帝国側の総攻撃が止むと、代わって静寂に爆音や銃撃音が混じる遊撃戦が始まった。
市内各地では、建物や地下道から互いの陣営に対して、狙撃や砲撃が撃ち込まれている。
また、市街からも帝国軍の重自走砲や、連合側が用意した無誘導ロケット弾が放たれてくる。
「ナタン、ここに居たのね?」
「ああ、ウクレイナ軍部隊と一緒に戦っていたよ」
瓦礫に疲れた顔で座る、ナタンの側にメルヴェが現れた。
「顔、ゲッソリしてるし、煤けてるわよ?」
「そりゃ、そうだろ? 戦争してんだぜ」
「お話し中、悪いが、スパイ容疑に関して、答えて貰おうか」
「アンタら、まだ取り調べが終わってないし」
メルヴェの言葉を聞いて、ナタンは深く息を吸い込みつつ、愚痴りながら答えた。
そこに、ハルドルとウェスト達が現れると、二人に敵意と殺気を放つ。
「待て、話を聞いてからでも遅くはない」
今にも、腰から拳銃を引き抜かんと身構える、ハルドルとティエン達を、ウェストが止めた。
「ナタン、銀色の銃はどう説明するんだ? メルヴェも、ナザール・ボンジュウを持っているのは、みんなが知っている」
「俺の拳銃は、フランシュ製だ…………リュファスはキャナダ出身だったが、ケベック州の出身だった、ケベック人はフランシュ系が多い」
「それで、彼はナタンと同じ銀色のMAS拳銃を持ってたの? 今、奴を倒したから、ナタンは二丁持っているわ」
ウェストは、まずナタンの疑惑と銀色拳銃に関して、疑問に思っている事を問い質す。
それに彼が答えると、横からメルヴェが説明を補足する。
「本当にか? 確かに、リュファスの奴も見えないな…………」
「だから殺したんだって? 奴が、ガルムだったのよ、帝国軍兵士を引き連れてたんだから」
ウェストは、二人の説明を聞いても納得はせず、首を傾げてしまう。
その態度に、メルヴェは少し怒りながら、奴を仕留めたと語る。
「それが本当だと良てないがな」
ウェストが言った、PSWとはロボット機銃を装甲車や高機動車などにいが…………次はメルヴェ、お前の番だが、サビナもナザール・ボンジュウを持っていた」
「そうっ! 彼女こそ、アセナよっ! アジールヴァジャンは、そもそも、ティルク系民族国家だし」
ウェストの質問に、メルヴェは自分ではなく、アセナが真犯人だと話す。
「それはそうと? しかし、どうして、お前たちは逃げ出したんだ」
「ギデオンの部下に殺されるか、廃人にされるかの瀬戸際に帝国の警察隊員が現れたんだ」
「っで、連中が見張りの二人を殺害して、仕方ないから上手くスパイの振りをして逃げたのよ」
逃げ出さなければ、容疑が晴れたかも知れないと、ウェストは語った。
だが、あのまま居れば、ギデオンから何をされたか分からないと、ナタンは答える。
メルヴェも、運良く帝国側に救出されたからだと、事の顛末を伝えた。
「てか、サビナから、ナザール・ボンジュウを取り出したのも見てたのか?」
「まあ、そうね、戦闘中は身を隠し続けてたわ」
ウェストの驚いた顔に、メルヴェは気まずそうにしにがら戦闘を見ていたと言う。
「うぅ~~? まあ、二人とも、スパイ疑惑はあるが、同時に決定力な証拠もない」
「ウェスト、それより酷いな…………これを見てみろ」
ウェストが呟くと、ハキムは折り畳まれた、ラップトップを開く。
そこには、画面が四つに区切られており、様々な映像があった。
「PSWとドローンか?」
「ああ、勿論だ、この上で布を被せているからスナイパーには狙われてないがな」
ウェストが言った、PSWとはロボット機銃を装甲車や高機動車などに搭載した物だ。
しかし、ここでは歩哨の代わりとして、ハキムは屋上に設置していた。
また、静粛性の高いステルス・ドローンからも映像は送信されてくる。
「MiGー41とSUーチェックメイトか? 味方はバイラクタルTB2と飛龍7か…………」
帝国軍の有人機と、連合軍が寄越した無人機が上空では、激しい戦闘を繰り広げている。
その中には、敵機に撃墜される物や地上から対空ミサイルで破壊される機体が映っていた。
