「それはつまり、椎音紘は吉乃信也が冒険者ギルドに居ることだけではなく、ここで僕達と決着をつけようとしていることも織(し)っていたのか」
「ああ、徹の言葉が真実だとするのならな」
有は考え込む素振りをしてから、改めて信也を見据えた。
リノアをーーそして、現実世界をもとに戻すためには美羅の存在を消滅させるしかない。
「残念。先に説明されてしまったか」
「……おまえ、俺がその事を知っていることを見抜いた上で、わざとそう返しただろう」
信也の戯れ言に、徹は不満そうに表情を歪める。
「久遠リノアのことではないが、調べ物をしていたというのは事実だ。『アルティメット・ハーヴェスト』の管轄内のことは、王都『アルティス』まで足を運ばなくては分からないからな」
「とにかく、愛梨も紘も、そして望も、おまえ達に渡すつもりなんてないからな!」
信也の言葉を打ち消すように、徹はきっぱりとそう言い放った。
「そもそも、おまえが美羅から授かった『明晰夢』の力って何なんだよ!」
「もちろん、それは秘密ということで」
「……っ」
信也の即座の切り返しに、有達は胡散臭そうに睨みつける。
信也は、有達に一瞥くれて言い直した。
「……というのは君達の求める答えにはならないかな。美羅から授かった『明晰夢』の力は使いどころが難しくていささか困っている」
インターフェースで表示した時刻と王都『アルティス』のマップを照らし合わせ、信也は冷静に明晰夢の力を精査する。
信也は当初の予定どおり、美羅から授かった『明晰夢』の力を行使して、望と愛梨を捕らえる腹積もりだ。
「『明晰夢』の力を行使すれば、『アルティメット・ハーヴェスト』の姫君を手に入れることができると言えば伝わるかな」
「やっぱり、愛梨に特殊スキルを使わせるつもりなんだな!」
「そう取ってもらっても構わないよ」
剣呑な眼差しを向けてきた徹を一瞥すると、信也は予測していたように作業じみたため息を吐いた。
だが、信也は望とリノアに視線を向けると一転して柔和な笑みを浮かべる。
「蜜風望くん、椎音愛梨さん。美羅様が君達に会いたがっている。一緒に来てもらえるかな?」
「望くんと愛梨ちゃんは渡さないよ! 望くんと愛梨ちゃんは、私達の大切な仲間だもの!」
信也の誘いに、花音は眦(まなじり)を吊り上げて強く強く否定する。
「ああ。望と愛梨は、俺達の大切な友人で仲間だ。他のギルドに渡すわけにはいかない」
「愛梨を守ることが僕の役目だ」
強い言葉で遮った花音の言葉を追随するように、有と奏良は毅然と言い切った。
「マスターと愛梨様を、あなた方に渡すわけにはいきません!」
「そんなことさせるかよ!」
プラネットと徹も、信也の申し出を拒む。
「残念だ。だが、君達が如何に阻止しようとしても、美羅様の真なる力の発動は必ず行われる」
有達の答えを聞いて、信也は失望した表情を作った。
「君達が拒んだとしてもだ」
苛烈な赫。麗しい美羅から授かりし浄化の色ーー『明晰夢』の力を励起していく。
覚悟の焱(えん)は優しく罪を吞み込んでいくことになるだろう。
罪炎が世界を焼くように。
望達が怯える事のないように。
長く苦しむことのないようにーー魔力を奔らせる。
しかし、信也が告げた確固たる信念ーーそれに水を入れる者がいた。
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