床に転がるリュファスの死体は、MASー1935ーAを力強く握っていた。
「あっ! コイツは…………でも、フランシュの出身じゃないはず?」
「フランシュ出身じゃなくても、私の時と同じく民族が同じ…………つまり、フランシュ系よ? だって、コイツはキャナダのケベック州出身…………」
ナタンは、何故リュファスが自身と同じ拳銃を持っているのかと、疑問に思う。
それに、メルヴェは冷静な口調で答えつつ、MASー1935ーAを回収する。
「~~と言う事は、フランシュ系になるわ…………あそこはフランシュ系が多いからね」
その後、レギオールナイフが突き刺さった、ナタンが被る制帽に手を伸ばす。
柄を掴んで、刃を帽子から引き抜いた、メルヴェは、再びリュファスが起き上がらぬようにと。
胸に思いっきり、ナイフの切っ先を突き刺す。
帝国兵や警察隊員は、身体改造されたアンデッド兵だ。
なので、吸血鬼が棺桶から飛び出るがごとく、死んだ振りをして起き上がる可能性がある。
だから、彼女は深々と、杭みたいに刃を胸に突き刺したのだ。
「それと、はいっ! せっかくだから貰っておきましょう」
「…………っと、二丁拳銃《アキンボ》しろってか?」
メルヴェは、ナタンに対して、MASー1935ーAを刺し出す。
銀色の拳銃を差し出された、彼は中国語で、二丁拳銃を意味する言葉をつぶやいた。
「アキンボ?」
「何でもないよ…………レオ、カルミーネなら分かったろうけどな……」
不思議がるメルヴェを他所に、ナタンは一人つぶやく。
「そんな事より、質問に答えろっ! 答えによっては撃つことになるっ!」
「お前たちは、いったい何者だっ! 所属は何処だっ!」
「はぁ~~? だから、スパイだって言ってるでしょう? 嘘だと思うなら、帝国警察・第三小隊・隊長フロスト中尉を呼びなさい」
激しい攻防の末、リュファスを何とか倒した、二人だったが。
しかし、ワーウルフはAK74Uを構え、オーガーはPKP機関銃で狙いを定める。
こうして、緊張感が漂うかと思ったら、再び、メルヴェの言い訳が始まる。
「この男…………リュファスは、二重スパイだったの? おかげで、私達の潜入工作が失敗して、連合側に正体がバレるとこだったのよ…………」
詐欺師のように、メルヴェは口下手であるナタンと違って、饒舌《じょうぜつ》に喋る。
もちろん、話す内容は適当に考えたデタラメな作り話だったが。
だが、作り話を信じたのか、ワーウルフとオーガー達は武器を下げた。
「そう…………だったのか? いや、まだ信用は?」
「一応、連絡はしておかないと」
「そんな暇は無いわぁっ!! 私の命令に従いなさいっ!!」
「君達、この人の命令には従った方がいいよ…………」
ワーウルフは、まだ信用ならないと言って、AK74Uを構えようとする。
オーガーも、PKP機関銃を抱えつつ、引き金をいつでも引けるよう気構える。
メルヴェから、冷たく鋭い眼光で睨まれ、サルマスシズK10を向けられた、二人。
そんな彼等に対して、ナタンは小さな声で、戦闘にならないように説得しようと呟く。
「そう、私の指示に従いなさいっ! まだ、外ではレジスタンスや連合軍が暴れているのよっ! 貴方たち、ボサっとしてないで着いて来なさいっ!」
「あっ! コラ、待てっ!」
「撃つ…………」
「ほら、隊長の命令が下ったぞっ!」
強引に命令を下し、隊長気取りで、メルヴェはFADを抱えて走ってゆく。
そんな彼女を撃つ暇なく、ワーウルフとオーガー達も後に着いていくしかない。
ナタンも、愚痴を溢すように小さな声を出しながら、三人を追って走る。
「戦闘音だわっ!」
「近いな?」
外から激しい戦闘音が鳴り響き、メルヴェは戦火に自ら飛び込まんとする。
それを、帝国兵たちから逃げる為であると意図を、ナタンも分かっている。
「見なさい…………あそこで戦闘よ? 合図したら私達が走ってゆくわ」
