私が困っていた時、苦しんでいた時、いつもお兄ちゃんが助けてくれた。
『あの力』を使って、守ってくれた。
否応なしに思い出す記憶を支えに、愛梨は紘を見上げる。
『愛梨のことは、先生やクラスメイト達に『絶対に守り抜くように頼んでいる』』
曖昧だった紘の言葉に与えられる具体的な形。
違和感を感じることに、違和感があるようなメタ構造を持った疑問。
不可解で不自然な現象。
それは紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』によってもたらされたものだった。
「紘、『レギオン』と『カーラ』の者達が接触してくるのはいつ頃なのかは、やっぱり分からないのか?」
「私の力も完璧ではない。同じ特殊スキルの使い手の力が働けば、その情報を覆されてしまうこともある」
徹の懸念に、紘は携帯端末のメッセージを確認しながら淡々と返す。
いつもなら愛梨のことは途中で小鳥に任せる予定だった。
だが、紘は自身の特殊スキル『強制同調(エーテリオン)』によって、『何も手を打たなくては』彼らが愛梨に接触してくることを織(し)り得ている。
そのため、紘達はしばらくの間、中学校まで愛梨を送り届けてから高校に向かうことにしていた。
紘達は街の雑踏をかき分けて、愛梨が通う中学校へと足を運ぶ。
やがて、密集するように家が立ち並ぶ住宅街から、次第に桜の木と欄干に挟まれた遊歩道の道筋が広がる長閑な景色へと移り変わる。
木々生い茂る噴水広場の周りを、魚達の群れがゆったりと泳いでいた。
いつもと変わらぬ穏やかな風景。
しかし、周囲の様子は明らかに平常とは異なっていた。
「美羅様……」
通勤途中でサラリーマン風の男性は目を閉じ、手を合わせた。
周りの人々も、美羅に対して訥々と祈り始める。
「怖い……」
紘の背後に隠れていた愛梨は、その異常な光景に怯えるようにして俯いていた。
不安そうに揺れる瞳は儚げで、震えを抑えるように胸に手を添える姿はいじらしかった。
望ならまず見せない気弱な姿に、紘は優しく微笑んだ。
「愛梨、心配することはない。私達がそばにいる。愛梨に危害を加える者達は近づけさせない」
「帰りも、一緒についていてやるからな」
「うん……」
紘と徹は肩を震わせる愛梨を気遣って、一緒に並んで歩いていく。
敵はどこから姿を現すのか、分からない。
緊迫した状況だけが続いていた。
「しばらくの間は何か起きるかもしれないし、帰りはまっすぐに帰ろうな」
「うん。怖くて苦しくて心細いけれど、それでも頑張る……」
徹の呼び掛けに、愛梨は不安定な声色で応えた。
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