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留菜マナ
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第百六十九話 君に叶わぬ恋をしている⑤

公開日時: 2021年3月6日(土) 16:30
文字数:1,476

「どうなっているんだ?」

「プロトタイプ版のみに存在する、新たなダンジョンの変貌。紘はこの展開を予測していたのかもな」


望の疑問に応えるように、徹は考え込む仕草をした。


「お待ちしておりました」

「なっ!」


鋭く声を飛ばした望は、背後に立つプレイヤー達の存在に気づいた。

全員が白いフードを身につけ、それぞれの武器を望達に突きつけてくる。

かなめを先頭に並んでいることから、恐らく、全員が『カーラ』の一員なのだろう。


「いつから付けられていたんだ?」


奏良が警戒するように周囲を見渡すと、いつの間にか、『カーラ』のギルドメンバーであろう者達が通路を封鎖している。

メンバー全員、気配を消していたためか、望達はこの時まで背後にいた彼女達の存在に気づかなかった。


「ーーこいつらも、『レギオン』の関係者なのか?」


目の前の不穏な光景に、勇太の背中を嫌な汗が流れる。

しかし、勇太の動揺をよそに、彼女達は強固な防衛線を築き上げていた。


「初めてお目にかかる方々がおられるようですので、改めて名乗りを上げます。私は『カーラ』のギルドマスター、吉乃かなめです」

「リノアはどこだ?」


かなめが祈りを捧げるように両手を絡ませると、勇太はあくまでも率直に訊いた。


「ご協力を頂けたら、美羅様にはすぐにお会いすることができます」

「悪いけれど、俺は協力するつもりはない」


かなめの懇願に、望は胸中に渦巻く色々な思いを総合して言葉を返した。

見え透いた挑発に、かなめは目を伏せると静かにこう続けた。


「誤解があるようですね。私達は、女神様による世界の安寧のために、特殊スキルの使い手を欲しています。そのために、あなた達の力をお借りしたいのです」

「……だから、現実世界を、理想の世界へと変えたのか?」


かなめの嘆願に、望は不満そうに表情を歪める。


「私達は、美羅様に目覚めてほしかった。それだけのことです」

「美羅は、もう目覚めている。そして、その力ーー特殊スキルも発揮されているだろう。それなのに、何でそこまで美羅の真なる力の発動を望むんだ?」


不可解な空気に侵される中、望は慄然と問う。


「私達の目的は、美羅様の真なる力を発動させて、神にも等しい叡知を宿した存在を存続させることです。そして、真の女神へと覚醒した美羅様のご加護の下、幸せの約束された理想の世界を築き上げたいのです」

「……あの世界は、少なくとも俺達には理想の世界ではない」


望は以前、かなめが見せた明晰夢の世界を思い返して、険しい表情を浮かべた。


「いずれ、あなた方の認識も、今の世界が理想だという思考へと変わります。あなた方は、これからも美羅様を繋ぐ希望の礎です」

「認識の変化?」

「それこそが、美羅様の真なる力です」


望の問いに、かなめは懐かしむように沈痛な面持ちを浮かべる。


「この電磁波。何者かが、マスターにジャミングしている?」


その時、周囲を窺っていたプラネットは、奇怪な電磁波に気づいて、痛々しく表情を歪ませた。


先程までおこなわれていなかった、シンクロを伴う電磁波が発生しているーー。

だが、あの時と同じように、望自身に頭痛は発生していない。


マスターのシンクロに対する頭痛が発生しなくなったのは、リノア様が美羅様と同化されたことが原因なのでしょうか?


その不可解な現象を前にして、プラネットは一抹の不安を覚えた。

プラネットは精神統一して、電磁波の発信源の特定をしようとする。


「電磁波、防ぐの」

「……シルフィ様!」


その瞬間、シルフィは弾かれたように姿を見せた。

矢面(やおもて)に立った彼女が、咄嗟に電波を遮断したことで、望は電磁波の支配から逃れられたのだった。

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