「お兄ちゃん。これからどうしたらいいのかな?」
「妹よ、まずはここにいる美羅の残滓に接触するぞ。美羅の残滓は、機械都市『グランティア』に赴くための鍵でもあり、リノアの意識を覚醒させるための鍵でもあるからな」
花音の戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。
「そうだな。リノアの意識の覚醒の妨げになっているのは、美羅そのものだ。ここにいる美羅の残滓を消滅させたら、リノアはわずかの間だけでも意識を取り戻すことができるかもしれない」
「そうだね。私の意識の覚醒の妨げになっているのは、美羅そのもの。ここにいる美羅の残滓を消滅させたら、私はわずかの間だけでも意識を取り戻すことができるかもしれない」
望とリノアは情報を照らし合わせてから、前を見据えた。
「ただ、リノアの意識を完全に取り戻すための方法の模索が難航している。とはいえ、リノアの意識を少しでも覚醒させるためには……まず、ここにいる美羅の残滓を消滅させなくてはならないからな」
だからこそ、徹は敢えてそう結論づける。
あらゆる可能性を拾い集めるしかないと。
「そうだな」
勇太は改めて、戦う意思を固める。
リノアの覚醒を妨げている美羅という救世の女神と。
「だが、どこにいるのか分からない美羅の残滓を全て消滅させるのは一苦労だ。行き当たりばったりな行動は勘弁してほしい」
「……分かっているよ」
状況説明を欲する奏良の言葉を受けて、徹はもはや諦めたように続けた。
「他の美羅の残滓の行方については、ある程度の調べはついている。ここにいる美羅の残滓を消滅させたら、他の美羅の残滓の居場所も分かるはずだ」
「ここにいる美羅の残滓を消滅させたらか。完全に一方通行になりそうだな」
徹が示した事実に、奏良は腕を組み、少しだけ考えた様子をみせる。
「機械都市『グランティア』に赴けば、そこから脱出することができなくなるかもしれない。そもそも、今回の戦いは、二手に分かれることになるはずだ」
「二手か」
奏良が抱いた懸念材料に、勇太は明確に表情を波立たせた。
「僕は当然、望と愛梨とともに行動する。僕が愛梨を守るからな。君はただひたすら、別の場所で脱出する手段でも探ってくれ」
「……おまえ、いつも一言多いぞ」
奏良が非難の眼差しを向けると、徹はきっぱりと異を唱えてみせた。
「とにかく、今の美羅は人智を超えた成長を遂げる『究極のスキル』そのものであり、時には特殊スキルの使い手の力を超えるほどの絶対的な力を持っている。残滓と化した思念を全て消滅させないと打つ手がないかもしれない」
「そうだな。ただ、どう分かれるかだな」
「そうだね。ただ、どう分かれるかだね」
その徹の言葉を聞いた瞬間、望とリノアは眸に困惑の色を堪える。
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