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留菜マナ
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第百十八話 もうすぐ魔法がとけるから③

公開日時: 2021年1月14日(木) 16:30
文字数:1,722

賢達『レギオン』の思惑が渦巻いている中、望達はモンスター達を相手に、勇猛果敢に立ち向かっていた。


「貫け、『エアリアル・アロー!』」


奏良が唱えると、無数の風の矢が襲いかかり、ボスモンスターの行く手を足止めする。

しかし、ボスモンスターは風の矢を軽々と払いのけると、奏良に巨大な剣を振りかざしてきた。


「なら、これでどうだ! 『エアリアル・ライカ!』」


奏良は、中ボス、ベヒーモス戦を得て覚えた、新たなスキルを披露する。

奏良が放った無数の風の渦が、高速光線となって、縦横無尽に軌跡を描く。

予測できないランダム軌道の疾風に、ボスモンスターは虚を突かれた。


「これで終わりだ!」

「これで終わらせる!」


ボスモンスターの動きが止まったことを確認すると、望とリノアは乾坤一擲の技を放つ。

望とリノアの声に反応するように、それぞれの剣からまばゆい光が収束する。

二人の剣の刀身が燐光(りんこう)を帯びると、かってないほどの力が満ち溢れた。


「「はあっ!」」


望とリノアはその一刀に全てを託し、ボスモンスターに向かって連なる虹色の流星群を解き放つ。

望の特殊スキルと愛梨の特殊スキル。

それが融合したように、ボスモンスターに巨大な光芒が襲いかかる。


『グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


望が放つ流星の剣を前に、ボスモンスターは為す術もない。

やがて、断末魔をあげて、一片も残すこともなく、ボスモンスターは喰い尽くされていった。

ボスモンスター達を全て討伐したことで、モンスターを無限に呼び出していた魔方陣が消える。


「俺の出番、なかったな」


ボスモンスター達を全て全滅させてみせた望達の姿を見て、徹は感嘆の吐息を漏らす。


「後は、召喚されたモンスター達と『レギオン』か」

「手嶋賢様、了解しました」


徹が決意するように光龍を見上げたその瞬間、不可解な電子音のやり取りが聞こえてきた。


「『アルティメット・ハーヴェスト』参戦により、戦況は混戦状態に突入しました。ではでは、ニコットは予定を変更して、その作戦を決行します」

「作戦……?」


無邪気に嗤うニコットの発言を聞いて、徹は嫌な予感がした。

不意に、紘から聞かされていた言葉が脳裏をよぎる。


紘が言っていたとおり、『レギオン』側に何かしらの動きがあったみたいだなーー。


しかし、徹の思惑には気づかずに、ニコットは淡々と一方的な会話を続ける。


「はい。契約に従い、優先的に『アルティメット・ハーヴェスト』と交戦します」

「ニコット。そこのモンスター達の一掃を頼む!」

「了解しました」


ニコットは通信を切ると、『レギオン』のギルドメンバー達の指示に従い、モンスター達に向かって数本のダガーを投げる。

ダガーの襲来を受けて、彼らに襲いかかろうとしていたモンスター達は怯んだ。


望達『キャスケット』。

賢達『レギオン』。

徹達『アルティメット・ハーヴェスト』。


三大ギルドの猛威は、やがて、召喚されたモンスター達を圧倒していった。

それは、クエスト終了までに不可能だと判断されていた、全てのモンスター達の討伐を難なく遂行してしまうほどの力だ。

しかし、『レギオン』と『アルティメット・ハーヴェスト』が争っているため、モンスター達の数はなかなか減らない。


「やっぱり、モンスターよりも、俺達の迎撃を優先してきたな。だけど、ここまで紘の啓示どおりだと、空恐ろしくなってくるな」


そんな彼らの様子を窺っていた徹は、改めて周囲を見渡した。

第四十九層に残っていた『レギオン』のギルドメンバーの魔術のスキルの使い手達は、徹達によって全て捕らえている。

そのため、転送アイテムなどは、最上階にいるモンスター達を全て倒すか、最上階から出てしまえば、通常どおり使用可能になっていた。


「俺達は『レギオン』と戦いながら、何とかして、転送アイテムを使える場所に移動しないといけないな。だけど、モンスター達が既に入口を塞いでいる」


徹は少し躊躇うようにため息を吐くと、複雑な想いを滲ませる。


「なら、まずは最上階のモンスター達を全滅させる!」


徹が動くのを見計らっていたように、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達がそれぞれの武器を『レギオン』のギルドメンバー達とモンスター達に突きつけたのだった。


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