ!」
「了解っ!!」
ナタンは、いきなり味方に撃たれたことで驚いた後、苦し気な表情で呻くのだが。
それを無視する、ギデオンは近くで戦っていた、二名の警察隊員を呼ぶ。
すると、そのまま、GAZー67ジープに乗って、駐車場から脱出した。
「くっ! これまでか…………」
己の額に、MASー1935を握る右手を向けようとする、ナタンだったが。
直ぐに、警察隊員たちに両腕を捕まれてしまい、警察署内に連行されて行く。
『ぐあ、血を流し過ぎたか? うぅ…………』
ナタンは、余りにも体に傷を負いすぎたせいか、意識を闇の中へと手放してしまった。
「今ので、最後だっ!」
「撤退の時期だっ!」
周囲にあるビルの上から、暫く砲撃を続けていたBー10無反動砲だったが。
その砲手である、レジスタンス達は、弾丸を全て撃ち尽くして逃げ出した。
複数の機関銃による制圧射撃も、やがては止んでしまった。
それにより、警察署の周辺は、無音と彼方此方《あちらこちら》から昇る煙に包まれた。
それから、かなりの時間が立った
何処か分からない、薄暗く広い部屋のベッドで、ナタンは目を覚ます。
「ここは?」
「起きたの?」
ナタンは、右から声を掛けてきた、長い金髪の美女に驚く。
彼女は誰か、それに今居る場所はいったい何処なのか不明だからだ。。
「心配は要らないわ、人払いは済んでいるから」
ニコッと笑顔を向ける、美女の衣類を身に付けておらず、シーツの下から出した裸体は美しかった。
しかし、ナタンはそれを直視せず、直ぐに顔を真っ赤にして、視線を反らす。
「フフ…………顔を剃らさないで♡」
鮮やかな長い金髪の美女、は右から垂らす、アシンメトリーと青い眼帯で、右目を隠していた。
暖かみのある薄ベージュ肌に、深海を思わせるウルトラマリンの瞳が潤んでいる。
コーンフラワー・ブルーのぷっくりとした唇も微かに揺れる。
彼女は誰が見ても、羨む程の美女であるが、いったい何者なのか、ナタンには大体予想ができた。
「貴方は帝国の?」
「そう…………イルメラ・フィーリッツ大尉よ、イルメラって呼んでね」
怪訝な表情を浮かべるナタンと、クスクスと笑う、イルメラ。
「動かないで、ちょうだい…………♡」
「うっ!」
イルメラは、そのまま猫みたいに動き、ナタンが困惑する中、正面に回り込む。
その深海みたいに輝く瞳は、真っ直ぐにナタンへと向けられ、彼を魅了して身動きを取れなくする。
「細かい事は後にして、今は二人だけの時間を楽しみましょう?」
「二人だけの時間って? はっ!?」
微笑むイルメラは、いきなり、ナタンに襲いかかり、己の唇で口を塞いだ。
それから暫くの間、二人は無言で唇を重ねていたが、やがて、顔をゆっくりと離すと、彼女は呟く。
「やっぱり、こんな女じゃあ嫌かしら?」
そう言いいつつ、イルメラは自らのアシンメトリーを右手でずらす。
その下にあった、青い眼帯も、左手で頭を振るいながら剥ぎ取る。
「どう? 見て…………」
揺れる金髪は美しかったが、イルメラのアシンメトリーと、眼帯で隠された物は衝撃的だった。
そこには、青色の酷い火傷と、腐敗痕みたいな醜い顔があったからだ。
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