「恐らく、『レギオン』のギルドホームにたどり着くことが、脱出への近道になりそうだな」
「……有。『レギオン』のギルドホームには、更なる強敵が待ち構えているかもしれない。向かうのは、体勢を立て直してからの方がいいと思う」
有の方針に、奏良は突如、襲いかかってきたモンスター達を威嚇するように発砲しながら苦言を呈した。
「奏良よ、『サンクチュアリの天空牢』にいる美羅の残滓を消滅させても、リノアの意識が目覚めるのはわずかの間だけだ。美羅を消滅させるには、リノアの意識の完全な覚醒が必要不可欠。ならば、早急に『レギオン』のギルドホームに向かう必要がある」
「有。君は人使いが荒い上に、全く効率的ではない。『レギオン』のギルドホームに赴いた瞬間、返り討ちに遭うのが目に見えている」
有の提案に、奏良は懐疑的である。
だが、それでもこの状況を打破するためには、それしかないと奏良は悟った。
「『レギオン』の介入は想定内だ。だが、少なくとも、この場の敵を何とかしてから、『レギオン』のギルドホームに行く必要がある」
「そうだな」
「そうだね」
奏良の疑念に、望とリノアも頷き、警戒を強めた。
その時ーー。
「あぐっ……」
リノアの苦しげな叫び声が聞こえた。
「なっ!」
咄嗟に望が振り向くと、リノアは頭を抱えてふらついていた。
「お兄ちゃん、リノアちゃんがーー」
目まぐるしく変わる状況を前にして、花音が疑問を口にしようとした瞬間ーー
「リノア!!」
響き渡ったその声に、望達は大きく目を見開いた。
勇太は即座に駆け寄って、リノアの身体を支える。
「うわああっ……!」
「くっ……リノア!」
だが、リノアは勇太の声には反応せずに、額から大粒の汗を流し続けていた。
「リノア、ごめんな。あの時、ひどいことを言って……」
それでも勇太は優しく、リノアの身体を抱き寄せる。
その言葉とともに、温もりが二人を包み込んだ。
「あっ……」
リノアは勇太の姿を見て、身をすくませる。
怯えるように、ゆっくりと後ずさった。
「いや……いや……。だめ……。近づかないで……。私、美羅様なの。だからきっと、また、勇太くんのことを傷つけてしまう……」
リノアは自身の中にある美羅の存在に苦しみ、悶えるようにもがいていた。
「……大丈夫だからな」
勇太は優しく、リノアの頬に触れる。
少しでも安心させようと思っての行動だった。
その時、手に何かが落ちてくる。
熱い。
火傷してしまいそうな、熱いそれはーー。
「リノア、泣くなよ」
リノアの涙。
些細な喧嘩が元で絶交中だった彼女。
だけど、不器用な俺はいつまでも彼女に謝ることすらできなかった。
だからこそーー。
「おまえを守れるように、泣かなくてすむように、俺はリノアのために強くなってみせる!」
「……あ」
勇太の天賦のスキルは、その強い意思を顕現したものだったのかもしれない。
それが分かった瞬間、リノアの胸が鳴り響き始めた。
制御できない心地よい熱に身体が満たされていく。
「勇太くん。私、やっぱり……」
リノアは勇太への想いをささやいた。
誰にも聞こえない小さな、だけど、確かな気持ちを。
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