旧ベルギュー州、ハンザ連邦合衆国首都ブルーシェル。
現ノルデンシュヴァイク帝国ベルグール州、州都ブルッツェン。
深夜、雪の降り積もる市内を、黒いルクレール戦車が騒音を立てて道路を通る。
帝国の黒衣と、装備に身を包む、警察隊員と帝国軍兵士による一団は、戦車に続いて行軍する。
彼等は、骸骨兵士たちVSレジスタンス組織との戦闘に向かう為、これから市内を通って行く訳だ。
「五月蝿い音だわっ! …………」
「しーー! 奴等に目を付けられる様な事は言うなっ! 何処に奴等のスパイや盗聴器が有るのか分からないんだぞ!」
安アパートの三階に住む夫婦は、外から聞こえる騒音発生源に悩まされる。
漆黒に塗装された、ルクレール戦車のキャタピラが、ガタガタと路面を揺らす。
この騒音を聞いて、二人は口喧嘩になる。
「だってっ! あいつらが来てから何も自由が無いのよっ! こんなの耐えられる訳無いじゃないっ!!」
「分かったから落ち着いてくれ…………奴等に悪口を言っているのがバレたら連行されて殺されるか? もしくは収容所送りにされるんだぞ…………それで良いのか?」
夫婦らは、帝国による恐怖政治と秘密警察に怯えながら話し、今夜もアパートの一室で夜を過ごす。
彼女と彼には、明日も意味の無いような事務仕事と、辛い肉体労働が待っている。
「それは…………そんなのは嫌よ…………嫌に決まっているでしょ…………」
そして、哀れな若い夫婦が灯りを消して寝静まる中でも、夜間に途絶えなく銃撃音が木霊する。
市内、別の一角では、帝国国家・情報保安警察《カイザーリヒ・シュッタツ・ヒハツァ・ポリツァイ》。
通称ゲシュタージと呼ばれる、警察部隊の隊員達と、レジスタンス組織による抗争は行われていた。
帝国警察部隊、それと反抗組織である、レジスタンス一個分隊による銃撃の応酬は続く。
レジスタンス分隊は、ビルの一角を占領して、頑強に抵抗しつつ立て籠っている。
そこから、向かいのアパートを巡って、壮絶な死闘を繰り広げていた。
「あの死人みたいな奴等を近づけるなよっ!」
「帝国めっ! 俺達の自由な暮らしを奪いやがって」
レジスタンスの赤いベレー帽を被った男が、ベクターR4ライフルを連射しながら怒鳴る。
その隣で、赤いフード付きのパーカーを被った、若い男も、コマンド短機関銃を乱射して応戦する。
レジスタンス分隊員達は、必死で銃弾をビルの周囲に、バラ蒔いている。
警察部隊を、押し留める為に、弾幕を張って徹底抗戦を展開するためだ。
「このゾンビ兵がっ! くたばりなぁっ!」
『ドォーーンッ』
長い赤茶髪の大柄な女性が、ベレッタ470シルバーホーク散弾銃をぶっぱなす。
これにより、二連装銃身から、12番径の散弾を放ち応戦する。
そうして、ビルに近付いて来る、警察隊員を塞き止める。
左側に位置するビルでも、レジスタンス分隊と帝国警察部隊の激しい攻防戦が続く。
「あのアパートを制圧するっ! 私に続けっ!!」
「了解…………」
「了解しました…………」
帝国警察部隊・所属の制服姿で、銀髪を靡かせた分隊長は素早く走ってゆく。
彼は、腰の鞘から、ブラックサーベルを引き抜いて、室内に突入する。
その後を、骸骨兵士たちが、H&K416を構えて続く。
室内からは、レジスタンス達がアサルトライフルや短機関銃で激しく抵抗している。
そうやって、四方八方から、一斉射撃を加えてくる。
だが、室内に突入した、帝国警察隊員達は、次々と体中を貫く銃弾を物ともしない。
さらに、決して突入を止めず、一切怯む気はない。
彼等は、体から青黒い血を垂れ流しながらも逆に銃撃を加えてゆく。
そして、瞬く間に、室内に隠れていた、数人のレジスタンス達を惨殺していく。
「死ねっ! …………下等生物」
分隊長は、制服の彼方此方から青黒い血を垂れ流しながらも怯まない。
