「早く退いてよ…………」
「あっ! 申し訳ないっ!?」
真っ白な顔を、赤らめた魔法使いは、視線を剃らしたまま恥ずかしげに言う。
ナタンも、頬を紅潮させながら直ぐに彼女の上から退いた。
と、同時に彼女の手を引っ張り、右側にある検問所裏に隠れる。
「ちょっと、私は?」
「RPGーーーー!?」
怒鳴るエルフだったが、その時、近くにある建物から帝国軍兵士が、叫ぶ声が聞こえた。
「ポクレン、早く隠れてっ!」
「身を隠せ!!」
飛んで来るRPGー7の弾頭と白煙が見えると、エルフの名前を魔法使いが叫ぶ。
その声が響くと同時にナタンは走り、ポクレンと呼ばれたエルフを助けに行く。
しかし、そこにRPGー7の弾頭が着弾する。
弾頭は、爆風と灰煙を巻き上げたが、そこに彼等の姿はない。
ナタンとポクレン達は、左側の検問所裏に隠れており、無事に難を逃れたからだ。
それから、煙が晴れると。
「危なかったな? また間一髪だったぜ…………」
「あっ? うん…………」
ナタンは両手を突いて、ポクレンを庇うようにして立っていたが、彼女は顔を紅く染める。
何故なら、爆風が収まって直ぐ、眼前に彼の顔があったからだ。
「さっさと行かないとな?」
「あっ待ってっ!?」
しかし、当のナタンは早く味方拠点に帰るべく、走り出して行ってしまう。
ナタンには、左右に広がるビルの合間から、銃で反撃する帝国軍兵士たちが見えた。
彼等は、破壊された遠くにあるビルの壁穴や窓から銃撃を耐えていた。
ナタンは、彼等の動きに注視する。
レジスタンス側の攻撃が余程激しいからか、帝国軍側は、やや押され気味だった。
「んもう~~?」
「彼は何処の隊の所属かしら?」
走って行ってしまった、ナタンの後ろ姿を見ていた、ポクレンと魔法使い達。
「ウィッチカ、行くわよ? 彼を追うわっ!」
「あっ! ポクレンったら…………」
路上を凄まじい勢いで走り続ける、ナタンの後を追うべく、ポクレンも駆け出す。
それに、ウィッチカと呼ばれた魔法使いも、それに続いていく。
彼女達も道路を走り抜け、破壊されたビルの壁穴を目指す。
何故なら、そこで彼が身を隠して、レジスタンス側の様子を伺っていたからだ。
「レジスタンス側は?」
ナタンは、レジスタンス側を注視する。
『…………さっきは勢いで助けちゃったけど、本来は敵なんだよな…………』
かなり遠くから、レジスタンス側は、こちらを攻撃してきていた。
これ以上近づけば、姿を補足されて撃たれるだろうと、ナタンは考える。
連合軍から、供与された重火器を、レジスタンス側は使用しているらしい。
時おり激しい砲撃が飛んで来る。
「敵は何処から…………ん?」
ナタンは、RPGー7の砲撃で破壊された遠くの道路に目を向ける。
そこに開いた洞窟の入口に似た穴は、きっと地下道に続いているであろう。
また、中に侵入する事で、彼はレジスタンス側の攻撃を掻い潜る事が可能だと考えた。
「よっし!」
穴に向かって駆け出した、ナタンは無数の機銃弾が、自身を狙うにも構わず走る。
穴の近くまで来ると、彼は高く飛び上がり、地下道に入ると、床に降り立った。
先程まで、己を殺すべく放たれていた数々の銃撃と砲撃だが。
それ等が、聞こえるのは頭上にある穴からだけだ。
彼は、見上げていた穴から、暗い地下道の奥へと目を向ける。
そこから、レジスタンス側の方向に、一人黙々と進んだ。
「ん?」
砲撃で揺れる黄土色をした、地下道の天井からは、土埃らしき物が崩れ落ちる。
それ等を気にする暇なく、ナタンは奥に向かっていくのだが。
前方から、微かに物音がする事に彼は気づいた。
「レジスタンス達は、地下でも…………」
レジスタンス側の部隊は、地下道でも激しい戦闘を行っているらしい。
時おり、大きな金属音や銃撃音が、前方から聞こえてくるからだ。
その正体を確かめるべく、ゆっくりと暗闇に身を溶け込ませて、ナタンは歩く。
「残り数人だっ! 殲滅しろっ!!」
「了解、側面に回り込みます」
ナタンが広い部屋に出ると、そこは何処かの地下室らしく、右側には、三つも機械が並ぶ。