「君たちは援護してくれ、僕らは下から上に向かっていくよ」
「ぐぅ………………分かった」
「仕方ないな、援護するっ!」
一階から向かいにあるビル屋上に、メルヴェは窓脇に隠れながら指差す。
そして、そこに敵部隊が存在する事を告げる。
彼女の示した場所では、確かに連合側が火炎瓶や手榴弾を階下に投げ飛ばしていた。
ナタンも、窓の陰から向かいにあるビル屋上と窓から放たれる機銃弾による発射炎を見る。
ワーウルフとオーガー達も、強引すぎる上に堂々としている、彼女を完全に信じきっていた。
「いい? 1、2、3…………GO」
「OK、イエス、マムッ!!」
「援護は任せろっ!」
「やってやるぜ、行けっ!!」
そう言って、メルヴェとナタン達は向かいのビルに侵入しようと、今居る建物から飛び出す。
疾走する二人を援護するため、ワーウルフとオーガー達も銃を撃ちまくる。
ガチャンと火炎瓶が割れ、ガソリンと炎が辺りを火の海にする。
手榴弾が炸裂して、道路のコンクリを粉々に吹き飛ばす。
しかも、上からは雨あられのごとく、銃弾が浴びせられる中、それでも二人は進んで行った。
「はっ! わっ! きゃっ!!」
「ぐうぅぅぅぅっ!?」
上から降り注ぐ銃弾と、投擲物はワーウルフとオーガー達の援護だけでは、到底牽制できない。
しかし、それでも必死で攻撃を避けながら向かいのビルにまで、ナタンとメルヴェ達は到達した。
一階から早速、二人は陰に隠れ、外の様子を伺う。
路上では、今自分たちが隠れるビルから、連合兵による銃撃が放たれる。
向かいにある建物内からも、帝国兵が銃を撃ち返して応戦する。
「危ないわね、ドローンも飛び交っているし…………」
「ここから、また離れなくちゃならんのか?」
メルヴェは、サッと身を引っ込めると背中を壁に凭れかけ、はーーと息を吐く。
ナタンも険しい顔つきで、外を眺めながら戦闘の経過を観察する。
ビルを挟んで窓や屋上から撃ち合う、連合・帝国の部隊が見える。
その中には、空中を大量に舞う蝶がごとく、緑色・黒色に塗装されたドローンが飛ぶ。
「行こう、できるだけ戦闘から離れるんだっ!!」
「ええっ! そして、レジスタンスに合流しなきゃっ!」
いつまでも、外を眺めている訳にも行かず、ナタンとメルヴェ達は次の行動に移る。
ビルの奥に向かい、裏口から外に出る。
そこは、狭い路地であり非常階段が備えられており、その下に彼等は出た。
しかし、そこで走る勢いを止めず、二人は再び建物の中へと走ってゆく。
何度も、この行動を繰り返しつつ、やがて戦闘音がしない場所まで、二人はたどり着いた
ここまでくれば、もう安全だ。
そう思い、二人は安堵する。
「ここは、テロや破壊とは無縁の場所に見えるね?」
「どうかしら? 連合側は、今後レジスタンスに特殊部隊を加えて、連日激闘を続けると言ってたしーー?」
今、彼等が居るのは廃墟となった壊れた、アパートだ。
その中でも、無事に残っていた一室内にて、ナタンとメルヴェ達は話す。
窓から見た空は、暗くドンよりとした灰色であり、遠くからは射撃音が聞こえる。
「メルヴェ…………取り敢えず、ベッドもあるし、もう今日は寝よう」
「ロマンチックな場所で眠れたら最高なんだけど…………」
ナタンは、日が堕ちてきたと感じ、メルヴェに眠るように促す。
「見張りは任せたわ………三時間ごとに交替ね」
「分かった、今は任せてくれ」
ようやく、安全な場所に着いた、メルヴェは安心感を得て疲れたからか。
黒いコートを脱ぎ捨てると、すぐベッドに橫になって目を閉じた。
「…………朝まで何も無ければ良いが…………」
ナタンは、一人暗闇に包まれた外を見ながら、不安そうな表情で呟く。
その後、彼はメルヴェが目を覚ますまで窓際に背を預け、両腕を組んで警戒心を緩めなかった。
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