「さっさと、俺達のためにくたばれ」
「そいつはゴメンだねって……え?」
ワータイガーにより、フロスト中尉は投げ飛ばされてしまう。
「う……」
フロスト中尉は、投げ飛ばされてしまい、事務机が割れるほどの勢いで、ぶつかった。
「中尉、無事ですかっ!」
「雑魚は黙ってろっ!」
ネージュ準尉が心配する中、ウィザードは魔法を放つことを止めず連続で攻撃してくる。
火炎、雷撃、風刃などの魔法で牽制してくる奴を誰も止められない。
奴は、かなりの使い手らしく、強力な一撃を連続で放つだけでなく、攻撃範囲も広い。
それだけに、中々反撃に移れず、ネージュ準尉たちは焦る。
「このままじゃ、遮蔽物まで破壊されちゃう」
「それに、後ろからも」
「不味いわね、挟み撃ちにされちゃう」
「私の魔法より上の威力だし……」
前方からは全体攻撃魔法が連射され、後方からも敵部隊が近づいてくる。
ネージュ準尉は何とか反撃しようと隙を伺うが、敵ウィザードは休む気は無さそうだ。
ミアとベーリット達は、前に立つ敵をだけではなく、後ろから来る敵部隊の攻撃を警戒する。
兵種が同じウィザードである、シモーネも魔法を撃つ暇がないほど、敵の魔法攻撃は凄まじい。
「オラオラ、どした? そんなんじゃ俺たちは倒せないぜっ!」
「早く、お前ら全員、俺の魔法で死んでしまえっ!!」
「あっちでも戦闘が行われているっ!」
「援護に向かうぞっ!」
ワータイガーは、腰からを両手でイングラムを取り出すと同時に撃ちまくる。
それに合わせて、ウィザードも火炎放射器みたいに、火炎魔法を横凪に放つ。
こうして、事務机が燃え始めると言う絶対絶命のピンチに陥った、第三小隊だが。
運悪く、前進していた敵部隊が、いよいよ自分たちの真正面へと近づいてくる。
「うげげ、本格的にヤバいわね」
「この二人も意識がないわ」
ミアは、後ろから聞こえる声に対して、非常に険しい顔になる。
シモーネも、満身創痍で動けない、レオとカルミーネ達を心配する。
「ハッハーー! このまま挟み撃ちにしてやるぜっ!」
「お前たちは終わりだょ?」
ワータイガーは、残弾が空になる度に、新しい弾倉を装填しながら、イングラムを撃ち続けていた。
ウィザードも、多様な魔法を射ちまくっては、遮蔽物を徐々に破壊していた。
「よ…………」
しかし、直後どこからか音もなく、射撃が跳んできて、ウィザードの頭を横から矢が貫いた。
「はっ? 奇襲っ! さっきのスナイッ?」
ドンと言う大きな音が響くと同時に、ワータイガーは崩れ落ちるように倒れた。
「きっと、レギナとミネット達だわっ!」
「それより、負傷者を連れて前進するわっ! 撤退よっ!」
ミアが叫びながら、レオを引き摺り始め、ネージュ準尉は、直ぐさま撤退命令を下す。
「フロスト中尉? 無事ですか?」
「う……うぅ? 無事だよ? 大丈夫だ、自分で立てる」
ネージュ準尉の問いに、後頭部を机にぶつけて気を失っていた、フロスト中尉は目を覚ました。
「全く……スマホも無線も使えない、これじゃハインドも呼べないぜ」
「こっちだっ! 敵が隠れているぞっ!」
「追い詰めろっ!!」
フロスト中尉が愚痴を吐く間に、敵部隊が直ぐ側にまで迫っていた。
無線は、妨害電波を敵が放っているらしく、味方司令部に連絡ができない。
それにより、攻撃ヘリや負傷者を運ぶヘリも呼ぶ事も叶わない。
「チィッ! しつこい連中だっ! ネージュ、シモーネ…………援護を頼むっ!! ミア、ベーリット達は二人を運べ」
フロストは、命令を下しながら、割れた事務机から、MABモデルD拳銃を右手で構える。
こうして、突撃してくるのであろう敵部隊を、警戒しながら待つ。
「了解、援護に着きます」
「分かりました、ここからなら魔法の方が……」
「私達は、お先に」
「了解、負傷者を後送しますっ!」
ネージュ準尉は、P90を両手で握ると照準を覗いて机の陰から敵を待ち構える。
立ち上がった、シモーネは背中にARー10NATOライフルを回すと、右手を前に出す。
その間に、ミアとベーリット達は重傷を負った、レオとカルミーネ等を連れ出す。
「レオ、頑張りなさいっ!」
「カルミーネ、確りしてっ!」
ミアは、レオを背中に背負いながら後方へと、素早く走っていく。
ベーリットも、カルミーネを引き摺りつつ、後ろに下がってゆく。
それぞれ、二人を彼女達が後送している間にも、敵は刻一刻と迫る。
さらに、カランカランと妙な物音がした。
「不味い、閃光手榴弾《フラッシュバン》だっ!」
「きゃっ!」
「め、めめ目がっ?」
目映い光が辺りを白く照らし、フロスト中尉たちは怯んでしまう。
それに、負傷者を運んでいた、ミアとベーリットたちは目をやられてしまった。
ネージュ準尉とシモーネ達は、目を瞑ったり、腕で顔を隠したために無事だった。
だが、耳をやられた、二人もまた一瞬の隙を作ってしまう。
「突入する、援護しろっ!!」
