ハンザ連邦合衆国、中央地域、ドイツェル州、ベリルン、首都中心部。
『うわぁん~~バッンバッンバッンバッン』
政治ニュース番組に、メッケル大統領が銃殺刑に処される映像が流される。
残虐な映像を見ていたにも関わらず、人々は歓喜の声を上げて喜んだ。
「やったか? 遂に…………やったあ~~~~!?」
「やったんだっ! あの糞馬鹿ババアが死んだぞぉっーーーー!?」
難民問題と左翼政党に、散々に苦しめられてきた、ドイツェル人達。
彼等は、メッケル大統領が処刑されたと言う、報道を吉報と捉えた。
街中を行き交う、人々は右手に握るタブレットに注視する。
その画面に映し出される映像を見ては、皆が笑みを浮かべる。
数時間後。
時刻が夕方になり、暗くなり始めると、LEDサーチライトが発光しだす。
それは、街中を青い光により、幻想的な明かりを灯して、夜空を照らす。
さらに、多数設置された、特別な映写機型の装置が作動する。
これにより、青いカーテンのように、ヒラヒラと揺れるオーロラが夜空に描かれた。
その下を、黒い軍服を着た兵士たちが、ガチョウ足行進で歩き。
派手な音楽を響かせて、軍歌を口ずさみながら行進して行く。
「黒き、英雄達の凱旋だあ~~~~!!」
「ノルデンシュヴァイク帝国《ライヒ》万歳っ!」
「私を嫁にしてぇっ! お願~~いっ♡」
街中を行進する、異世界から来た、侵略者の軍隊を歓迎する、ベリルン市民たち。
彼等は皆、第二次世界大戦後に滅びた、第三帝国、ナチス・ドイツェルを思いだしていた。
その勇姿を、ノルデンシュヴァイク帝国に重ね合わせ、皆で笑顔を浮かべて熱狂的に歓迎した。
規律正しく行進する兵士たちと、黒い戦車や黒い装甲車を、道路脇から眺める市民たち。
彼等は、これでイズラム教徒の難民問題や、左翼政治家達による圧政が終わったと安堵する。
だが、哀れな彼等はまだ知らなかったのだ。
英雄と呼ばれた、侵略者達の冷酷無比な本性を。
この時はまだ知らずに、盛大なパレードで行進する黒い兵士たちを市民らはお祭り気分で見ていた。
そして、彼等の意図を、疑念をいっさい抱く事なく観覧して、幸福な一時を過ごしていた。
ハンザ連邦合衆国、西方地域、スピェイン州、アルダンシア県、南部にて。
「ノルデンシュヴァイクは、ナチスだっ!? 俺達は皆殺しにされるぞっ!!」
「嫌よっ! せっかく、ハンザまで逃げて来て、裕福な暮らしが出来ると思ってたのにっ!」
「そんな事を言ってる場合かっ!? 直ぐに逃げないと奴等に殺されるぞっ!!」
北アフレア諸国から、スピェイン州まで逃げて来た難民たち。
彼等は、帝国の支配から、今度は逆に祖国まで逃げ帰ろうとしていた。
「居たぞっ! 殺処分しろ…………」
「痛いっ! …………あっ! 置いてかないでっ!」
複数の銃撃音が、枯れかけた草木からなる草原地帯に木霊する。
ノルデンシュヴァイク軍の兵士たちが、難民らを発見して銃を発砲したのだ。
難民達は、次々と銃弾の雨に撃たれて、バタバタと倒れて行く。
そして、足を挫いてしまった、アラビ人女性が草むらに倒れる。
「こんな事に成るなら…………」
アラビ人女性は、草むらの中で、じっと伏せつつ悪態を呟いた。
ノルデンシュヴァイク帝国軍の兵士達が、彼女を捜索し始める。
「一人、この辺で倒れた筈だっ! 探せ」
「了解っ!」
「了解…………」
制帽を被った、下士官の命令に従い、数人からなる帝国軍兵士たちは捜索を始める。
「確か、この辺だな…………」
兵士達は、アラビ人女性が隠れている辺りの草むらを入念に捜索して、調べ上げて行く。
その一人で、略帽を被った兵士が、アラビ人女性が隠れている草むらに、少しずつ近づいて来る。
「…………来ないで、来ないでよ? 来るな…………」
「此処か? いや違うか…………」
アラビ人女性は、略帽を被った兵士が近づいて来る度に、心臓がバクハクと鳴る。
また、冷や汗が額から滴り落ち、それが目に入ると、染みて傷みが眼球全体に広がって行く。
その痛みを耐えて、静かに略帽を被った兵士が通り過ぎることを、ひたすらに待ちながら呟く。
「どうやら、ここでは無いようだな…………」
略帽を被った兵士は、辺りの草むらに目を向けながら、そう呟くと何処かに向かって行った。
他の兵士や下士官も、辺りを捜索する為に移動し始め、次なる場所へと捜索しに行ってしまった。
「行ってしまったわね…………」
アラビ人女性は、草陰から顔を出して立ち上がり帝国軍の兵士達とは、別方向に向かおうとする。
「何処へ行くんだ…………」
「はっ!?」
いきなり、背後から先程何処かへ向かった筈である、略帽を被った兵士が現れた。
彼は、素早くビゾン短機関銃を、アラビ人女性に突き付ける。
「お願いっ! 殺さないでっ!」
