ナタン達の前には、帝国軍兵士たちが立ち塞がっていた。
だが、その問題は無事解決できた。
「あんた達は、他所から補充された人員だったんだね?」
「なら? 装備が、四人ともバラバラなのも納得するな」
ワーウルフとバクテリエラー・ゾルダート達は、教えられた理由に納得する。
彼等は、なぜ四人が自分達、一般警察隊員とは、装備が違うのかと言うことを理解した。
「そう言う訳だからさ? 僕等はここを通して貰うけど良いよね?」
「さっき話した通り、この肌まで真っ黒い、溝鼠《ドブネズミ》を連れてかなきゃ成らないしさっ!」
ワーウルフとバクテリエラー・ゾルダート達に、ナタンは通っても良いかと尋ねる。
そして、レギナは、捕虜として捕らわれた振りをする、ウェストの事を話す。
彼女は、背中から彼を、背中にある矢筒から取り出した、コンパウンドボウの矢で突っつく。
演技とは言え、鋭い睨みを利かせながら話す、彼女は本物の帝国兵に見える。
「ああ構わないよ…………それじゃあ我々は再び棺桶の中に潜伏する事にするから君達は先へ言ってくれ」
「じゃあ~~? 皆またねーー? さて、お昼寝、お昼寝、お昼寝タイムッと? グゥ~~~~~~!」
バクテリエラー・ゾルダートは、通行しても構わないと許可する。
その隣に居た、ワーウルフは、ナタン達四人に、手を振って別れを告げる。
直後、彼女は即座に柩の中に飛び込み、大きな音を立てる。
それから、乱暴に蓋を閉めて、五月蝿い鼾《いびき》を欠いて寝てしまった。
「我々も、一眠りするとしますかな?」
「また、カビ臭い柩に隠れて、敵の接近を待つのか…………」
ナタンを含む四人が、敵では無いと騙された、ヴァンパイアは呟く。
彼も、先に柩に入ってしまった、ワーウルフに続いて、欠伸《あくび》をしながら柩の中に入る。
その側で、トーテン・シェーデル・ゾルダートも、口から愚痴を溢す。
ぶつぶつと、愚痴を呟きつつ、奴も自らのMG3汎用機関銃とともに、柩に隠れてしまった。
「では、私達はこれにて失礼させて頂きます」
「私も失礼させて頂く」
メルヴェが、勢いよく右手を高く掲げて、ローマ式敬礼を取った。
すると、バクテリエラー・ゾルダートも、すぐさま返礼をする。
そして、彼もまた柩の中に見える、暗く狭い空間へと身を隠した。
「さてと…………では進みましょう」
「ええ、隊長殿…………」
「隊長殿、了解です」
「隊長、了解しましたっ」
進みましょうと言って、他の仲間達に指示を出した、メルヴェだったが。
彼女に対して、冗談半分で、ナタンは隊長殿と言ってしまう。
すると、二人の後ろに控えていた、ハルドルとレギナ達も、面白がって真似し始めた。
「もぉーー! みんなっ! ふざけて無いで早く行くわよっ!!」
「そうだね、ここは隊長の指示に大人しく従って行こう」
「うんうん、その方が良さそうだ」
「さあっ! キビキビ歩け…………捕虜の癖にトロ臭いぞ、お前はっ!」
『…………クソッ! こいつ等…………調子に乗りやがって…………』
ふざけている仲間達に、半ば呆れながらも笑ってしまう、メルヴェ。
そんな彼女に、さらに冗談を言い続けまくる、ナタンとハルドル達。
また、演技の為だと、調子に乗って、腰のホルスターに、レギナは手を伸ばす。
そこから、取り出した、WIST《ヴィス》ー94Lピストルを、彼女は握る。
さらに、ウェストの背中へと、ゴリゴリと銃口を強く押し当てた。
当然だが、敵を欺く為とは言え、何時までも調子に乗る、彼女だったが。
それに対して、彼は、ブチギレそうになるのを堪え、暫くは無言で我慢した。
その後、彼等は、チラリと先程の帝国警察に所属する四人が入った柩を注視した。
連中は、こちらを味方だと、完全に信用したのか、柩の蓋を、少しも開いていない事を確認する。
それから、もう安全だと、隣の墳墓に隠れている、仲間達を手招きして誘導した。
