二名の警察隊員が、決死隊として、特効を敢行した事で、連合側は一気に後退を余儀なくされた。
「敵が進撃してきたぞっ!!」
「これ以上は、進ませないっ!!」
緑色の細菌保存用装置を身につけた、チィーナ軍兵士は、マスクを外すと細菌粘液を吐き飛ばす。
野戦帽を被り、体中が傷だらけの自衛隊員も、毒ガスを噴出する。
「うわっ! いったん、下がるよっ!」
「分かった、援護するから先に行けっ!」
科学攻撃から逃げるべく、女性隊員とユーセフ達は引き下がる。
「今だっ!? 予想より敵は来なかったが仕方ないっ!」
片手で、MAT49を撃ちまっていた、マフディは左手に握る起爆スイッチを押した。
「うわっ! 揺れだしたよっ!」
「どうなっているんだよ?」
女性隊員とユーセフ達は、急に爆発が連続して木霊したことに動揺する。
大量の瓦礫が崩れ、帝国側と連合側は互いに姿が見えなくなってしまう。
「ケフッ! ケフッ! おい、全員集合だ?」
「生きている者は集まりなさい?」
揺れが収まると、フロスト中尉は崩落した瓦礫の山を眺めながら命令を下す。
ネージュ準尉も、彼とともに部屋から出てきて、隊員を集めはじめた。
「…………で、君達は? 誰だい?」
「ハッ! ハーミアン・マシリンギ二等兵です」
「私は、ユーセフ・ハミース二等兵ですっ!」
フロスト中尉は後ろに振り返り、増員された警察隊員たちに質問する。
「ハーミアン? 貴方も帝国に?」
「これを、くっつけて貰わないと…………」
「その声は、レギナッ!」
左側の部屋から、レギナとルルワ達が登場すると同時、ハーミアンが彼女らに声をかける。
「レギナッ! 無事?」
「いえ、見ての通りよ」
ハーミアンの問いに、レギナは右手に握る、自身に付いていた左腕を見せた。
「負傷者は、居るかっ?」
「こっちよ、こっち」
ヴラウリオの叫びに、ルルワは彼を呼びながら歩いていく。
右手を切り落とされていた、彼女も回復魔法で、治療して貰おうと近づく。
「ん、これは…………?」
ルルワは何かを踏むと、それが男性隊員の腕であることが分かった。
「きっと、彼のね?」
「大丈夫か?」
「ヴラウリオ、軽い治療を施したら全員撤退するっ!」
「もう負傷者は? 貴方は誰? アシュア系の…………」
ルルワは、対物ライフルによる狙撃で吹き飛んだ、カルミーネの右腕を見つけた。
それを、自身の腕とともに持ち上げると、ヴラウリオに近づいていく。
フロスト中尉は、敵の逆襲に備えて、部下たちに撤退命令を下す。
ゆっくりと歩き出した、ネージュ準尉は捕虜を捕えた、シュトルムZ兵を見つめる。
「ファン・ヨンリム曹長、チュソン軍・シュトルムZ部隊の督戦隊所属でしたっ!」
「そう、生き残ったのね? 貴方もうちの隊に入りなさい」
ビシッと通常の敬礼を行った、男性兵士はファンと名乗った。
彼は、ケピ帽型の野戦帽を被り、青緑・茶・空色に染色された迷彩服を着ていた。
背中には、チュソン軍版のRPK74である、64式軽機関銃を背負っていた。
これには、短距離スコープ&ヘリカルマガジンが装着されている。
「分かりました、副隊長殿っ! 捕虜は処刑しますか?」
腰の茶色いホルスターから、白頭山ピストルを抜いた、ファンは捕虜に銃口を向ける。
「ぜぇぜぇ…………ぐぶぉ?」
「そうね、それを決めるのはっ?」
「よせ、ソイツも使い道がある? ああ~~ファン曹長、周辺の武器を集めろ」
苦しげに、俯《うつぶ》せで倒れている、ジハードを見て、ネージュ準尉は呟く。
そうしている間に、ファンが握る白頭山ピストルの銃口をフロスト中尉が下げさせた。
「他の連中も、まずは負傷兵の後送が先だ、それから出来るだけ装備を回収したら、撤収だ」
フロスト中尉は、全員に聞こえるような大きい声で命令した。
「ファン、シモーネ、ソイツに手を貸してやれっ! 他の者は装備を回収しろっ!」
