「望よ、確かにそれしかないようだな」
信也のもとまでの道筋を見つめた有は覚悟を決める。
信也の『明晰夢』の力は、紘の紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』の力によって抑えられている。
その好機を活かして、望達が信也を捕らえるという戦法だ。
とはいえ、何とか信也の裏をかいて出し抜く方法を考えなくてはならない。
一つだけごく簡単に、しかも完全に信也の裏をかく案はある。
それはーー
「リノアの意識を失わせる……?」
「私の意識を失わせる……?」
有の案を聞いた望とリノアは改めて自分が為すべきことを触発された。
やがて、感情の消えた瞳とともに、紘はあくまでも自分に言い聞かせるように継げる。
「美羅は『レギオン』の者達が産み出した、愛梨と吉乃美羅のデータを合わせ持つ『救世の女神』ともいうべき存在だ。特殊スキルの使い手である蜜風望と愛梨にシンクロさせることによって、実際の人間ーー久遠リノアと同化させられるところまで進化を果たしている。この進化をこれ以上、進めさせるわけにはいかない」
「進化を止めないといけないな……」
「進化を止めないといけない……」
どうしようもなく不安を煽るそのフレーズに、望とリノアは焦りと焦燥感を抑えることができなかった。
「今の美羅は、人智を超えた成長を遂げる『究極のスキル』そのものであり、時には特殊スキルの使い手である私達の力を超えるほどの絶対的な力を持っている」
「少なくとも、このままじゃ動くこともままならないな」
「少なくとも、このままじゃ動くこともままならないね」
その紘の言葉を聞いた瞬間、望とリノアは眸に困惑の色を堪えた。
世界は混迷を極めている。
仮想世界でしか存在していなかった美羅は現実世界という表舞台に姿を現し、ついには救世の女神にまでなっていた。
『レギオン』と『カーラ』が用意した理想の世界という遠大な計画。
一歩間違えば、世界が破綻していてもおかしくない。
そんな情勢の中でも、望達は前を向こうとしていた。
「美羅の特殊スキルは、全ての人々にご加護を与え、一部の者達に神のごとき力ーー『明晰夢』を授ける力か」
「美羅の特殊スキルは、全ての人々にご加護を与え、一部の者達に神のごとき力ーー『明晰夢』を授ける力」
望とリノアは瞬きを繰り返しながら、かなめが語った美羅の特殊スキルの内容を思い出してつぶやいた。
『蜜風望。美羅様の真なる力の発動には、君と椎音愛梨の力が必要だ』
望の脳裏に、『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』で告げられた賢の言葉が蘇る。
「美羅は、特殊スキルであるーー究極スキルそのもの。だから、俺達、特殊スキルの使い手とシンクロすることで、彼女は目覚め、俺達と同じ動作をするんだな」
「美羅は、特殊スキルであるーー究極スキルそのもの。だから、私達、特殊スキルの使い手とシンクロすることで、彼女は目覚め、私達と同じ動作をするのね」
紘が語った真実を、望とリノアは噛みしめるように反芻する。
ただ、今は、濁流みたいに押し寄せてくる感情に耐えるだけで精一杯だった。
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