曖昧だった紘の言葉に与えられる具体的な形。
違和感を感じることに、違和感があるようなメタ構造を持った疑問。
不可解で不自然な現象。
それは全て紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』によってもたらされたものだった。
「それは私達とて同じことだ。美羅が悲しむ世界に戻すわけにはいかない。椎音紘、蜜風望の特殊スキルを利用して椎音愛梨を蘇らせた君に私達の理想を否定する資格はない」
「確かに私にはその資格はない」
激情と悲哀、様々な感情が渦巻く無窮の瞳で、紘は選び取った未来を垣間見る。
「それでも私はこの力を用いて、愛梨が幸せになれる未来を選んでいくだけだ」
信也の訴えに対しても、紘の声色は冷静そのものだった。
過去とは人間を作り出す重要な要素だ。
それを否定することは出来ない、否定は出来ないが、肯定も出来ないのが現状だ。
紘は自らが犯した過ちを呼び起こす。
特殊スキルを使えるようになったあの日のことをーー。
『創世のアクリア』にログインしたことによって、特殊スキルを会得した紘は、自らが使えるようになった未知の力をすぐに理解した。
曖昧だった結果に与えられる具体的な事象。
違和感を感じることに、違和感があるようなメタ構造を持った理念。
不可解で不自然な現象。
それらは全て、紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』によってもたらされたものだった。
その不可解な力を仮想世界で得た紘は、すぐに現実世界でも利用することにした。
「この力を使えば、世界の真理にたどり着けるかもしれない」
その行動理念の赴くまま、紘はあらゆる領域に一方的に干渉していった。
過去、現在、未来、全てを見据えた上で、未来へと導いていく力。
紘はその便利な力を使い、途方もない量の情報を手に入れ、処理する。
自身が想い描いた未来の中で、ひときわ鮮明に輝く未来だけを選択して世界を改変していった。
特殊スキル。
世界を牛耳る力と謳われ、現実世界をも干渉する力。
全ての世界そのものを改変させることすら可能な、万能の力。
その言葉どおり、紘は仮想世界だけではなく、現実世界でも神のごとき振る舞いをほしいままにした。
だが、当時の紘は、自身が手に入れた未知の力を解明することに夢中で、愛梨に迫っていた未来に目を向けていなかった。
半年前ーー。
愛梨が死んだのは、愛梨の両親の離婚が原因だった。
だからこそ、半年前のあの出来事を、紘はいつまでも忘れられない。
徹が呼ばれ、紘が待ち望んでいた愛梨の誕生日は、悔やんでも悔やみきれない日になってしまった。
あの時、両親の離婚を止めることが出来ていたらーー。
この力をもっと早く使いこなして、愛梨を守ることが出来ていたらーー。
愛梨は両親の言い争いに巻き込まれて死ぬことはなかったかもしれない。
否応なしに思い出す半年前の苦い記憶を振り切って、紘は愛しい妹へと視線を向ける。
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