『しかし、残念だ。鶫原徹。君は、こちら側に移動していたのか』
「……おまえ、俺がいることを知っていて、わざと会話を続けていただろう」
信也の戯れ言に、徹は不満そうに表情を歪める。
『この場にいないというのは事実だ。私は『レギオン』のギルドホームに居るからな』
「とにかく、愛梨も紘も、そして望も、おまえ達に渡すつもりなんてないからな!」
信也の言葉を打ち消すように、徹はきっぱりとそう言い放った。
「そもそも、何故、俺達を分断させたんだよ!」
『もちろん、クエストを楽しんでもらうために』
「……っ」
信也の即座の切り返しに、望達は胡散臭そうに睨みつける。
信也は、望達に一瞥くれて言い直した。
『……というのは口実で、君達を追い詰めれば、蜜風望が『アルティメット・ハーヴェスト』の姫君に変わるかもしれないと言えば伝わるかな』
「やっぱり、愛梨を狙ってきたんだな!」
『そう取ってもらっても構わないよ』
徹の否定的な意見を前にしても、信也は予測していたように作業じみたため息を吐いた。
信也は望とリノアに視線を向けると一転して、柔和な笑みを浮かべる。
『蜜風望くん。美羅様が、椎音愛梨さんに会いたがっている。変わってもらえるかな?』
「……俺は変わるつもりはない!」
「……私は変わるつもりはない!」
確信を込めて静かに告げられた信也の誘いは、この上なく望の心を揺さぶった。
『残念だ。なら、別の方法を考えるとしようか』
そこで、信也の声の通信は途絶える。
望達は、信也の手によって分断させられた事を痛感していた。
「と、徹くん、これからどうするの?」
「まずは、ロビーに戻ろうと思っている。みんなと合流しないといけないからな」
花音の焦ったような疑問を受けて、徹はインターフェースで表示した『サンクチュアリの天空牢』のマップを見つめる。
「おじさんとおばさん、大丈夫だよな」
勇太は不安とともに、リノアの両親への想いを口にした。
「最新の『サンクチュアリの天空牢』のマップは、ここに来る前に有に送っている。恐らく、有達も、ロビーに向かうはずだからな」
徹は少しでも安心させるように、望達の気持ちを孕んだ行動へと移す。
周囲を警戒していた勇太は、心を落ち着けるようにしてから話を切り出した。
「このダンジョンもやっぱり、『レギオン』の手によって管理されているのか?」
「ああ、恐らくな」
勇太の懸念に、徹は素っ気なく答える。
「『アルティメット・ハーヴェスト』のメンバー達が提示したクエストの中で、比較的に安全が保証されているものを選んでいる。ダンジョン調査も、その一つだ。ただ、プロトタイプ版の運営は、開発者側の『レギオン』と『カーラ』が握っているからな」
徹の胸中に様々な想いがよぎった。
「運営側の権限。つまり、事前情報だけでは対応出来ないのか」
「運営側の権限。つまり、事前情報だけでは対応出来ない」
「ああ」
望とリノアの確信に近い推察に、徹は肯定の意を込めて頷いた。
「絶対にリノアを救ってみせる!」
「ああ」
「うん」
望とリノアは、大剣を掲げた勇太へと視線を向ける。
大剣の穏やかな輝きの中には、彼の強固な意思を感じさせた。
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