「せめて、言葉を返してくれたらいいんだけどな」
「せめて、言葉を返してくれたらいいんだけどね」
少女はリノアに宿っている美羅の『ゲーム用のモデル』ーーNPC。
だからこそ、論理的であるのに、その根本が同じではない。
同じ言葉を介しているのに理解しえない相手。
厄介であると望とリノアは眉を寄せる。
「この部屋を意図的にダンジョンマップに表示させないようにしているのは、ニコットが行っている可能性が高いな」
あの時、ダンジョンマップが変化した事情を察して、徹は深刻な面持ちで告げた。
「ニコットちゃんって、いろいろなことができるね」
「……本当に何者なんだろうか」
「……本当に何者なのかな」
花音が抱いた疑問に呼応するように、望とリノアは疑問だらけの脳内を整理する。
「ニコットか……」
奏良はメルサの森の出来事を呼び起こす。
「愛梨の特殊スキルが込められた弾丸に耐える存在。厄介だな」
明らかに常軌を逸した出来事。
あの時、奏良がニコットに対して放った弾丸には、自身の風の魔術の付与と愛梨の特殊スキルが込められていた。
それはメルサの森周辺を消滅させてしまうほどの脅威的な威力の弾丸だ。
だが、そのようなーーとてつもない威力の弾丸を何発も喰らっても、ニコットはぎりぎりのところで耐え切ってみせた。
ーーダンジョンマップを遠隔操作できることといい、ここまで手の込んだことをしてのけるのはやはり、ただの機械人形型のNPCではない。
特殊スキルの使い手とシンクロを行えることといい、もしかしたら特殊スキルの重要な秘密に関わっているのかもしれないな。
ニコットに接触すれば、特殊スキルについて何か分かるかもしれない。
特殊スキルの使い手とシンクロする機械人形型のNPC――それがニコットという少女だった。
彼女には何らかの特異な力がある。
その出自こそまだまだ不鮮明な部分もあるが、彼女の能力を把握すれば、特殊スキルの秘密に迫る可能性が引き上がる。
特殊スキルの力に関わる何かが起こると仮定すれば、そこだと思いながら。
機械都市『グランティア』に留まっているニコットに対して、奏良の瞳には複雑な感情が渦巻いていた。
「ロビーで待機していた『レギオン』と『カーラ』の者達も、撤退している可能性が高いな」
有はダンジョンマップを視野に収めると表情を引きしめる。
「望、リノアよ。望の特殊スキルの力を、美羅の残滓に向けて放ってほしい」
美羅の残滓までの道筋を見つめた有は覚悟を決める。
美羅の残滓。
彼女はこちらに対して敵意はないが、味方ではない存在。
故に今ばかりは有は決意だけを口にする。
その想いを必ず結実させることだけを己に誓ってーー。
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