とはいえ、実際に望から愛梨に変わった場合、『レギオン』と『カーラ』がリノアの座標を移動させてくる可能性がある。
別のーー有効な打開策を見出だす必要があった。
「とにかく、『レギオン』と『カーラ』の裏をかく作戦で対処していくしかないな」
徹は気持ちを切り替えるように一呼吸置くと、改めて思案を巡らせる。
「どうしたら裏をかくことが……。ーーあっ、メイキングアクセサリーで愛梨ちゃんに扮したら、きっと……!」
その時、不意の閃きが花音の脳髄を突き抜ける。
メイキングアクセサリーを眺めていた花音が興味津々な様子で訊いた。
「ねえ、望くん。メイキングアクセサリーで愛梨ちゃんと同じ格好になれないかな?」
「「……愛梨と?」」
花音のどこか確かめるような物言いに、望とリノアは不思議そうに首を傾げた。
「メイキングアクセサリーを使って、愛梨ちゃんに似た格好に扮したら、『レギオン』と『カーラ』の人達はその人のことを本物の愛梨ちゃんと勘違いするかもしれないよ?」
「なるほどな。愛梨に扮して誘き寄せるんだな」
「なるほどね。愛梨に扮して誘き寄せるんだね」
花音の言い分に、望とリノアは納得したように頷いてみせる。
メイキングアクセサリーはイメージした衣装に見た目を変えることができる。
愛梨に扮して誘導すれば、『レギオン』と『カーラ』の者達はその人物が本物の愛梨だと思うだろう。
「陽動作戦か……。確かにその作戦は有効かもしれないな」
「敵を誘導する囮役は重要だな」
奏良の言葉に、勇太は胸のつかえが取れたように応えた。
「だったら、囮役は愛梨ちゃんと背格好が似ている私がしてもいいかな?」
花音はとっておきの腹案を披露するように望とリノアを見つめる。
「私が誘き寄せている間、身を潜めている望くんが私と同じ動作をしたら、きっとリノアちゃんも同じ動きをすると思うから」
「ふむ、陽動か」
そこに必需品の購入を済ませた有がギルドに戻ってきた。
「なるほど、妹よ、一理あるな」
有は顎に手を当てると、花音の発想に着目する。
「母さんが掲示板に偽の情報を提示した後、『レギオン』と『カーラ』の者達は恐らくその場所を訪れるはずだ。なら、望達が誘き寄せている間に捕らえて、彼らに成り済ませば、敵の目を欺けるかもしれないな」
『レギオン』と『カーラ』を欺くのは容易ではない。
だからこそ、有は敢えてそう結論づけた。
「よし、今度こそ行くぞ! 『サンクチュアリの天空牢』へ!」
「うん!」
有の決意表明に、花音が嬉しそうに跳び跳ねる。
「お兄ちゃん、任せて! 私、愛梨ちゃんに扮して、『レギオン』と『カーラ』の人達を誘導するよ!」
「花音、君は全く効率的ではない。そもそも、囮役は敵を誘き出し、誘い寄せる重要な役割だ」
花音の提案に触れて、奏良は不服そうに視線を逸らす。
「正直、君では不安だ……」
花音の突飛な発想に対して、奏良はどこまでも懐疑的だった。
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