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留菜マナ
留菜マナ

第ニ百三十九話 そして、その日まで君を愛する③

公開日時: 2021年5月15日(土) 16:30
文字数:1,534

望達がリノアを連れて一階に降りると、有達はダンジョンへと向かうための支度を終えていた。


「残りの調査対象のダンジョンで、上位クラスのモンスターが現れるのは護衛クエストのダンジョンか。このダンジョンが一番、危険性が高いな」

「奏良よ、『レギオン』と『カーラ』の者達が待ち伏せている可能性が高いな」

「そうですね」


奏良の懸案に、有とプラネットは同意する。


「遅くなってごめんな!」


やがて、望達がクエストへの協力要請をしていたことで、徹は足早にギルドへと赴いた。

イリスはギルドの外で、望達の警護に当たっている。


「今回、君の出番はない。僕が愛梨を守るからな。ただひたすら、後方でダンジョンの調査をしてくれ」

「……おまえ、いつも一言多いぞ」


奏良の言及に、徹は恨めしそうに唇を尖らせる。


「徹くん、もう『這い寄る水晶帝』に行ってもいいのかな?」

「ああ。こちらの準備は既に済ましているからな」


花音が声高に疑問を口にすると、徹はイリスからの情報を確認しながら応える。


「なら、改めて、『這い寄る水晶帝』の情報を確認しなくてはならないな」


クエスト情報を散見していた有は、意味ありげに表情を緩ませた。


『這い寄る水晶帝』。

少し変わり種の中級者クエストだ。

このダンジョン内では、召喚のスキルを持たない者でも、モンスターなどを使い魔として一体、召喚して呼び出すことができる。

その使い魔をダンジョン内で成長させることが、クエスト達成の条件になっていた。

だが、戦闘は通常どおりに発生するため、使い魔と連携していく必要性が示唆される。


サモナークエストへの初の試みーー。


そんな中、居ても立ってもいられなくなったのか、花音が攻撃する際の身振り手振りを加えながら飛び跳ねた。


「徹くん、『這い寄る水晶帝』って、どんなモンスターが出るのかな? どんなモンスターが現れても、私の天賦のスキルと使い魔で倒してみせるよ!」

「花音。今回はあくまでも、ダンジョンの調査だけだ。ただひたすら、道を塞ぐ敵だけを倒してくれ」


花音が自信満々で告げると、奏良は呆れたように有に目配りする。

有はそれに応えるように、インターフェースを操作して、『サンクチュアリの天空牢』の攻略情報を表示させた。


「妹よ。残念だが、奏良の言うとおり、今回はダンジョンの調査が目的だ。モンスターが現れた時のみ、戦闘を行うつもりだぞ」

「……そ、そうだったね」


自身のアイデンティティーを否定されて、花音は落胆する。


「だが、確かに初めての内容のダンジョンというものは、どんなものなのか、気になってしまうな」

「お兄ちゃん。『這い寄る水晶帝』の後に、『ネメシス』のダンジョンに行くんだよね」

「その通りだ、妹よ」


喜び勇んだ妹の意を汲むように、有は自身の考えを纏めた。


「よし、では行くぞ! 『這い寄る水晶帝』へ!」

「うん!」


有の決意表明に、跳び跳ねた花音が嬉しそうに言う。

だが、花音はすぐに思い出したように唸った。


「でも、お兄ちゃん。どうやって『這い寄る水晶帝』まで行くの? 歩いていったら、時間がかかりそうだよ」

「そうだな」

「そうだね」


花音がインターフェースで表示した時刻を、望とリノアはまじまじと見つめる。

学校が終わったばかりの夕方の時刻。

今から二つのダンジョンの調査に向かうには、かなり困難を極めるだろう。


「心配するな、望、リノア、妹よ。母さんに頼んで、前もって馬車を手配してもらっているからな。この街の外に行けば、馬車に乗れるはずだ」

「さすが、お兄ちゃん!」


有の発言に、花音は両手を広げて歓喜の声を上げる。

望達は早速、ギルドを出て、街の外で待ち構えていた馬車に乗り込んだ。

NPCの御者の手引きにより、馬車が動き始める。

そして、望達は目的地の『這い寄る水晶帝』へと向かったのだった。


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