「聞いた、レギナ? 積もる話もあるけど、命令が最優先だわ」
「ええ、今は武器を回収するのか先決ね」
フロスト中尉は、命の灯火が今にも消えそうな、ジハードを助けようと命令を下す。
もちろん、人命救助が目的ではなく、彼には兵力確保のために使おうと言う魂胆がある。
その命令を聞いた、レギナとハーミアン達は、忙しそうに動き始めた。
「グフッ! フロスト中尉、何とか生き残れましたな?」
「オルツィ、貴様、何処に行っていたっ!」
崩落して、瓦礫に塞がれた部屋の入口から、オルツィが出てきた。
フロスト中尉は、戦闘中に姿が見えなかった彼女を問い詰めた。
「一部・帝国軍部隊の勝手な突入と、連合側による我が隊への分断攻撃が有りましたよね? その後、私は民兵部隊と、一人幻影で兵を増やしながら戦闘していました」
「あの罠か…………」
淡々と語る、オルツィの話に耳を傾ける、フロスト中尉。
連合軍部隊は、室内に突入した、警察部隊を四方から奇襲した。
また、様々な罠や誘導により、隊員たちはバラバラに散らばってしまった。
これは、事実である。
「しかし、中々勝利できず、焦っていると? 一発放った矢が戦いに決着させました…………なんと、敵の方も私と同じ幻術兵だったのです」
「…………その後、合流した後は、密かに連合側の方に幻影兵を増やしてた訳だな」
オルツィの説明を聞いて、フロスト中尉は、彼女が嘘を吐いてないと判断した。
「はい、その通りです」
「分かった、イェスパー、彼女と瓦礫や部屋の入口を見張っていろ」
「了解したですっ!」
オルツィの話に納得した、フロスト中尉は保哨に、イェスパーを呼んだ。
こうして、二人が見張りに立つ中、警察隊員は武器を回収しながら撤収し始めた。
一方、その頃、ナタン達は部屋から出て、廊下を走っていた。
「味方と合流しなければっ!」
「もう、かなり後方に戦線を下げているはずよ」
「二人とも、どうやら敵は追って来ないね?」
ナタンとメルヴェ達は、廊下を走り抜け、土嚢を飛び越えながら進む。
その後を追っていた、フランシーヌは後ろを警戒するが、敵影は見えない。
「それでも、油断は出来ないっ!!」
「ええ、早く味方と合流しましょうっ!」
ナタンは走る速度を上げ、メルヴェも遅れまいと必死で駆けていく。
「誰か来るぞっ! 敵兵かっ!」
「射さ、いや、待て?」
廊下を抜けた先にある広い空間では、チィーナ軍兵士たちが待ち構えていた。
しかし、そこに居たのは、機関銃手のワンとチュー達だった。
「二人とも? いや、三人とも無事だったか?」
「いったい、何があったんだ?」
「戦線が崩壊した、それで建物を爆破して、これ以上の進撃を阻む事にしたんだ」
「私達は、そこから逃げて来たのよ」
ワンとチュー達は、廊下奥に銃を向けながら、三人に向こう側の出来事を問いただす。
ナタンは、起きた事の詳細を説明しながら、AK12を背負い直す。
メルヴェは、深いため息を吐きつつ、廊下の方に指を向ける。
「ここも、塞いだ方が良さそうだね?」
「ああ、今から鉄板を貼る積もりだったんだ」
「そのために、工兵隊が準備している」
フランシーヌの指摘を聞いて、ワンは近くに山積みにされた、防弾板を指さした。
チューも、廊下の正面に立ち、ダットサイト付き03式自動歩槍を構えていた。
「じゃあ、任務は終わったか?」
「そうね、やっと落ち着けるわ…………」
「大変だっ! ブリュッセル通りから敵が攻めて来ているっ!!」
「急げ、今度は向こう側が占領されるっ!」
ナタンとメルヴェ達は、床にすわり込もうとしたが、いきなり聞こえた悲鳴に驚く。
声がした方に眼を配ると、チィーナ軍兵士と自衛隊員たちが、何処かへと走ってゆく姿が見えた。
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