「洗脳も解け、美羅様への忠誠心も薄れてきている。君達には、ギルドから外れてもらおう」
賢はインターフェースを使い、ギルドメンバーのリストを表示させる。
そして、リノアとその両親達を『レギオン』のギルドメンバーから除外した。
「リノアーー美羅様にも、『レギオン』から一時的に脱退して頂いた。美羅様には、世界の安寧のために、これからも私達を導いてもらわないといけないからな」
「「なっ!」」
賢の静かな決意を込めた声。
付け加えられた言葉に込められた感情に、望達は戦慄した。
「『レギオン』からの脱退……」
「リノアを、『レギオン』から解放することができたの……」
身構えていたリノアの両親は、賢が提示した内容に目を見開いた。
「本当に、リノアを助けることができたのか……?」
勇太は一拍置いて動揺を抑えると、賢がボス戦の際に口にした言葉を改めて、脳内で咀嚼する。
美羅の真の力を発動させるーー。
それがおこなわれた場合、『レギオン』と『カーラ』の二大高位ギルドは、この世界から退き、現実世界でも自首して自らの罪を償う。
そして、リノアとリノアの両親を、『レギオン』の魔の手から解放することができる。
だが、その交渉は、リノアが拒否したことで決裂したはずだ。
それなのに、何故、こいつは、クエストを達成したこの状況で、リノア達を脱退させたんだ?
賢から予想外の状況を迫られた勇太は、苦悶の表情を浮かべる。
「どういうつもりなんだ?」
「どういうつもりなの?」
「「ーーっ!」」
予想外な賢の発言に、望とリノアは訝しげに首を傾げる。
そのリノアの声を聞いた瞬間に、リノアの両親の心の中で何かが決壊した。
「リノア、すまない!」
「リノア、お願い。元に戻って!」
「「ーーっ」」
リノアの両親は調度を蹴散らすようにしてリノアのそばに駆け寄ると、小柄なその身体を思いきり抱きしめた。
しかし、リノアの両親の悲痛な声にも、リノアの返事は返ってこない。
望と同じく、困惑した表情を浮かべているだけだ。
勇太は大剣を突きつけると、賢に向かって叫んだ。
「リノアを今すぐ、元に戻せ!」
「それはできないな。美羅様には、彼女の器が必要だ」
勇太の訴えを、賢はつまらなそうに一蹴する。
「だったら、リノアを元に戻す方法を探すだけだ!」
「……愚かな」
勇太の即座の切り返しに、賢は落胆したようにため息をつく。
「勇太くん。私達を、君のパーティに加えてほしい」
「私達も、リノアを元に戻す方法を探したいの」
「ああ。おじさん、おばさん、ありがとうな」
リノアの両親の懇願に、勇太は嬉しそうに承諾した。
勇太はインターフェースを使い、パーティリストを表示させる。
そして、リノアとその両親達を、パーティに加えた。
「いい選択だな」
「どういう意味だ……?」
驚愕する勇太を尻目に、賢は一呼吸置いてから付け加えた。
「いずれ分かる」
「……っ」
賢の気迫に、勇太は一瞬、気後れする。
だが、その警戒も、目の前で起きる惨事に比べれば、微々たるものだった。
『緊急事態発生により、これより強制ログアウトします!』
「「なっーー!」」
望達の目の前に、不可解なシステムメッセージが浮かび上がってきた。
その直後、望達は何の前触れもなく、『創世のアクリア』から現実世界へとログアウトした。
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