仮想世界だけに咲く淡き花々。
過去に繋がる愛の花。
遠く離れた鎮魂歌(レクイエム)を乗り越えて、信也は力強く宣言する。
「美羅、頼む! この状況を変えるには君の明晰夢の力が必要だ!」
強大無比な『明晰夢』の力ーー覚悟の焱(えん)は優しく罪を吞み込んでいくことになるだろう。
罪炎が世界を焼くように。
望達が怯える事のないように。
長く苦しむことのないようにーー信也は魔力を奔らせる。
信也が如何なる時もただ一心に願い続けていたのは世界の安寧。
「私の役目は世界に安寧をもたらすことだ」
その根底にあったのは、自らの役目を果たすための機能だけ。
一毅と美羅の願いを叶えるために存在し続けること。
そして、賢とかなめのために世界に理想を殖え続けること。
その四者の命題を果たすために、信也は自身の能力を常に行使し続けていた。
「今度こそこの力を行使して……っ?」
信也は紘の特殊スキル『強制同調(エーテリオン)』を阻まれるまでに発動させようと目論む。
だが、その途中で明確な異変に気づいた。
何の障害もなく、自身の『明晰夢』の力を発動させられたのだ。
「これはーー」
信也はあるべき抵抗がなかったことに違和感を覚える。
「くっ……」
その間、膨大な炎ーー覚悟の焱(えん)は接近していた勇太を吞み込もうとする。
しかし、大剣を振るった勇太は焦らない。
何故なら望とリノアが後方から迫ってきているのを感じたからだ。
「「一気に駆け抜けてみせる!」」
望とリノアは目の前の『レギオン』のギルドメンバー達を薙ぎ倒す。
そして、勇太のいる場所目掛けて疾走した。
「君達の行動が戦いの趨勢を変える。この作戦の成功の鍵を握っているのは蜜風望……君だ」
紘は此度の戦いを上手く有利に進めることができれば、美羅の力を大きく揺るがす事が出来ると見込んでいる。
つまりーー『レギオン』と『カーラ』との決戦の時はそう遠くない。
美羅の在り方を好ましく思うにせよ、思わないにせよ。
彼女の力をこれ以上肥大化させてはいけない事だけは確かなのだから。
「さて、どうやら意図的に発動させられたようだな」
信也は自身の置かれた状況からそう推測する。
「蜜風望くん達はこの状況をどう活かすのか」
信也は迫り寄る望達の動きを危険だと勘づいている。
この状況で望の前にリノアを転移させられないのは紘が妨害に徹しているためだ。
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