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留菜マナ
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第五百三十四話 黄昏の想いは①

公開日時: 2024年11月25日(月) 16:30
文字数:1,255

「恐らく、『レギオン』のギルドホームにたどり着くことが、脱出への近道になりそうだな」

「……有。『レギオン』のギルドホームには、更なる強敵が待ち構えているかもしれない。向かうのは、体勢を立て直してからの方がいいと思う」


有の方針に、奏良は突如、襲いかかってきたモンスター達を威嚇するように発砲しながら苦言を呈した。


「奏良よ、『サンクチュアリの天空牢』にいる美羅の残滓を消滅させても、リノアの意識が目覚めるのはわずかの間だけだ。美羅を消滅させるには、リノアの意識の完全な覚醒が必要不可欠。ならば、早急に『レギオン』のギルドホームに向かう必要がある」

「有。君は人使いが荒い上に、全く効率的ではない。『レギオン』のギルドホームに赴いた瞬間、返り討ちに遭うのが目に見えている」


有の提案に、奏良は懐疑的である。

だが、それでもこの状況を打破するためには、それしかないと奏良は悟った。


「『レギオン』の介入は想定内だ。だが、少なくとも、この場の敵を何とかしてから、『レギオン』のギルドホームに行く必要がある」

「そうだな」

「そうだね」


奏良の疑念に、望とリノアも頷き、警戒を強めた。

その時ーー。


「あぐっ……」


リノアの苦しげな叫び声が聞こえた。


「なっ!」


咄嗟に望が振り向くと、リノアは頭を抱えてふらついていた。


「お兄ちゃん、リノアちゃんがーー」


目まぐるしく変わる状況を前にして、花音が疑問を口にしようとした瞬間ーー


「リノア!!」


響き渡ったその声に、望達は大きく目を見開いた。

勇太は即座に駆け寄って、リノアの身体を支える。


「うわああっ……!」

「くっ……リノア!」


だが、リノアは勇太の声には反応せずに、額から大粒の汗を流し続けていた。


「リノア、ごめんな。あの時、ひどいことを言って……」


それでも勇太は優しく、リノアの身体を抱き寄せる。

その言葉とともに、温もりが二人を包み込んだ。


「あっ……」


リノアは勇太の姿を見て、身をすくませる。

怯えるように、ゆっくりと後ずさった。


「いや……いや……。だめ……。近づかないで……。私、美羅様なの。だからきっと、また、勇太くんのことを傷つけてしまう……」


リノアは自身の中にある美羅の存在に苦しみ、悶えるようにもがいていた。


「……大丈夫だからな」


勇太は優しく、リノアの頬に触れる。

少しでも安心させようと思っての行動だった。

その時、手に何かが落ちてくる。

熱い。

火傷してしまいそうな、熱いそれはーー。


「リノア、泣くなよ」


リノアの涙。

些細な喧嘩が元で絶交中だった彼女。

だけど、不器用な俺はいつまでも彼女に謝ることすらできなかった。

だからこそーー。


「おまえを守れるように、泣かなくてすむように、俺はリノアのために強くなってみせる!」

「……あ」


勇太の天賦のスキルは、その強い意思を顕現したものだったのかもしれない。

それが分かった瞬間、リノアの胸が鳴り響き始めた。

制御できない心地よい熱に身体が満たされていく。


「勇太くん。私、やっぱり……」


リノアは勇太への想いをささやいた。

誰にも聞こえない小さな、だけど、確かな気持ちを。

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