彼は、一人のマイクロウージーを撃ちまくる、レジスタンス員に飛び掛かる。
次いで、ブラックサーベルで斬りつけて、首を撥ね飛ばして殺してしまう。
こうして、右側のアパートの内部では、帝国警察・特殊部隊とレジスタンス分隊が激しく戦う。
双方とも、アパートを制圧下に置く為に、一進一退の争奪戦を行っているからだ。
「くっ! 圧されて来たか? 撤退だっ! 煙幕と爆煙に紛れて逃げるぞーー!」
「はいっ! 煙幕を焚きますっ!」
レジスタンス達は、発煙弾・手榴弾・火焔瓶を投げまくる。
こうして、アパートを燃やす事で、蜘蛛の子が散るように逃げ出していく。
「ゲホッゲホッ!? 奴等は何処に逃げた? 探せっ!!」
「ゴホッゴホッ? …………レジスタンスは地下道に撤退して行ったかと思われますので捜索を開始します」
アパートの中で、銃撃戦を展開していた、帝国警察部隊員たち。
彼等は、アパートの何処かに有るであろう、地下道への入り口を探して、歩いて行く。
レジスタンスに、通称ゾンビ兵と呼ばれる、彼等トーテン・シェーデル・ゾルダード。
連中は、黒いフリッツ・ヘルメットと中型防弾ベストを装備している。
ある程度銃撃にも耐えられる、強靭な肉体を持つとは言え、やはり無理や油断は禁物なのである。
理由は、至近距離から撃たれる短機関銃による連続射撃を喰らう。
威力の大きな散弾銃から、一気に散弾を喰らってしまう。
等々と言った、理由で大ダメージを受けてしまうからだ。
流石に、連中も不死身では無いから、それらによる過度の肉体的損傷を受けたとする。
そう言った場合、戦死してしまう可能性が有るので、狭いアパート内を死角に注意しながら進む。
「あった…………だけどこれ以上は進めないわっ!」
フリッツヘルメットを被った、青髪ロングヘアーの女性警察隊員が、地下倉庫の扉を開いた。
そこの床には、C4爆弾が仕掛けられており、それ以上は進めなく成っていた。
「誰か工兵を呼んできて下さい…………」
虚ろな青い瞳の女性警察隊員は、工兵を呼ぶように仲間に頼んだ。
それから、穴の周囲に立ち、工兵がやって来るまで、待機する。
その頃、向かいに位置するビルでは。
徹底抗戦を続ける、レジスタンス達が真向かいのアパートを眺める。
そうして、室内で戦っていた、仲間達が撤退したのを見届けた。
「煙と炎に爆音っ! 撤退したのかっ! よしっ! 此方も撤退するぞ、煙幕を焚けっ!」
「俺達援護チームはその間も撃ち続けるぞっ!! …………撃て、撃てぇーー!!」
ビル内に残っていた、レジスタンス達も、煙幕を焚いて撤退の準備に取り掛かる。
また、彼等も地下道を通り、この戦場から何とか脱出しようと試みた。
「第一部隊はあのビルに集中攻撃、第二部隊は側面から突撃しろっ! …………」
遠くの指揮車両から、双眼鏡を覗いていた指揮官は、無線で各部隊に命令を下す。
そして、ビル内に潜んでいた、レジスタンス分隊も、外に展開する帝国側部隊から撤退を開始する。
側面から回り込んできた、帝国警察隊員は、不穏な空気を察知して、ビルの壁に貼り付く。
それから、突撃を一旦停止して、ビル内部の様子を伺う。
すると、大きな爆発音と共にビルが吹き飛び、瓦礫が、辺り一面に降り注ぐ。
そのビルに貼り付いていた、警察隊員たちに、数名の死傷者が出てしまう。
突然の出来事に、警察部隊は、レジスタンスを追跡することを断念した。
そして、負傷者と戦死者の遺体を、後送する為に捜索を行う。
「ゴボォッ!! はぁはぁ…………」
「負傷者を発見っ! レジスタンスの一人と思われます」
「二名、肩を貸してやれ」
発見された、レジスタンス員は、二名の警察隊員たちに捕まれて、洗脳改造車両へと運ばれて行く。
「今夜も死傷者が出たからな…………その穴埋めをしなくては成らないからな…………」
