徹が攻撃のタイミングを見計らっていると、賢は柔和な笑みを浮かべて言った。
「鶫原徹くん。私達の邪魔をしないでもらおうか」
「なら、そもそも望達に手を出すなよな」
「彼らに無礼を働いたことは謝罪しよう」
徹の訴えに、賢はあっさりと自分の非を認めた。
「だが、これは必要なことだ」
「俺達にとっては不必要だからな!」
全てを見透かしたような賢の発言に、徹は恨めしそうに唇を尖らせる。
賢は目を伏せると、静かにこう続けた。
「君よりも、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターに出向いてもらいたいかな。わざわざ、君達に全てを任せている理由を知りたい」
「……おまえ、知っていてわざと聞いているだろう」
賢の戯れ言に、徹は不満そうに表情を歪める。
「特殊スキルの使い手達は、美羅様が生きるために必要な存在だ」
「とにかく、愛梨も紘も、そして望もリノアも、おまえ達に渡すつもりなんてないからな!」
賢の言葉を打ち消すように、徹はきっぱりとそう言い放った。
「そもそも、おまえ達が言う美羅様は、おまえが望む『吉乃美羅』じゃない!」
「……愚かな」
徹の答えを聞いて、賢は失望した表情を作った。
涙の跡を辿って、寄る辺もなく未来を目指す。
夜の静寂でともに交わした現の夢。
名もない一輪の路傍の花になりたいーー。
あの日、彼女が何故、そう告げたのか、分からない。
けれど、そこに込められた意味だけが彼女の口調を象り、刻み付いていた。
「……ここが正念場だな」
「そうだな」
「そうだね」
徹の決意に、望とリノアは躊躇うように応える。
「今度こそ、絶対にリノアを元に戻してみせる! だから、ここから先には行かせない!」
「……勇太くん、懲りないな」
勇太は大剣を見据えると、改めて迫っててきた賢と鍔迫り合いをする。
勇太が今、対峙するべき相手は、撤退の妨害となり得る吉乃かなめを抑えることだ。
そして、賢達への邪念よりも先に、大切な幼なじみを守るという信念。
「俺はここでーーこの場所で、『カーラ』のギルドマスターを食い止める!」
「はい。『カーラ』のギルドマスターが光の魔術の防壁を張り続ける限り、光の加護を行うことはできません。今がこの状況を打破するチャンスだと思います」
断定する形で結んだ勇太の申し出に応えるように、プラネットは笑顔で祝福した。
「でも、お兄ちゃん。あの光の加護を解除したことがあるのは、愛梨ちゃんの特殊スキルだけだよ? 光の魔術の防壁を解除するためには、愛梨ちゃんの特殊スキルが必要になるかもしれない」
体勢を立て直したかなめを見据えて、花音は疑問符を浮かべ、困り果てる。
「妹よ、何も解除することを前提に考える必要はない。『カーラ』のギルドマスターの光の魔術の防壁は、愛梨の特殊スキルに頼らなくても対処する手段はあるぞ」
「えっ? どういうこと?」
花音の素朴な疑問に、プラネットは居住まいを正して、有の代わりに応える。
「花音様。『カーラ』のギルドマスターの光の魔術の防壁は限界値があると思われます」
「限界値? そう言えば、あの時、プラネットちゃんの攻撃の後、光の防壁に罅が入ったよね」
「ああ。それに多分、波状攻撃には弱いはずだ。集中攻撃を加えれば、光の魔術の防壁でも防ぐことは出来ないはずだからな」
顔を上げた花音が言い繕うのを見て、徹は追随するように安堵の表情を浮かべた。
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