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留菜マナ
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第五百二十三話 美羅の定義⑥

公開日時: 2024年10月18日(金) 16:30
文字数:1,079

一言に集約できない気持ちはいつか全部、彼女に伝えきれる日が来るだろうか。

分からない。分からないけど。

これだけは確かだ。


「俺はリノアのことが大好きだ!」


大切だった。勇太を導く光だった。

ただ、リノアが傍にいてくれるだけで強くなれた。

リノアの笑った顔も、泣いた顔も、恥ずかしがる顔も、ふて腐れた顔も、全てが愛おしいと感じる。


「だから頼む」


そう言う勇太の目には光るものが浮かんでいた。


「これからも傍にいると約束してくれないか?」

「ああ、約束だ」

「うん、約束」


勇太は望と同じ動作をするリノアと小指を絡める。

二人で歩む未来はこれからも続いていくと、甘く確かな約束を求めて。






「望、花音、勇太、リノア、遅くなってごめんな!」


望達がリノアを連れて一階に降りると、有達は徹からの経過報告を受けていた。

徹はいつもどおり、望達に同行する形になる。

イリスは既にギルドの外で、望達の警護に当たっているようだ。


「今回、君の出番はない。僕が愛梨を守るからな。ただひたすら、後方で部屋の位置特定をしてくれ」

「……おまえ、いつも一言多いぞ」


奏良の言及に、徹は恨めしそうに唇を尖らせる。


「徹くん、もう『サンクチュアリの天空牢』には行けるのかな?」

「ああ。索敵は既に済ましているからな」


花音が声高に疑問を口にすると、徹はイリスからの情報を確認しながら応える。


「だが、『サンクチュアリの天空牢』のあの部屋まで行くのは一苦労だ。行き当たりばったりな行動は勘弁してほしい」

「……分かっているよ」


状況説明を欲する奏良の言葉を受けて、徹はもはや諦めたように続けた。


「前に『レギオン』と『カーラ』の者に成り済ました時、転送石とギミックを用いて、あの部屋まで赴いただろう。その要領で、『サンクチュアリの天空牢』のロビーから、あの部屋に転移できるようにしている」

「すごいー! じゃあ、ロビーに着いたら、すぐにあの部屋に行けるんだね?」


徹が示した事実に、花音は両手を前に出して、水を得た魚のように目を輝かせる。


「空には数多くの浮き島が点在している。その中には小型のダンジョンも複数あるだろう」


有は準備を終えると、空を見上げて塔までの方角を見定めた。


「プラネットよ、頼む」

「有様、『サンクチュアリの天空牢』の位置特定、お任せ下さい」


有の指示に、プラネットは誇らしげに恭しく頭を下げる。


「……っ! 有様、『サンクチュアリの天空牢』は以前、訪れた地点よりかなり離れた場所に移動しています」


プラネットが『サンクチュアリの天空牢』の位置を探っていると、奇妙な違和感に気がついた。

浮き島の座標が流れる雲に沿って点々と動いているのだ。

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