兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
留菜マナ

第三十四話 魔天楼を見上げて⑥

公開日時: 2020年11月18日(水) 16:30
文字数:1,812

同時刻、ゲーム内にログインした望にも異変が起こっていた。


「ーーっ」

「望!」

「望くん!」


これからのことについて、有と花音とともに並んで話していた望が、不意に苦しそうに頭を押さえる。


「ーーあ、ああ」

「の、望くん、大丈夫? 顔色悪いよ?」


頭を押さえる望を見て、花音は不安そうに顔を青ざめた。


「お兄ちゃん。望くん、大丈夫かな?」

「とにかく、少し休ませるしかないな」


花音の戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。

有は望を休ませるために、花音とともに街の広場にあるベンチへと座る。

有達のギルド『キャスケット』がある、湖畔の街、マスカットの街並み自体は、昨日とさほど変わらない。

今日も大勢の人で賑わい、プレイヤー達の行き来も激しかった。

モンスターの情報や、昨日のカリリア遺跡のクエストについての噂、ダンジョンで手に入れた武器の自慢、あるいは現実での話を持ち込み、会話に花を咲かせている。


「妹よ。望の体調も落ち着いてきたし、そろそろギルドに向かうぞ」

「うん」


有が咄嗟にそう言って表情を切り替えると、花音はぎこちなくそう応じる。

有と花音に支えられながら、かろうじて立ち上がった望は街の雑踏をかき分けて、ギルドへと足を運ぶ。


「やあ」

「有、花音、それに望くん」

「父さん、母さん!」

「お父さん、お母さん、お待たせ!」

「……おはようございます」


望達がギルドに入ると、既に有の父親と有の母親が控えていた。

ギルドの奥では、奏良が準備を整えている。

アンティークな雑貨の数々と、有の母親の火の魔術のスキルで光らせている灯は、ギルド内に幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「わーい! 久しぶりにみんなで、王都『アルティス』に行けるよ!」


ギルドメンバーが全員揃っていることを確認すると、花音は嬉しそうにはにかんだ。

息を整えた望は居住まいを正して、真剣な表情で尋ねる。


「今回は、全員で行くんだな」

「ああ。ギルドの管理は、スポットナビゲーターに任せている。『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドに赴くとなれば、それ相応の準備が必要だからな」


意表を突かれた望の言葉に、有はきっぱりと答えた。


『どうも』


有の言葉に反応して、目の前にナビゲーターのペンギンが現れた。

赤いリボンを付けていること以外は通常のペンギンの風貌と変わらない、そのスポットナビゲーターはぺこりと頭を下げる。

『創世のアクリア』のポイントを消費することで、スポットナビゲーターにギルドの管理を任せることができた。

今回、有はカリリア遺跡の攻略達成で得たポイントの一部を、ギルド管理の費用に回している。


「望、奏良、父さん、母さん、妹よ、行くぞ! 王都、『アルティス』へ!」

「ああ」

「うん!」


有の決意表明に、望と花音が嬉しそうに言う。

望達が転送アイテムを掲げた有の傍に立つと、地面にうっすらと円の模様が刻まれる。

望達が気づいた時には視界が切り替わり、王都、『アルティス』の城下町の門前にいた。

『転送アイテム』は一度だけだが、街などへの移動を可能するアイテムだ。

ただし、ダンジョンなどは一度、訪れてからではないと行くことはできない。

王都、『アルティス』の城下町。

そこは、望達のギルドがある湖畔の街、マスカットより、はるかに大きな都だった。

煉瓦造りの建物が並び、中央の大通りを馬車が進んでいく。

望は視線を向けた先には、警備が牽かれた厳格な門と美しき白亜の塔が見渡せる。

王都にそびえる白亜の塔ーーそれが『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドホームだった。


「訪れるのは、久しぶりだな。まあ、愛梨としては、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドホームに訪れたけれどな」


望がそうつぶやいた矢先、『アルティス』の城下町は突如、歓喜と熱狂の渦に包まれた。

いかめしいプレイヤー達の行進の後、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターである紘が姿を見せると割れんばかりの歓声が上がる。


「公式リニューアル後も、『アルティメット・ハーヴェスト』が帰還すると、この騒ぎになっているんだな」


来た早々に熱烈なパレードに遭遇して、望は呆気に取られたように首を傾げた。

望は愛梨としての記憶を思い出しながら、これから赴くことになる『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドに関して思考しようとする。

だが、その前に、望はさらにとんでもないものを目の当たりにした。


「緊急着陸します!!」

「なっーー」


望が俯こうとした瞬間、空から幼い少女が降ってきた。

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