閃光手榴弾が放った、眩《まばゆ》い光が収まると、すぐに機関銃手は敵を狙おうとする。
だが、再び、重機関銃から正確な銃撃が始まらない内に、ザミョール中尉達は先手を撃つ。
「敵に対して、射撃するっ! こっちも圧力をかけるんだっ!」
地面に伏せたままの姿勢で、ザミョール中尉達は、AK12で制圧射撃を行う。
彼等が、行った銃撃は、本来なら重機関銃に命中しているはずだが。
鉄板に被弾しているのか、金属音を立てて弾かれているようであった。
「くぅっ!?」
楯を構えた、カピトリーナ二等兵は、ゆっくりと歩いきつつ前進する。
そして、時折命中する重機関銃から飛んできた弾丸が、自らの楯を削る音を耳にする。
飛んでくる弾丸は、12、7ミリ弾よりも大きいらしい。
もしそれが、楯のど真中に命中すれば、彼女は命を落としてしまうであろう。
さらに、銃撃とともに飛んでくる火炎球や、他の小火器類による銃撃など。
レジスタンス側は、彼女を、そう易々と前進させてくれない。
「敵の姿が見えない…………」
カピトリーナ二等兵の背後に隠れている、ギルシュ二等兵。
彼は、ドラムマガジン付きのAEKー941を横向きにして、乱射しつつ援護する。
姿を隠しつつ、彼は視認性を下げるために、自らの口から青い毒ガスを吐き出す。
これで、重機関銃手からは、自分達の姿が見えないように視界を遮った。
「これで、少しは安全に成りましたよ」
「ありがとう、でもまだ気は抜けないわよ?」
ギルシュ二等兵が、援護射撃を続ける中、カピトリーナ二等兵は、楯を構えつつ小走りで前進する。
「二人を助けないとね、そらっ!」
ドライアド姿をした、女性警察隊員は、再び閃光手榴弾を投げ込み、重機関銃の視界を妨害する。
「タマラ、もう無いのか?」
「中尉、もう弾切れです」
ドライアド姿の女性警察隊員は、ザミョール中尉から、タマラと呼ばれる。
彼女は、ポケットや弾帯を探り、残念そうな顔をしつつ、もう閃光手榴弾が無いことを伝えた。
「ぐふっ!?」
「ソロモン一等兵、無事だったか?」
そんな中、地面に倒れて動かなかった、ソロモン一等兵が息を吹き替えした。
なので、ザミョール中尉は、すぐさま彼に無事かと声を掛けた。
「ええっ! 肩と脇腹を負傷しましたが、何とか無事のようですっ!」
「ふむ、キルサン、手当てしてやれ」
「直ちに」
衛生兵リッチである、キルサン二等兵は匍匐前進で動いていく。
そして、ソロモン一等兵に近付くと、魔法を詠唱して負傷痕を癒す。
「エフロン、これで出血は止まったが、飽くまで応急処置ですから、後で医務班にて本格的な治療を受けて下さい」
「分かった、助かったよ」
呪文を唱えた、キルサン二等兵の右手からは、淡く発光する青白い光が出てきた。
その光は、ソロモン一等兵が負っていた、怪我を癒した。
唱えられた、エフロンと言われた、回復魔法。
それは、肉体改造を施された帝国人の身体中に流れる青い血液だが。
即ち、ナノマシンによる体内の修復作用を刺激して、回復力を増進する効力を持つ。
これは、出血や壊死を止める魔法と、医療技術を組み合わせた物である。
「イスハーク、お前の手品で、アレは何とか成らないか?」
「何とかなるなら、とっくにやってますよ、隊長?」
ザミョール中尉は、ミミックマスターである、イスハーク二等兵に期待するが。
彼もまた、事態を打開する手段を持ってはいなかった。
「もう少し近付けたなら、俺も何かできたでしょうがっ!」
イスハーク二等兵は這いつくばったまま、敵を狙う。
そうして、RMBー93散弾銃を両手に構えて、ポンプを引きつつ乱射していた。
「止まった…………弾切れか? それとも銃身過熱でも起きたか?」
重機関銃による激しい機銃掃射は、なぜか急に止んでしまった。
これを好機と捉えた、ザミョール中尉は部下に命令を下す。