突撃していた、部隊を率いる黒い制帽を被った、白髪で、コバルトブルーの瞳を持つ、隊長は呟く。
その間に、負傷した、警察隊員が数人と女性レジスタンス員が、一人発見された。
「来るなぁっ! それ以上近付いて見なっ! アタシの体に巻き付いているダイナマイトがボンッて吹き飛ぶわよっ!」
キリッとした顔で、女性レジスタンス員は、キツい視線を周り取り囲む警察隊員に向ける。
彼女は、コルト45拳銃を右手に、ライターを左手に持っていた。
くすんだ、オレンジ色に染めた、ショートヘアの女性レジスタンス員は、敵を近づけまいと騒ぐ。
しかし、臆することなく、突撃部隊の隊長は、彼女に近付いて行く。
それから、即座に腰のホルスターから、ピストレット・ヤリギンを抜き取る。
そして、すばやく女性の右腕を撃ち抜く。
彼は間髪入れず、女性の顎に膝蹴りを喰らわすと、素早く背後に回り込む。
次いで、左手のライターを叩き落として、首筋へと、NRSナイフを突き立てて脅す。
「貴様? 帝国に永遠の忠誠を誓うか…………」
「はんっ! 誰があんたら見たいな奴等に忠誠を誓うかぁっ!」
隊長に問われた、女性は直も暴れて、左手でコルト45を持ち直す。
それで、拳銃自決を図ろうとするのだが、隊長から、体重を掛けた足で左腕を押さえられてしまう。
こうして、彼女の抵抗は空しく、完全に動けなく成ってしまう。
「その飽くなき闘争心…………おめでとう、合格だ? 我が帝国国家情報保安警察は君を歓迎しよう…………」
「ぐっ! うぅぅ…………覚えてなさいっ! 何時の日かあんたらを皆殺しにしてやるわっ!」
隊長は、女性レジスタンス員の背中に片膝を乗せると、体重を掛ける。
次いで、耳元に近寄り、優しく悪魔みたいな口調で囁く。
「心配するな、そんな気持ちも記憶も直ぐに無くなるからな…………」
そして、反抗的な女性の首筋に、青い唇を大きく開き、鋭く尖った犬歯を覗かせる。
すると、一気にガブリと噛み付いた。
「うぅ~~!! このへ…………んた…………」
「ジュルジュル~~」
やがて、首筋から血液を吸いとられた女性レジスタンス員は体から力が抜けてくる。
その後も、虚ろな瞳に涎を垂らして、ぐったりと倒れたまま動かなくなる。
それから、彼女は警察隊員に、担がれていく。
対歩兵用のドローン戦車であるマーカーが、車輪の突いた、担架を牽引しながら走って来る。
その担架に乗せられた、彼女は警察署にまで連行されて行く。
「なかなか旨かったぞ…………貴様は私の部隊に配属してやろう? もっともそう成れば血は青く成り、もう飲めなく成ってしまうがな?」
隊長の男は、ニヤリと犬歯の生えた口元を歪ませて笑いながら、一人呟く。
その後、警察隊員たちに、本部まで退散命令を下し、撤収準備に取り掛かる。
その間、ひたすら下水道を逃げ回るレジスタンス達。
その中には、かつて、公園で元気に仲間達と遊ぼうと、騒いでいた男もいた。
「ノルデンシュヴァイクめっ! 俺達の町を好き勝手に改造しやがって…………」
FAーMASブルパッブ小銃を肩に担ぎながら、ナタンは下水道を走る。
いつしか、彼は帝国に歯向かう、レジスタンス組織の一員に成っていた。
「…………あの頃は皆バカをやって楽しかったぜ…………あいつらが来てからはメチャクチャに成ってしまったが? …………」
彼は、薄暗い下水道を、仲間達と共に走りながら、ふと過去を思い出す。
「…………あの頃が懐かしい…………出来れば? もし時計の針が戻るのならば? もう一度だけ過去に戻りたい? 幸福な過去に…………」
ナタンは、過去を思い出し、回想に耽りながらも走ってゆく。
もちろん、レジスタンスの仲間と共に、安全なセーフハウスを目指しながらだが。
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