「殺しはしない…………」
略帽を被った兵士は、アラビ人女性の首筋に注射器を素早く打ち込んだ。
そして、彼女は何が起きたのか理解する間も無く、深い眠りに落ちた。
「連れて行くか…………」
そう呟いた、略帽を被った兵士は、アラビ人女性を抱き抱えると、何処かへと歩いて行く。
ノルデンシュヴァイク帝国軍の三個歩兵部隊が、展開して追撃に出ている。
彼等は、難民たちを森林地帯や山岳地帯で追い回しては、殺処分していく。
先程のアラビ人女性のように、運悪く、足等を銃で撃たれた者。
足を挫《くじ》いたりと、怪我をして動けなく成ってしまった者。
疲労により、疲れはてて捕まってしまった者
そう言った、肌の白いアラビ人難民達は、洗脳改造車両や改造工場へ送られて行く。
こうして、ノルデンシュヴァイク帝国軍の侵略の尖兵へと、洗脳改造される事となる。
帝国は、肌の白いアラビ人を白人種と見なし、強引に施設へと連行し、兵士へと洗脳改造していた。
黒人種や黄色人種などは、見つけ次第、即殺処分されるか。
もしくは、施設で洗脳されて、奴隷として、強制労働に従事させられる事に成る。
ハンザ連邦合衆国、北方地域、ノルウェン州、州都オロス、警察署前。
白い肌、アッシュシルバーの髪、アイリッシュブルーの瞳。
それ等の美しい容姿を持った、女性軍人が辺りに響く大きな声で叫ぶ。
「ノルデンシュヴァイク帝国は全ての難民と左翼を殺処分するっ! …………我等ファシストに勝利をっ!」
「そうだーーーー!! 難民どもを殺せぇーー!!」
「左翼の嘘つき共を殺せ~~~~!」
街に住む住人たちは、女性軍人の言葉に共感して、歓声を上げる。
また、難民や左翼政治家に怒りを露にして、憎悪の炎をたぎらせる。
「…………フフンッ! …………いい感じに怒りが溜まって来たわね? 随分左の勢力から言い様にヤられて来たのね…………」
口角を吊り上げて嗤う女性軍人は、小さな声で呟きながら思う。
昂《たかぶ》った民衆による怒りは、容易くコントロールしやすいと。
彼女を始めとする、邪悪な帝国の侵略者たち。
連中は、悪魔が如く、人の心にある弱味に漬け込んで、優しい言葉を掛けて利用する。
ある時は、義憤に駆られた正義感を、ある時は、辛い悲しみを。
また、ある時は、飽く無き欲望を。
そう言った行為を、彼等はまるで、悪魔が人を騙して悪鬼に変える様に行う。
「…………早い内に難民や左翼に手を打って入ればぁ~~こんな事には成らなかったのにねぇ? フフッどのみちもう遅いんだけどね~~? …………」
「難民共と国はっ! 私の子供達を…………ぐああーーーー!?」
「難民共のせいで、アタシの旦那がっ! 旦那が何をしたって言うのよ~~~~」
女性軍人による邪悪な思惑など露知らず、ノルウェン州の人々は怒り狂い、演説に熱注する。
難民に、大切な人を傷付けられて来た人々である彼等だったが。
復讐の為にと、彼等は侵略者である、ノルデンシュヴァイク帝国に忠誠を誓う。
ハンザ連邦合衆国から、遠く離れた海の向こう側。
アルメア合衆国、ワシント、タロットタワー。
「今日より我がアルメア合衆国はノルデンシュヴァイク帝国に併合されるっ!」
タワー内にある記者会見場にて、ドイツェル移民二世の大統領ロナウド・タロット。
彼は、記者を一人も呼ばず、世界全土に向けて、併合宣言の放送を流す。
アルメア合衆国全土に激震が走る。
ここ数年の間に、黒人と白人と言う人種同士による対立で緊張が高まっていた。
そんな所に、タロットの併合宣言が、テレビやネットで流れた。
これにより、アルメア国内は、壮絶な内戦に突入する事と成る。
「貴方…………それで良いのよ…………ウフフ♡ 貴方は私達の操り人形、我々の都合の良い様に動いてくれれば良いだけの存在よ♡」
唐突に併合宣言を口から出した、大統領ロナウド・タロット。
彼は帝国のスパイである、メラニァ夫人により、すでに洗脳され、操り人形と化していた。
ハンザ連邦合衆国の宿敵にして、隣国。
ロシャ連邦、首都モスキワ、大統領官邸クリムリン。
「大統領、脱出をっ!」
「いや…………私はここに居る」
側近の提言を、即座に否定する、ロシャ連邦大統領、ウラジミール・ウラジブィチ・プッチン。
「我等、ファシストはロシャを既に占領している」
「大統領っ!?」
冷酷で狡猾な男、ロシャ連邦大統領ウラジミール・ウラジブィチ・プッチン。
彼の正体は、帝国から送り込まれた、スパイであった。
こうして、ノルデンシュヴァイク帝国の制圧作戦は成功に終わる。
この星で、北半球に位置する国家で大部分を、彼等は制圧する事に成功したからだ。
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