「突撃だあっ!!」
「行け、行け、今が好機だっ!」
閃光が消えると同時に、何人もの連合軍兵士たちが室内に雪崩れ込んで来た。
彼らは、AK47で武装しており、それを乱射しながら、アチコチにひたすら走っていく。
「うわっ! 凄い数だ…………」
MABモデルD拳銃を、敵に向かって、目を瞑りながら、フロスト中尉は素早く何度も撃つ。
ネージュ準尉も、敵に反撃するべく、P90を撃ちまくった。
同じく、シモーネも雷撃や氷結魔法を放って、敵を押し留めるべく応戦する。
「効くかよっ!」
「このくらいっ!!」
「ダメだわ、まるで全然効いてないっ?」
「何なのよ、コイツら……」
銃撃や魔法を何発喰らっても、敵は怯む事なく突っ走ってくる。
まるで、攻撃が効いてない幻かの如く、無限に沸いてくるかと思うほど、走る敵。
ネージュ準尉が持つ、P90から放たれた弾丸が全く効かない。
同様に、シモーネが氷結魔法の氷柱《つらら》弾丸を乱発しても効果がない。
「援護するっ! 俺なら魔法も弾丸も弾き返せるからなっ!」
しかも、ミニガンを装備した敵のシュヴァルツ・リッターまで現れた。
コイツには、軽火器での銃撃や半端な魔法攻撃では歯が立たない。
爆弾や対戦車用兵器を持たぬ、軽装備の第三小隊に取っては、かなり強敵である。
「不味い、このままでは敵が圧してくるっ! ………は?」
絶望的な状況の中、フロスト中尉は妙な音が聞こえてきた、向かい側にあるビルをチラリと見た。
そこから、今度は大きな爆発音が聞こえ、噴煙がビル内から噴出するさまが見えた。
「うわっ! 今度はこっちに来るっ! みんな伏せろぉっ!! ぐわっ!?」
向かい側のビルから跳んできた、RPGー弾を見て叫ぶ、フロスト中尉だったが。
直後、大きな衝撃音が室内に響き渡り、灰煙が辺りを覆ってしまう。
「はあ? シュヴァルツ・リッターが粉々だと?」
「敵兵士も、何人か死んでいるわ? 後の連中は何処に?」
「と言うか、我々も早く逃げないとっ!」
「負傷者を連れてかないと、ならんしっ!」
RPGー7から放たれた弾頭は、敵のシュヴァルツ・リッターに見事命中した。
ようするに、RPGー弾が直撃した奴は、木っ端微塵に吹き飛んだのだ。
周りの連合軍兵士たちも、爆風と衝撃に巻き込まれたらしく、死体と化していた。
これにより、辺りは静まり返る。
フロスト中尉とネージュ準尉たちは、死んだ敵部隊を見て呟く。
ミアとベーリット達も、負傷者である二人を連れて行こうと、再び走り出す。
後方から、何台もの黒いパトカーが車列を作って、やってくる。
その最後尾には、黒色に塗装された、BTRー80装甲車が、二台も止まっている姿があった。
「援軍だっ! 敵は何処だっ!」
「ここの敵を押し返すぞっ!」
一般の警察隊員が、何人も現れた後、医療チームもやって来た。
「負傷者は?」
「あの二人だ、かなりの重傷だ…………」
「二人とも、助けて下さい」
医療チームのリーダーらしき、軍医みたいに白衣を着た、リッチが質問した。
それに、フロスト中尉は傷ついて動けない、レオとカルミーネ達を指さす。
到着したばかりの医療チームに、ミアは二人を治療して欲しいと悲痛な顔をしながら頼む。
「分かった……衛生兵、負傷者を搬送するっ! 自動担架を呼んでくれ、私はその間に治療を施す」
「了解しました、直ぐに呼びますっ!」
軍医のように白衣を纏った、リッチは部下であるナース姿をした、リッチに命令を下す。
「……爆散したのは分かるが? 死体が少ない……」
フロスト中尉は、ふと敵の死体が足りない事に気がつき、そちらに目を向ける。
無限に到着する敵兵士たちの姿には、流石に驚かされたが、それらが死体と化した。
その数が足りないから、彼は困り果てる。
一人、彼は敵兵士が隠れていた、事務机の裏まで行くが、やはり死体が数体程度しかない。
だが、その理由が分かった。
「そう言う事か…………やはり、化かされていたか」
呟きながら、敵シュヴァルツ・リッターの吹き飛んだ場所を調べた、フロスト中尉。
彼が目に入れた物は、数人の連合軍兵士たちが、火傷や破片が刺さって頃がっている姿だ。
無論、既に事切れてはいるが、その中には、気になる死体があった。
ソイツは、緑色の服装だったが、肩からは赤色をした派手な民族衣裳を羽織っていた。
つまり、先ほどの戦闘では、敵ソーサラーが幻影を見せていた訳だ。
「さっきのRPGー弾が着弾して、上手く爆風に巻き込まれてくれたか?」
ソーサラーも、全員がピエロのような姿をしている訳ではない。
そして、今回は、アラビ人ソーサラーが敵に存在したわけだ。
それが、運良く味方が放ったRPGー7による砲撃で散ってくれた。
こうして、フロスト中尉たちは窮地を救われ、何とか助かったのだった。
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