「……徹くんの光龍」
二頭の竜が戦う姿を目にして、愛梨は怯えるように肩を震わせていた。
不安そうに揺れる瞳は儚げで、震えを抑えるように胸に手を添える姿はいじらしかった。
望ならまず見せない気弱な姿に、花音は優しく微笑んだ。
「愛梨ちゃん、大丈夫だよ。一緒にここから脱出しよう」
「……花音」
花音の殊勝な発言に、愛梨はそっと顔を上げる。
「徹くんの光龍、大丈夫かな?」
「うん」
泣き出しそうに歪んだ愛梨の表情を見て、花音は言葉を探しながら続ける。
「愛梨ちゃんが信じているなら、きっと大丈夫だよ」
「……ありがとう」
花音の励ましの言葉に、愛梨は花が綻ぶように無垢な笑顔を浮かべる。
モンスター達の進行を妨害していたプラネットは迷いない足取りで歩み寄ると、愛梨の目の前で丁重に一礼した。
「初めまして、愛梨様。私は愛梨様と同じく、『キャスケット』に所属しています自律型AIを持つNPC、プラネットです」
「……プラネット、さん?」
プラネットの思わぬ自己紹介に、愛梨は虚を突かれたように目を瞬かせる。
「愛梨よ。望から聞いたのだが、椎音紘からギルド兼任のことを聞いているのだな?」
有の疑問に、愛梨は持っている杖をぎゅっと握りしめたまま、恥ずかしそうに顔を俯かせる。
しかし、このままでは話が先に進まないと思ったのだろう。
愛梨は顔を上げると、意を決して話し始めた。
「うん。お兄ちゃんから聞いた」
「そうなんだね」
訥々と答える愛梨を前にして、花音が視線を合わせて優しく微笑む。
そのタイミングで、有は深々とため息をついて切り出した。
「愛梨よ、頼む。力を貸してほしい。愛梨の特殊スキルなら、この状況を打破できるはずだ」
「ーーなっ!」
「……っ」
有の静かな決意を込めた声。
付け加えられた言葉に込められた感情に、弾丸をリロードしていた奏良が戦慄して、愛梨は怯えたように花音の背後に隠れる。
「愛梨ちゃん、大丈夫だよ」
「花音」
「一緒に頑張ろう」
「……うん」
後ろを振り返った花音が励ますように手を差し伸べると、愛梨は恐る恐るその手を取る。
その様子を見守っていた徹が、屈託のない様子でつぶやいた。
「愛梨の特殊スキルを付与したら、骨竜を倒せるな」
「手嶋賢様、了解しました」
徹がそう告げたその瞬間、またしても木の上から不可解な電子音のやり取りが聞こえてきた。
「ではでは、ニコットはこのまま、作戦を続行します」
「作戦……?」
無邪気に嗤うニコットの発言を聞いて、徹は嫌な予感がした。
不意に、紘から聞かされていた言葉が脳裏をよぎる。
紘が言っていたとおり、『レギオン』側に何かしらの動きがあったみたいだなーー。
しかし、徹の思惑には気づかずに、ニコットは淡々と一方的な会話を続ける。
「はい。契約に従い、椎音愛梨と美羅様へのシンクロを開始します」
ニコットはそう告げると、『レギオン』のメンバー達の指示に従って枝から枝へと移っていった。
『レギオン』のメンバー達は、そのまま『カーラ』のギルドメンバー達の後方に控えた状態で、魔術障壁を維持している。
「やっぱり、蜜風望と入れ替わった愛梨を狙ってきたな。だけど、ここまで紘の啓示どおりだと、空恐ろしくなってくるな」
残された徹は改めて周囲を確認した後、愛梨達の下へと急いだのだった。
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