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留菜マナ
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第五百五十九話 新たな始まり②

公開日時: 2025年1月17日(金) 16:30
文字数:1,515

「徹くんや勇太くん達、あれからどうしているのかな?」


花音は途方にくれたようにつぶやくと、ギルドの外をじっと眺めた。


「愛梨ちゃんに会いたいな」


赤みがかかった髪を揺らした花音が、顔を俯かせて声を震わせる。

すると、望はそんな彼女の気持ちを汲み取ったのか、頬を撫でながら照れくさそうにぽつりとつぶやいた。


「花音。話し合いが終わったら、すぐに愛梨に変わるからな」

「……うん。望くん、ありがとう」


顔を上げた花音は、胸のつかえが取れたように微笑む。

望は深呼吸をすると、身体をほぐして両手を伸ばした。


「とにかく、今はここで情報収集をしよう。その上で、これからの方針を決めないとな」

「うん」


手を差し出してきた望の誘いに、花音は満面の笑顔で頷いた。

二人の手が重なる。


「また、みんなでクエストを受けられるといいな」

「望くんと愛梨ちゃんは、これからも私達の仲間だよ!」


望の視線を受けて、花音は喜色満面で答えた。


(そういえば……)


ふと思い出すのは、信也との戦いの後、真実を紡いだ紘の姿。

そのとらえどころのない意味深な言葉が、妙に花音の頭に残った。


『蜜風望はいずれ自身に纏わる真相を知るだろう。その時、彼が私達の味方のままなのか、それとも敵になるのか……』


花音の胸を打つのは、紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』によってもたらされた未来の道標。


(望くんに纏わる真相。あれって、どういう意味だったんだろう)


どうしようもなく不安を煽るそのフレーズに、花音は焦りと焦燥感を抑えることができなかった。

疑念の渦に沈みそうになっていた花音の意識を掬い上げたのは、ギルド宛てに届いた徹からのメッセージだった。


「あっ……」


そこに書かれていた内容は思わぬ内容だった。


「えっと……望くんの特殊スキル、魂分配(ソウル・シェア)は……究極のスキルで、望くんは美羅ちゃんに最も近い存在。……ええっ! 望くんのお母さんと吉乃美羅さんって、親戚同士なの!?」


花音にとって、受け入れがたい事実を突きつけてくる。


「だから、愛梨ちゃんのお兄さんはあの時、あんなことを言ったのかな」


様々な記憶の断片が、花音に一つの真実を呼び起こす。

メッセージが示した事実に、花音は改めて自分が為すべきことを触発された。


「愛梨ちゃんのお兄さん、大丈夫だよ。たとえ、真相を知っても、望くんは私達の大切な仲間だもの」


花音は嬉々として、事実を如実に語った。

さらに読み進めていくと、意外なことが書かれていた。


「それと……私にサプライズ? ギルドホームの前にいる? どういうことなのかな?」


戸惑いながらもギルドの外に出た瞬間、花音は目を大きく見開いた。

それは予感なんて優しいものじゃなかった。

きっとそれは、花音が待ち望んでいたもの。


花音がずっと会いたかった存在。


花音が駆け寄ると、そこにはスライムタイプのモンスターがいた。

まるで懐ついてるように、花音の周囲を跳び跳ねている。

スライムタイプのモンスターの頭上には、HPを示す青色のゲージが浮いている。

丸くて愛嬌のある顔立ち、グミのような柔らかくて弾力のある質感でありながら、その攻撃方法である体当たりは、ゲームを始めたばかりのプレイヤーには脅威だ。


「久しぶり。また、会えたね」


屈んだ花音が優しく撫でると、スライムタイプのモンスターは勇み立った。


「……花音?」

「あっ、愛梨ちゃん!」


そこに、望から変わった愛梨もやってきた。

先程、交わした約束を、望は守ってくれている。

花音は嬉しそうに微笑むと、今日の思い出を心の中に仕舞う。


「望くんと愛梨ちゃんは、これからも私達の仲間だよ!」


陽の光に照らされた『キャスケット』のギルドホーム。

望達の未来を変えてくれた仲間達が、確かにそこにいた。

この話で完結になります。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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