左側には、彼方此方《あちらこちら》に段ボール箱や工具箱が山積みにされていた。
機械側は、帝国軍部隊が存在しており、山積みの箱には、レジスタンス達が身を隠していた。
制服姿の帝国軍下士官が命令すると、帝国軍兵士が迂回して、攻撃を敢行する。
「レジスタンスが押されているな?」
どうやら、帝国軍の別動隊が、奇襲を仕掛けるべく、地下道を密かに通っていたらしい。
連中は、レジスタンス側の背後を突こうと、突入していたんだろうと、ナタンは考える。
「撃ち返せっ!!」
「おおっ! まだまだやれるぜっ!」
レジスタンス達も、銃弾をバラ蒔いて、帝国軍を迎え撃とうと必死で応戦する。
しかし、彼等の奮闘空しく、敵部隊に徐々に押されていく。
相手の帝国軍兵士は、全員がトーテン・シェーデル・ゾルダートだ。
彼等は、多少の銃弾を物ともしない。
「うぎゃああぁぁっ!!」
「一人、殺られたっ! きゃあっ!」
機械右側から、素早く回り込んだ、二名の帝国軍兵士たち。
彼等は、何発か銃弾を喰らうも、銃撃しながら素早く、箱山の右側面に回り込む。
そこで、胸に何発かの銃弾を撃ち込んで、レジスタンス員を一人殺害する。
さらに、味方が殺られた事に動揺した、一人の女性レジスタンス員が叫ぶ。
その隙に、近寄ってきた、兵士が銃床で、彼女の頬を思いっきり殴った。
それにより、被っていた赤いベレー帽が宙を舞った。
「肉盾になって貰うぞ」
「殲滅するっ!」
彼女を盾にした、帝国軍兵士は、慌てふためく、レジスタンス達に銃撃を加える。
もう一人の兵士も、残り僅かなレジスタンス達に銃弾を放つ。
「隠れろっ!」
「クソがっ!」
「うがああっ!!」
リーダーらしき、緑ベレーを被った、レジスタンス員が叫ぶ。
部下のレジスタンス員たちが、彼に続いて、奥にある木箱が積まれた山へと逃げるが。
一番後ろのレジスタンス員が撃たれてしまう。
「殺られたかっ? ぎゃっ!」
「うわっ!」
「これで全員片付いたな…………」
「残りは? まだ居るかも知れないな」
頭に何も被らず、黒髪を靡《なび》かせる軽装な鎧に身を包んだ剣士が素早く動いた。
彼が、ラウンドシールドを突き出して、レジスタンス・リーダーの顔を叩く。
次いで、怯んだ瞬間に、ショートソードを胸に深く突き刺した。
その後ろから、レジスタンス員を狙って、サーベルによる鋭利な刃が一振りされる。
すると、一瞬の内に、胴から離れた首が宙を舞う。
サーベルを優雅に振るって、刃に付いた血を払う男は、無表情だった。
黒いカウボーイハットのような帽子を被る、茶色い長髪の銃士。
彼は、中世の人間みたいな黒いチュニックを着ていた。
「あっという間に殲滅か?」
瞬く間に制圧された、レジスタンス達を見て、唖然とする、ナタン。
そして、一人生き残った女性レジスタンス員。
彼女は、二名の帝国軍兵士に両側から腕を捕まれて連行される。
赤みがかった茶髪ロングパーマの彼女は、黒い瞳を正面に立つ、帝国軍下士官に向ける。
その目には、強い憎しみと決意に満ちていた。
「生き残ったな? テロリスト」
「黙れっ! お前らの好きにさせるかっ!?」
女性レジスタンス員は、叫びながら大きく開いた口を閉じようとした。
その時、帝国軍下士官は、彼女の口に拳を突っ込んだ。
もがもがと唇を動かしながら、彼女は直も暴れようとするが。
両側を、帝国軍兵士に挟まれているので、彼女は身動き一つ取れなかった。
「中々威勢が良いな? よし、一人捕虜を確保だ、喜べ…………今日の午後から貴様も、我が隊の仲間入りだっ! 奥歯の毒も取ってやるよ? クハハハッ!!」
ニヤリと犬歯を覗かせながら嗤う、帝国軍下士官だったが。
彼は、口に右手を突っ込んでいる事から、左手で軍服のポケットから注射針を取り出す。
そして、気泡が混じった薬液を出すと、女性レジスタンス員の首筋に一気に針を突き刺した。
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