「どうなっているんだ?」
「プロトタイプ版のみに存在する、新たなダンジョンの変貌。紘はこの展開を予測していたのかもな」
望の疑問に応えるように、徹は考え込む仕草をした。
「お待ちしておりました」
「なっ!」
鋭く声を飛ばした望は、背後に立つプレイヤー達の存在に気づいた。
全員が白いフードを身につけ、それぞれの武器を望達に突きつけてくる。
かなめを先頭に並んでいることから、恐らく、全員が『カーラ』の一員なのだろう。
「いつから付けられていたんだ?」
奏良が警戒するように周囲を見渡すと、いつの間にか、『カーラ』のギルドメンバーであろう者達が通路を封鎖している。
メンバー全員、気配を消していたためか、望達はこの時まで背後にいた彼女達の存在に気づかなかった。
「ーーこいつらも、『レギオン』の関係者なのか?」
目の前の不穏な光景に、勇太の背中を嫌な汗が流れる。
しかし、勇太の動揺をよそに、彼女達は強固な防衛線を築き上げていた。
「初めてお目にかかる方々がおられるようですので、改めて名乗りを上げます。私は『カーラ』のギルドマスター、吉乃かなめです」
「リノアはどこだ?」
かなめが祈りを捧げるように両手を絡ませると、勇太はあくまでも率直に訊いた。
「ご協力を頂けたら、美羅様にはすぐにお会いすることができます」
「悪いけれど、俺は協力するつもりはない」
かなめの懇願に、望は胸中に渦巻く色々な思いを総合して言葉を返した。
見え透いた挑発に、かなめは目を伏せると静かにこう続けた。
「誤解があるようですね。私達は、女神様による世界の安寧のために、特殊スキルの使い手を欲しています。そのために、あなた達の力をお借りしたいのです」
「……だから、現実世界を、理想の世界へと変えたのか?」
かなめの嘆願に、望は不満そうに表情を歪める。
「私達は、美羅様に目覚めてほしかった。それだけのことです」
「美羅は、もう目覚めている。そして、その力ーー特殊スキルも発揮されているだろう。それなのに、何でそこまで美羅の真なる力の発動を望むんだ?」
不可解な空気に侵される中、望は慄然と問う。
「私達の目的は、美羅様の真なる力を発動させて、神にも等しい叡知を宿した存在を存続させることです。そして、真の女神へと覚醒した美羅様のご加護の下、幸せの約束された理想の世界を築き上げたいのです」
「……あの世界は、少なくとも俺達には理想の世界ではない」
望は以前、かなめが見せた明晰夢の世界を思い返して、険しい表情を浮かべた。
「いずれ、あなた方の認識も、今の世界が理想だという思考へと変わります。あなた方は、これからも美羅様を繋ぐ希望の礎です」
「認識の変化?」
「それこそが、美羅様の真なる力です」
望の問いに、かなめは懐かしむように沈痛な面持ちを浮かべる。
「この電磁波。何者かが、マスターにジャミングしている?」
その時、周囲を窺っていたプラネットは、奇怪な電磁波に気づいて、痛々しく表情を歪ませた。
先程までおこなわれていなかった、シンクロを伴う電磁波が発生しているーー。
だが、あの時と同じように、望自身に頭痛は発生していない。
マスターのシンクロに対する頭痛が発生しなくなったのは、リノア様が美羅様と同化されたことが原因なのでしょうか?
その不可解な現象を前にして、プラネットは一抹の不安を覚えた。
プラネットは精神統一して、電磁波の発信源の特定をしようとする。
「電磁波、防ぐの」
「……シルフィ様!」
その瞬間、シルフィは弾かれたように姿を見せた。
矢面(やおもて)に立った彼女が、咄嗟に電波を遮断したことで、望は電磁波の支配から逃れられたのだった。
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