賢と信也とかなめ、一毅と美羅。
五人の関係を崩壊させた忌まわしき事故が、まるで昨日のことのように追憶される。
「何故、だ……」
「一毅、美羅、しっかりしろ!」
「そんな……」
あの日、賢達の慟哭にも似た叫び声が轟いた。
悲痛な声は、夜空に吸い込まれて消える。
彼らの死亡原因は、ワゴン車に乗って研究室へと赴いていた際、車同士の衝突事故に巻き込まれたことだった。
吉乃一毅。
吉乃美羅。
二人の通夜と告別式に参列し、賢達は一毅と美羅の死を否応なしに実感する。
『『究極のスキル』を使って、美羅を生き返させてくれないか……』
一毅が最期に残した遺言。
それは、死にゆく者が残された者達に対して遺した言葉。
その夜、賢達の心中で、彼の言葉が残響のように繰り返される。
それはまるで、祈りを捧げるような願いだった。
一毅のその言葉は、今までのどの言葉よりも賢達の心に突き刺さり、的確に賢達の心を揺さぶり続ける。
今も終わることのない友人から託された使命。
それが残された賢達の生き様であり、成すべきことだった。
「美羅様はーー吉乃美羅様は生きている。彼女(リノア)の中でな」
勇太が放った言葉を、賢は不敵な笑みを浮かべて一蹴した。
あの日、思考を加速させた賢は、やがて禁断の方法へと目を向ける。
それは、特殊スキルの使い手達のデータを収集して、新たな特殊スキルの使い手ーー美羅を産み出そうというものだった。
賢は、自身の思想に共感したプレイヤー達とともに、『レギオン』を発端させるとすぐに動き出した。
特殊スキルの使い手である愛梨のデータを収集すると、ギルドメンバー達のスキルを複合させて、そのデータベースを再構築(サルベージ)させるという離れ技を実行してみせたのだ。
最初は、ただの愛梨と吉乃美羅のデータの集合体だった『救世の女神』という存在。
しかし、特殊スキルの使い手である望と愛梨にシンクロさせることによって、実際の人間と同化させられるところまで進化を果たしていた。
「後は、椎音愛梨とのシンクロだけだ」
儚き過去への回想ーー。
沈みかけた記憶から顔を上げ、現実につぶやいた賢は、望と同じ動作をするリノアの様子を伺う。
「美羅様」
まるで運命の出逢いを果たしたように、賢はその名を口にした。
艶やかな茶色の髪は肩を過ぎ、腰のあたりまで伸びている。
美羅と同化した、愛梨と同じ年頃の少女。
病室から強制的に仮想世界へと送り込まれたリノアがそこに立っていた。
彼女はこれからも、『レギオン』の作る未来の象徴になる存在だった。
「特殊スキルの使い手を手中に収めれば、全ては美羅様のお望みのままに」
賢の呼びかけに、美羅と呼ばれたリノアは警戒するように何も答えない。
望と同じ動作を繰り返すリノア。
しかし、賢は手中に収めようとする望も、話しかけているリノアも見ていない。
リノアと同化した美羅だけを注視していた。
もう会えないと絶望した。
もう一度、会いたいと夢想した。
恋に焦がれて、現実に打ちのめされて、それでも求めた女性が手に届く場所にいる。
「吉乃美羅様……。あなたを完全に生き返させること。それが、今の私達の成すべきことです」
身を焦がすあらゆる感情を呑み込んで、賢は大切な女性の名前を口にした。
「勇太くん。君なら、私の気持ちを理解できるのではないかな?」
「ーーっ」
賢が投じた言葉に、勇太は一瞬、躊躇いを覚える。
賢は今、自分の感情を消化しきれずに心中で彷徨っている。
友を失い、愛する者を失った青年。
その心の負荷は想像するに余りあった。
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