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留菜マナ
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第ニ百八十三話 水想の言伝⑥

公開日時: 2021年6月28日(月) 16:30
文字数:1,760

「どうした、勇太くん。私達を止めるではなかったのかな?」

「ーーっ」


賢の嘲りがーーその戦いぷりが、勇太の心に火を点ける。

露骨な戦意と同時に、勇太は一気に賢との距離を詰めた。


『フェイタル・レジェンド!』


勇太は大剣を構え、大技をぶちかました。

勇太の放った天賦のスキルによる波動が、賢襲う。

賢のHPは減ったが、倒すまでには至らない。

しかし、勇太は起死回生の気合を込めて、賢に更なる天賦のスキルの技を発動させる。


『フェイタル・ドライブ!』


勇太が大きく大剣を振りかぶり、光の刃が波動のように賢へと襲いかかった。

万雷にも似た轟音が響き渡る。


「ーーっ!」


迷いのない一閃とともに、勇太の強烈な一撃を受けて、賢は怯んだ。

賢のHPが一気に減少する。

頭に浮かぶ青色のゲージは、半分まで減少していた。

勇太は畳み掛けるように、賢の間合いへと接近する。


「勇太くん、残念だがその手は通じない」


星詠みの剣の効果を使わせる前に動く勇太に対して、賢は軽やかにその剣戟をかわす。


「『星詠みの剣』!」


勇太の攻撃を回避した賢が剣を掲げた瞬間、賢の周りに淡い光が纏う。

その瞬間、賢のHPゲージは、あっという間に半分から全快の青色に戻っていた。


「まだだ! 回復するというのなら、回復する暇を与えないくらい、何度でも叩き込んでやる!」

「君一人で、それを成し遂げることができるかな」


幾度も繰り出される互いの剣戟。

超高速の攻防を繰り広げながら、賢は勇太の意気込みを感心する。

勇太は状況を覆すために、花音達がいる戦況へと視線を注いだ。


「徹くんと勇太くん達は大丈夫なのかな?」

「ああ。父さん達には事情を話しているからな」


花音が声高に疑問を口にすると、徹はインターフェースで表示した時刻を確認しながら応える。


「俺はリノアのところに泊まることにしている……!」


勇太は賢の鋭い剣戟を捌きながら、花音の問いかけに応える。

話を振られたリノアの両親も、勇太達のサポートをしながら頷いた。


「なら、問題はこの状況を覆すことだな」

「奏良よ。この場合、光の魔術の持続時間、もしくは『カーラ』のギルドマスターの魔力切れを狙うか、転送アイテムを使って魔術の影響が届かない遠距離に行く必要があるな」


奏良は一定の距離を取りながら、接近してくるモンスターへと銃を打ち続ける。

掩護射撃を行う奏良の思案に、有は複雑な心境を頂いたまま、結論づけた。


モンスターへの光の魔術の加護の持続時間は、どのくらいで途切れるのかは不明だ。

しかも、『カーラ』のギルドマスターの魔力切れに繋がる判断材料はない。

転送アイテムを使って魔術の影響が届かない遠距離に行くとしても、敵は『カーラ』のギルドマスターだけではない。

賢や『レギオン』のギルドメンバー達によって、即座に対応されてしまう可能性があるだろう。


「お父さんとお母さん、大丈夫かな?」


赤みがかかった髪を揺らした花音が、顔を俯かせて声を震わせる。

この場にいるのは、賢とかなめ、そして『レギオン』のギルドメンバーだけだ。

敵が、花音の母親がいるギルドを襲わないとは限らない。

『アルティメット・ハーヴェスト』の警護があるとはいえ、望達を狙う敵は仮想世界だけではなく、現実世界をも改変してしまうほどの存在なのだからーー。

すると、望とリノアはそんな彼女の気持ちを汲み取ったのか、頬を撫でながら照れくさそうにぽつりとつぶやいた。


「花音。上手くこの場から離脱できたら、ギルドに帰ろうな」

「花音。上手くこの場から離脱できたら、ギルドに帰ろう」

「……うん。望くん、リノアちゃん、ありがとう」


顔を上げた花音は、胸のつかえが取れたように微笑む。

望は深呼吸をすると、これからの戦いに向けて、身体をほぐして両手を伸ばした。


「とにかく、今はこの状況を乗り越えよう。現実世界に帰ったら、今日は花音の家に泊まることになりそうだな」

「とにかく、今はこの状況を乗り越えよう。現実世界に帰ったら、今日は花音の家に泊まることになりそうだね」

「うん」


手を差し出してきた望とリノアの誘いに、花音は満面の笑顔で頷いた。

三人の手が重なる。


「みんなで一緒にギルドに戻ろうな」

「みんなで一緒にギルドに戻ろうね」

「望くんと愛梨ちゃんとリノアちゃんは、これからも私達の仲間だよ!」


望とリノアの視線を受けて、花音は喜色満面で答えたのだった。

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