ウェストは、航空戦を見ながら、敵味方が空中で激しく散っていく様を眺めた。
「そうだ、ハキム? ハーミアンも消えたな、戦死か行方不明かは分からないんだったな」
「ああ、そうだったな? 恐らくは敵に殺られたと思うが」
「はあ~~! ハーミアンが消えたんだと」
「彼女は、帝国のスパイだとは思わないけど…………どうしたのかしら?」
ウェストは、ハーミアンが行方不明だった事を思いだして、それを口にする。
ハキムも、すでに諦めたような顔をしながら、小声で残念そうに呟く。
その話を聞いて、ナタンはビックリした表情を浮かべながら叫ぶ。
生死不明の彼女を心配しつつ、メルヴェも何処へ消えたかと不安がる。
「白々しい、どうせ、お前たちが捕まえたんだろう」
「そう言えば、帝国は人員不足から人種関係なく捕まえるようになっているとか」
「はい、はい、ストップ? そこまでにしてね?」
今まで、黙って聞いていた、ハルドルとティエン達が口を挟みだした。
しかし、二人の言葉は背後から、オレーナが現れた事で遮られた。
「仲間が消えたのは、私達も一緒よ? 二名兵士が行方不明になってね」
無念そうに、オレーナは語りながら憂鬱で疲れきった表情になる。
「おっと、それよりもっ! 私達、ウクレイナ義勇部隊は後少ししたら後方の榴弾砲陣地に向かうわ」
「あっちの警備に向かう訳か?」
オレーナは、ウェストに自分たちの隊が移動すると伝えに来た。
「そうよ、ここは貴方たちに任せる事になるわ」
「それじゃ、分かった…………ここは大丈夫だ」
散発的な戦闘が発生するのは、前線だけではなく、比較的に安全と思われている後方でも起きる。
帝国軍・帝国警察の破壊工作隊や徘徊型ドローンによる爆撃が行われるからだ。
そんな中、この崩壊しつつある建物から離れてしまう事を、オレーナは申し訳なく思う。
だが、ウェストは気を遣わせまいと、彼女の前で胸を張り笑って見せた。
「そう…………じゃあ、任せたからね」
「おうっ!」
オレーナは、微笑みながら踵を返して歩いていき、ウェストは彼女の後ろ姿を見送った。
「オルガ、リュドミラ? 移動開始すると仲間たちに伝えてね」
「了解です、隊長」
「分かりました、すぐに伝達してきます」
オレーナは、近くで銃の手入れや清掃をしている部下である女性兵士たちを呼ぶ。
茶・黒・緑・灰などで構成される、バラン迷彩服を着た、オルガは名前を呼ばれて歩いてきた。
サーマルゴーグル付き、緑色ACHヘルメットを被る、黒髪ロングヘアの彼女は短く返答した。
彼女は、黄土色の軽量プレートと、両脇に大きな弾帯を装着している。
両手には、サプレッサー&サーマルスコープ付きのズブロイア、UARー15を抱えていた。
ウクレイナ軍使用の茶色いフライトスーツに見えるゴルカを着ている、リュドミラも走ってくる。
彼女は、茶色いプーニーハットを被り、防弾ベストとベルト弾帯を六個も装着している。
ハンドガードが緑色で、ストックは緑と白の迷彩が施された、ドラグノフDMRを彼女は背負う。
「行ってしまうのか? 仕方がないな…………」
「だが、ここも兵士は揃っている」
ナタンは、ウクレイナ部隊が移動し始めると、心許ない気になる。
しかし、ウェストは彼を励ますように建物内を見渡した。
「PSW、セントリーガン、ドローン戦車、アラビ人部隊、レジスタンス? あ~~それと、中世風の民兵だな…………」
ウェストは、各種兵器と部隊の中でも、かなり異彩を放っている民兵隊を見つけた。
スタッロ・ダンター・ヤブロー・グランマッシュ達だ。
「アイツら、妙な格好をしているが実力は有るんだよな?」
「PMCの中にも、中世風の連中が居たけど、めちゃくちゃ強かったよ」
ウェストとナタン達は、中世風の四人組を見ながら呟いた。
こうして、暫くは散発的な砲撃以外に、彼等は敵の襲撃を受けることなく過ごした。
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