その指示に従って、ハキム・ハーミアン・サビナ・リュファス・ティエン達だが。
五人も、墳墓内を歩き、ナタン達が先に向かった、アーチ型の出口へ進んで行った。
「さっ? ここまで来れば流石に誰も居ないな」
「はぁ~~芝居を打つのは疲れるわあーー」
「もう変装は、ゴリゴリだよ」
「全くだわ、お陰で、こんなに肩が吊ったわよ」
墳墓を通り過ぎてから、かなり天井が低く、暗くて狭い地下道内を歩いた、レジスタンス達。
そろそろ、ここには誰も居ないだろうと思った、ナタンが、一人で呟いたが。
ガックシと背中を丸め、両手を膝に突いて疲れたと、メルヴェも愚痴を吐く。
その言葉を聞いた、レギナとハルドル達も、疲れたと言う顔を浮かべてしまう。
彼等も、その場で文句を言いつつ、体から力を抜いてしまい、立ち止まる。
「お前ら…………良い身分だな?」
そんな中、一人だけ、頭に怒りを溜め込んでいた男が存在した。
それは、勿論ただ一人、捕らえられた運が悪い捕虜の役を与えられた、ウェストである。
「俺が一番疲れたわぁっ! 演技だからって、お前等は揃いも揃って俺を捕虜に仕立上げてコケにしやがって、この野郎ーー!!」
「まぁまぁ、上手く誤魔化せたんだし、落ち着いてってば…………」
怒り心頭の余り、思わず狭い地下道内で叫んでしまう、ウェストであったが。
そんな彼の大声を、レギナは何とか抑えようと説得し始めたが。
「うるせーー!! レギナ、元はと言えば、お前が俺に不運にも捕まった捕虜の役をやれと言って来た上に、銃口まで突き付けやがってっ!」
「てへへ…………ご免なさい、でも必要な事だったし」
ブチギレ状態のウェストは、悪びれる様子も無く、騒ぎ続ける。
自分を宥めようとした、レギナにも彼は激しい怒りの言葉をぶつけるが。
当の彼女は舌を出して、可愛らしい少女みたいな笑顔で、直も言いわけで誤魔化そうとした。
「てへへ…………って、お前な?」
「ウェスト、もう静かにして頂戴っ!」
「ここは、敵陣の真っ只中なのよっ!」
緊張の糸が切れたらしく、何時までも怒鳴り声を上げる、ウェスト。
そんな彼に対して、静かにして欲しいと言って、真剣な顔で、ティエンが頼む。
また、かなり強い口調で、ハーミアンも彼に黙るように告げる。
「す、済まん…………」
「そんな事より、銃撃音が聞こえてくるわっ!!」
自分よりも、年下の女子二人に渇を入れられてしまった、ウェスト。
彼は、冷静さを取り戻したのか、大人しく謝って、急に汐《しお》らしくなった。
しかし、ティエンは彼に謝られた事よりも、別の物音に気を向ける。
そして、遠く何処からか響いてきた銃撃音に反応する。
「奥からよっ! 早く行きましょうっ!」
「待てっ! 敵の罠かも知れっ? …………てもう遅いか?」
サビナが駆け出すと、ハキムは呼び止めようとしたのだが、時既に遅かった。
こうして、仕方無しに、皆全員で彼女の後を追うこととなった。
狭い地下道内を走る、レジスタンス達は、アーチ型のトンネルみたいな地下道を通り抜ける。
やがて、下水道の近くまで来たらしく、悪臭漂う、十字路に別れた場所まで辿り着いた。
彼等は、そこで銃撃音が聞こえて来る方向に耳を済ませて、戦闘の様子を探る。
「…………こっちよ、微かに人の声が聞こえて来たわっ!?」
「確かね? ハーミアン、じゃっ! 行くわよ~~~~!!」
目を瞑り、全神経を耳に集中させて、周囲の音を聞き集めた、ハーミアン。
彼女が、左側から酷く匂ってくる悪臭の原因たる、下水道が存在する場所を指差す。
すると、Vz58ライフルを両手に構えた、ティエンは即座に行動に移る。
そうして、一目散に、戦闘音が聞こえてくる場所へと、彼女は飛び出して行った。
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