たまたま家の前にテレポートしてきた郵便局が荷物を置いていった。このところテレポートシステムが不調らしい。だが宛先は間違いなく私の住所だ。こんな偶然もあるのか。
差出人は昔の恋人。中身は世界破壊爆弾だと書いている。
しかし本物の危険物なら郵便局は受け取りもしないし配達もしない。そもそもあの彼に世界を破壊できる爆弾など作れるはずもない。でも私は箱を開くのを躊躇った。この世界を破壊できなくとも、私の心を破壊できる物かも知れないからだ。
「アイツの嘘を信じるのか」
あのとき彼は言った。
「ええ、そう」
私はそう答えた。
信じた訳じゃない。信じたかった訳でもない。でもエウロパは遠い。この地球から遠い、人類世界の辺境。
私はこの地球でなくては生きて行けない。この地球で生きて行きたい。
彼がエウロパに赴任してから、一度だけメールが届いた。
「人類の文明は、もはや限界だと思われます」
その短い一文に、彼はありったけの呪詛を込めたのだろうか。いや、もしかしたら素直な実感だったのかも。地球はいま極めて高度に繁栄している。しかし、これが燃え尽きる前の最後の輝きではないと誰に断言できるだろう。エウロパの、地球の外にいる彼ならば、その様子が見えても不思議はない。それでも。
私はここで、この場所で生きて行くことを選んだのだ。後悔はない。
テーブルで聞こえたガサゴソという音に我に返ると、すでに箱は空けられた後。小さな息子がキョトンとした顔で見つめている。
「何も入ってないよ、ママ」
「……そう、変ね」
私は微笑んで息子を抱き締めた。たとえいま本当に世界破壊爆弾が起動したのだとしても。魔法の力を込めた見えない爆弾によって、この瞬間から世界の崩壊が始まるのだとしても。それでも私は生きて行くのだ。最後まで。
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