「ソロモン、ゲンナジー、あそこまで行けるか?」
「大丈夫です、まだまだ自分もアーマーも何とか動けますから」
「行けます、突撃ならば行くのみです」
ザミョール中尉は、案内役の二人に敵に向かって行けるかと問う。
すると、ソロモン一等兵とゲンナジー伍長たちも、何時でも行動出来ますと答えた。
「よし、なら俺に続けっ! 他の者は援護射撃を頼む」
「はい、中尉っ!!」
「了解です、中尉っ!」
重機関銃から、制圧射撃が再開される前に、ザミョール中尉は素早く駆け出す。
その後を、ソロモン一等兵とゲンナジー伍長たちが続き、突撃していく。
「今がチャンスだわ、ギルシュ、行くわよ」
「そうですね、援護は任せてっ!」
楯を構えたままのカピトリーナ二等兵も、銃撃の中を突っ込んでいく。
彼女も、右手のGShー18ピストルを撃ちながら、前進し始める。
その背後から、ギルシュ二等兵も、ドラムマガジン付き、AEKー971を撃つ。
「そんなに簡単には行かせないよ」
緑色のピエロ男は、天井から、ぶら下がりながら不気味に笑って呟く。
奴は、カピトリーナ二等兵とギルシュ二等兵たちの背後を狙って腕を振る。
そうして、勢いよく、スローイングナイフを投げ始めた。
「ぐっ!?」
「うわっ!」
突然の奇襲に驚き、カピトリーナ二等兵とギルシュ二等兵たちは、身を屈める。
音もなく背中に当たった、刃は運良く防弾プレートに弾かれた。
しかし、二人は敵を放置する訳にはいかず、背後に振り向いて、天井付近へと目を向ける。
「弾切れ、ならコイツを喰らいなさいっ」
「後ろからとは…………」
カピトリーナ二等兵は、弾切れのGSHー18ピストルを、腰のポケットに仕舞う。
それと同時、即座に広範囲へと雷撃魔法の紫電を天井に放つ。
ギルシュ二等兵も、それをAEKー971による弾幕射撃で援護したのだが。
二人が攻撃した時には、既にピエロ男は移動しており、頭上には居なかった。
「くぅ~~? アレに当たらなくて良かった、弾丸は肩を貫通したが」
そう呟きながら、天井を音も無く、ピエロ男は真っ直ぐ走る。
そのまま彼は、味方の重機関銃が配置された、陣地にまで戻る。
重機関銃の設置してある場所からは、途切れなく、14、5ミリ弾や火炎球が放たれ続ける。
そこには、六人で構成される、連合軍コマンドー隊員が、木箱やドラム缶などの裏に隠れる。
彼等は、銃を撃ち、激しく抵抗しながら応戦していた。
「ウェイン、どうだった? 敵の様子は?」
「いや~~? 中々、手強い連中だわ」
緑色のベレー帽子を被り、黒髪ロングヘアーが、草葉に成っている黒人女性が、後ろに振り向く。
迷彩服とギリスーツ姿をした、彼女は戻ってきたばかりのピエロ男ウェインに声をかけた。
また、弾薬が尽きたらしく、重機関銃から放たれていた機銃掃射が途切れた。
「それより、間も無く掃射を再開するっ!」
「援護しろ、弾幕を張って奴等を近付けるなっ!」
緑色のケピ帽を被った、顔半分が赤黒く腐っている、迷彩服を着ている男。
プーニーハットを被った、迷彩服を着ているヒゲ面の男。
敵を、重機関銃に近付けまいと、弾幕を張るためにと、二人は必死で手持ちの銃を発砲する。
ケピ帽の男は、FAーMASG2を左右に銃身を振って乱射させる。
プーニーハットの男は、L96を構えたまま横凪に弾丸を連射しまくる。
二人は、それぞれ銃を撃って段々と距離を詰める、帝国側部隊を迎え撃とうとする。
「もう襲いっ! ここまで来たら、こっちの勝ちだっ!」
彼等は、重機関銃による制圧射撃を再開しようとしたが。
もう既に、五メートルほど、手前にまで、ザミョール中尉たちの部隊が迫っていた。
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