「徹くんや勇太くん達、あれからどうしているのかな?」
花音は途方にくれたようにつぶやくと、ギルドの外をじっと眺めた。
「愛梨ちゃんに会いたいな」
赤みがかかった髪を揺らした花音が、顔を俯かせて声を震わせる。
すると、望はそんな彼女の気持ちを汲み取ったのか、頬を撫でながら照れくさそうにぽつりとつぶやいた。
「花音。話し合いが終わったら、すぐに愛梨に変わるからな」
「……うん。望くん、ありがとう」
顔を上げた花音は、胸のつかえが取れたように微笑む。
望は深呼吸をすると、身体をほぐして両手を伸ばした。
「とにかく、今はここで情報収集をしよう。その上で、これからの方針を決めないとな」
「うん」
手を差し出してきた望の誘いに、花音は満面の笑顔で頷いた。
二人の手が重なる。
「また、みんなでクエストを受けられるといいな」
「望くんと愛梨ちゃんは、これからも私達の仲間だよ!」
望の視線を受けて、花音は喜色満面で答えた。
(そういえば……)
ふと思い出すのは、信也との戦いの後、真実を紡いだ紘の姿。
そのとらえどころのない意味深な言葉が、妙に花音の頭に残った。
『蜜風望はいずれ自身に纏わる真相を知るだろう。その時、彼が私達の味方のままなのか、それとも敵になるのか……』
花音の胸を打つのは、紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』によってもたらされた未来の道標。
(望くんに纏わる真相。あれって、どういう意味だったんだろう)
どうしようもなく不安を煽るそのフレーズに、花音は焦りと焦燥感を抑えることができなかった。
疑念の渦に沈みそうになっていた花音の意識を掬い上げたのは、ギルド宛てに届いた徹からのメッセージだった。
「あっ……」
そこに書かれていた内容は思わぬ内容だった。
「えっと……望くんの特殊スキル、魂分配(ソウル・シェア)は……究極のスキルで、望くんは美羅ちゃんに最も近い存在。……ええっ! 望くんのお母さんと吉乃美羅さんって、親戚同士なの!?」
花音にとって、受け入れがたい事実を突きつけてくる。
「だから、愛梨ちゃんのお兄さんはあの時、あんなことを言ったのかな」
様々な記憶の断片が、花音に一つの真実を呼び起こす。
メッセージが示した事実に、花音は改めて自分が為すべきことを触発された。
「愛梨ちゃんのお兄さん、大丈夫だよ。たとえ、真相を知っても、望くんは私達の大切な仲間だもの」
花音は嬉々として、事実を如実に語った。
さらに読み進めていくと、意外なことが書かれていた。
「それと……私にサプライズ? ギルドホームの前にいる? どういうことなのかな?」
戸惑いながらもギルドの外に出た瞬間、花音は目を大きく見開いた。
それは予感なんて優しいものじゃなかった。
きっとそれは、花音が待ち望んでいたもの。
花音がずっと会いたかった存在。
花音が駆け寄ると、そこにはスライムタイプのモンスターがいた。
まるで懐ついてるように、花音の周囲を跳び跳ねている。
スライムタイプのモンスターの頭上には、HPを示す青色のゲージが浮いている。
丸くて愛嬌のある顔立ち、グミのような柔らかくて弾力のある質感でありながら、その攻撃方法である体当たりは、ゲームを始めたばかりのプレイヤーには脅威だ。
「久しぶり。また、会えたね」
屈んだ花音が優しく撫でると、スライムタイプのモンスターは勇み立った。
「……花音?」
「あっ、愛梨ちゃん!」
そこに、望から変わった愛梨もやってきた。
先程、交わした約束を、望は守ってくれている。
花音は嬉しそうに微笑むと、今日の思い出を心の中に仕舞う。
「望くんと愛梨ちゃんは、これからも私達の仲間だよ!」
陽の光に照らされた『キャスケット』のギルドホーム。
望達の未来を変えてくれた仲間達が、確かにそこにいた。
この話で完結になります。
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