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留菜マナ
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第三百一話 緑陽の雫⑧

公開日時: 2021年7月30日(金) 16:30
文字数:1,383

「切りがないな」

「ーーっ」


奏良は弾に風の魔術を付与させると、威嚇するようにモンスターの回復に動こうとした『レギオン』のギルドメンバー達に向けて、連続で発泡する。

風の弾が『レギオン』のギルドメンバー達に衝突し、大きくよろめかせた。


『元素還元!』

『復元!』


有は、奏良へと注意を向けた『レギオン』のギルドメンバー達を牽制するように地面に向かって杖を振り下ろしたが、同じスキルのプレイヤーによって崩壊させようとしていた地面を再び、生成されてしまう。


このまま、この状況で戦うのはまずいなーー。


徹の頭の中で警鐘が鳴る。

光龍を使役していた徹は、改めて周囲を見渡した。

『レギオン』のギルドメンバー達の攻撃は、徹達『アルティメット・ハーヴェスト』へと矛先を変えている。

だが、それでも一部の者達は望達のもとへと突貫していた。


「ここから何とかして、望達が転送アイテムを使えるようにしないといけないな」


徹は少し躊躇うようにため息を吐くと、複雑な想いを滲ませる。


「俺はこのまま、望達の援護に回る。他のみんなは周辺の『レギオン』のギルドメンバー達に対処してくれないか!」


徹は気持ちを切り替えるように一呼吸置くと、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達はそれに応えた。

全員がレア装備を身につけ、それぞれの武器を『レギオン』のギルドメンバー達に突きつけてくる。


「お兄ちゃん、これからどうしたらーー」

「妹よ、まずは、望達の動きを阻害している吉乃かなめを何とかする必要がありそうだ」


陣を張った『アルティメット・ハーヴェスト』の動きを見て、有は戸惑いの色を滲ませる花音の想いに応えた。

そして、望達の戦局へと目を向ける。


「「はあっ!」」


甘言蜜語を弄して取り入ろうとするかなめ達を前にして、望とリノアは賢と相対する勇太の協力を得て応戦する。


「奏良よ、望達のサポートを頼む」

「言われるまでもない。だが、今はその時ではないな」


有の指示に対して、奏良は照準をかなめに合わせた。

望達と賢達の熾烈な攻防戦。

奏良は銃を構えながら、戦況の動きを見極めようとする。

奏良の視線の先には望とリノアが連携して、かなめと戦闘を繰り広げている姿があった。


「今だ!」


奏良は弾丸を素早くリロードし、かなめに向けて銃を構えた。

発砲音と弾着の爆発音が派手に響き渡る。


「後方からの掩護射撃ですか」


遠距離攻撃による一斉射撃。

後方から放たれる攻撃の数々を、かなめは光の魔術のスキルを用いて華麗にかわしていく。


「慌てる必要はありません」


『カーラ』のギルドマスターとしての矜恃。

かなめは気持ちを静めると、無感動に不意を突いてきた奏良へと視線を向けた。


「かなめ様!」

「賢様は、私達に約束してくれました。女神様のーー美羅様のご加護を」


『レギオン』のギルドメンバー達の剣幕をよそに、かなめは静かな声音で告げる。


「ならば、私達はそれに報いる限りです」


かなめは子守歌のように言葉を紡ぐと、自身の魔術のスキルを発動させようとした。


「同じ手は食らわない! 喰らえ!」


戦局全体を見極めていた奏良は、銃を構えると範囲射撃をおこなう。


「……っ」

「かなめ様ーーっ!」


不意を突いた連続射撃は、視線を誘起されたかなめだけではなく、追撃に出ようとした『レギオン』のギルドメンバー達をも怯ませる。

しかし、一部の者達はそれを避けると、奏良にそれぞれの武器を振りかざしてきた。

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