「この先に階段がありますが、急なので、気をつけて下さい」
下士官グールは、先をどんどん歩き、やがて、右側には鉄製の銀色ドアが見えてくる。
「では、地上に行きましょうか」
それから、ドアを開いて、下士官グールは階段を上がり始める。
「中尉、先程は有り難う御座います」
「貴方の助けがなければ僕達は…………」
階段は、コンクリート製であり、一段ずつ上る際に、レオとカルミーネ達は上を向く。
また、彼等は先を歩く、ザミョール中尉へ窮地を救ってくれた礼を述べる。
「ふんっ! 一つ貸しだと、フロストに伝えておけっ!」
長い階段を歩きながら、ザミョール中尉は一言だけ答える。
こうして、五人で階段を上がりきると、地上では、数十人の帝国軍部隊が辺りを封鎖していた。
「地下にあるテロリストの死体は、全て焼却処理しろ」
「了解ですっ! いつでも死体を燃やせますっ!」
「武器弾薬は、我々が全部押収するっ! 警察部隊に取られてたまるかっ!」
「了解、これより回収任務を開始しますっ!」
ヴァンパイアが命じると、シュヴァルツ・リッターは、ローマ式敬礼をした。
そして、背中に装備した火炎放射器から火をブワッと出して、調子を確かめると歩きだす。
オーガーが指示を出して、帝国軍兵士たちとともに、地下防空壕への入口へと走ってくる。
彼等は、集団で迫って来るが、ザミョール中尉たちの左側を通り抜けていく。
帝国軍部隊は、この場所で発生した事件に関して、自分たちが戦ったからと躍起になってる。
そして、結果的に得た、戦利品を確保するために動いている訳だ。
「また、お前かっ?」
そこに、護衛を二人も引き連れた、帝国軍の女性士官が現れた。
ザミョール中尉を見るなり、彼女は露骨に面倒臭そうな顔を見せる。
「良く合いますな? フォイルスニェーク大尉?」
「ふん、私は貴様の顔なぞ見たくもないっ!」
礼儀正しく、ローマ式敬礼をしながら声を掛けた、ザミョール中尉であったが。
一方、フォイルスニェーク大尉の方は、帝国警察は、誰であろうと相手もしたくは無かった。
ラヴィーネ大佐とフロスト中尉の関係など、一部を除いて、帝国地上軍と帝国警察部隊は仲が悪い。
非常に、険悪な理由は、権力争いが主な原因であり、いつも同じ帝国の組織同士で対立していた。
その理由は、管轄区域を廻って、どちらが治安維持や占領政策を行うか。
今倒したばかりのレジスタンスは、軍・警察どちらによる手柄なのか。
他にも、軍事予算と治安維持に掛かる費用・補給物資と人員・最新装備と兵器の保有数など。
こう言った、様々な問題で、彼等は深刻に対立していたのだ。
帝国が手に入れた、植民地惑星の捕虜や住人を、両組織で取り合うなど、最早、日常茶飯事なのだ。
「大尉、我々は貴女達の反対側から地下に侵入して、連合軍コマンドーを殲滅しました」
「良かったな? では、私は忙しいから、これで失礼させて頂くっ!」
ザミョール中尉の戦闘報告を、聞く暇も無く、フォイルスニェーク大尉は立ち去ろうとする。
「ふんっ!」
「はあ…………」
早々に、装甲車にまで、立ち去ろうとする、フォイルスニェーク大尉。
彼女を、ザミョール中尉は追い掛けようとはせず、黙って見送る。
『…………さて、現場検証は、このグールとするか? …………』
「煙草を吸わねば、落ち着かないわっ!」
そして、副官であろう、グールの下士官と。細かい話をしようと考えた、ザミョール中尉であった。
一方で、後ろ姿を見せる、フォイルスニェーク大尉は、非常に機嫌が悪そうだ。
彼女は、黒いBTRー82装甲車へと向かい、火を着けていない煙草を片手に、足早に歩いて行く。
「んっと…………」
突如、BTRー82の上から、フードを深く被る、足元まで黒いマントを着た何者かが現れた。
