「逃がしたか……」
暗澹たる思いでため息を吐いた奏良は、悔やむように語気を強めた。
「だが、これでようやく動きやすくなった」
徹はインターフェースを使い、HPが大幅に減ったステータスを表示させる。
「そもそも、君は光龍を具現化するだけでやっとだったはずだろう」
「そう言えば、シルフィが自由に動きやすいからな」
奏良の的確な疑問に、徹は訥々と答えた。
「それに今回の最大の功労者は、望とリノア、そして、勇太だ」
徹は胸のつかえが取れたように微笑む。
望とリノアの賭け、そして勇太の新たなスキル技。
それはこの戦いを終着点へと収束していく要になった。
だからこそ、指揮官であるかなめを失った『レギオン』と『カーラ』は撤退を余儀なくされたのだ。
「いや、みんなが俺達に力を貸してくれたからだ」
「いや、みんなが私達に力を貸してくれたから」
「わーい! 望くん、リノアちゃん、大勝利!」
これ以上ない満面の笑みを浮かべて、駆け寄ってきた花音が望に抱きついた。
「……っ。おい、花音」
「……っ。花音」
花音の突飛な行動に、望は身動きが取れず、窮地に立たされた気分で息を詰めている。
リノアもまた、戸惑ったように同じ動作を繰り返す。
「奏良、プラネットよ、やったな」
「ああ。吉乃かなめを倒せたおかげだ」
「マスターとリノア様、勇太様の力はすごいです」
有のねぎらいの言葉に、奏良とプラネットは恐れ入ったように答えた。
『カーラ』のギルドマスターを倒してしまった凄まじい力ーー特殊スキルの力と新たなスキル技を垣間見たような感覚。
望達の力、そして作戦が功を奏していなかったら対抗する術はなかっただろう。
奏良とプラネットは、高位ギルドの底知れない統率力を改めて実感する。
「望、リノアよ、回復アイテムだ」
「ああ」
「うん」
有から手渡された回復アイテムを呑んだことで、望とリノアのHPが少し回復した。
「お兄ちゃん。これからどうしたらいいのかな?」
「妹よ、まずは美羅の残滓である少女に接触するぞ。吉乃かなめは、美羅の残滓がこの部屋の秘密を解くための鍵だと言っていたからな」
花音の戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。
「そうだな。この部屋の秘密を解くための手掛かりは彼女だけだ。いろいろと情報を探ってみるしかないよな」
美羅の残滓から情報を得るのは容易ではない。
だからこそ、徹は敢えてそう結論づける。
あらゆる可能性を拾い集めるしかないと。
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