奴は、いきなり暗殺者みたいに、地面に飛び下りてきたのだ。
そして、不審者は、フォイルスニェーク大尉の前に飛び下りる。
次いで、疾風が吹き抜けるかの如く、素早く近づき、背後に回る。
「危ない、レジスタンスの生き残りが居たかっ!」
「喰らえっ! レジスタンス野郎がああっ!!」
ザミョール中尉の背後に控えていた、レオとカルミーネ達は、直ぐに拳銃を取りだす。
次いで、銃口の先端を、正体が何者か分からない暗殺者に向けた。
「動くな、一歩でも動いて見せろっ! そうしたら、俺の脳天を9ミリ弾が貫くぞっ!」
「さもなくば、我々が、お前を撃つっ! これは脅しではなく本気だぞっ!」
怒気を含んだ、叫び声を上げた、レオは即座に、ワルサーP5Lを構える。
一方、カルミーネは、タンフォリオT95を両手で力強く握る。
「止めろ、彼に何をする気だ、貴様らはっ!?」
二人を止めようと、後ろへ向き直った、ザミョール中尉は、両手で二人を制そうとするのだが。
「まったく、あの時助けて上げたのに」
謎の人物は、深く被っていた、フードを素早く払い除けた。
そうして、黒いマントの下から首に巻いた、シュマグと軍服を見せる。
「僕の事は、覚えてるよね? 穴に入った時から顔を合わせてるんだから」
フードの下に隠されていた、女性みたいな童顔は浅黒かった。
そして、彼はアイルトン・ブルー色の瞳を大きく開き、ニヤけた表情で、こちらを見ていた。
「やあ、また合ったね?」
「お前は確かっ!?」
「君はあの時のっ!」
再び出会った、意外な人物の姿に驚いた、レオとカルミーネ達であったが。
そんな彼等を前にして、ラハーラーは飄々と話す。
「貴様等、私の可愛い部下に銃を向けるとは良い度胸をしているな…………しかも命を助けて貰った上の所業とはな?」
怒気を含む言葉と、非常に鋭い眼差しで睨む、フォイルスニェーク大尉。
彼女は、部下である、ラハーラーへと、銃口を向ける二人を威圧する。
その睨みに気圧された、二人は怖じ気づき、あまりも恐ろしくて、すぐに銃を下ろしてしまう。
『…………何て言う威圧感だよっ! まるで、蛇に睨まれたカエルになった気分だぜ…………』
『…………こっ! 怖いっ! 恐怖でチビりそうだよ…………いくら美しい女性でもこれは流石に…………』
レオとカルミーネ達は怯えたまま、身動き出来ずに固まっている。
そんな彼等に杖を向ける、フォイルスニェーク大尉。
「貴様らああぁぁっ! 死ねっ!!」
フォイルスニェーク大尉の右手に握られた杖は、二人に向けられると、青白く発光し始める。
「待ってっ! 僕が、せっかく助けて上げたんだから生かしてやってよ?」
「…………そうか、お前がそう言うなら? 二人とも生かしてやろう♡」
杖を向けた、フォイルスニェーク大尉の前に、ラハーラーは立ち、二人に対する処刑を止める。
それに一瞬驚く、彼女であったが、彼の言葉を聞いてから機嫌良く笑みを浮かべて、杖を下ろした。
「だが、しかし…………今度は無いぞ」
「は…………はいっ!!」
「了解しましたっ!?」
再び、蛇のように不気味で、冷酷な視線を二人に向ける、フォイルスニェーク大尉。
そんな彼女の睨みに、レオは返事をして、カルミーネも、ビビりながら返答した。
「じゃあ、私は先に行く…………お前は後から私室に来い、今回の御褒美にたっぷり可愛がってやる」
「…………♡ 楽しみにしています大尉」
フォイルスニェーク大尉は、ラハーラーの身体に、しがみつく。
次いで、頭を撫でながら、彼女は耳元で囁くように喋った。
すると、彼は照れているのか、すごく恥ずかしそうに答える。
その後、直ぐに上機嫌になった彼女だが、何処かへと歩いて行ってしまった。
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