吉乃信也を捕らえる前に、まずはリノアの意識を失わせる。
有は改めて、その方策を脳内で咀嚼する。
それを成し遂げる価値はあると信じてーー。
美羅が求めているものは特殊スキルの使い手。
『レギオン』と『カーラ』の者達も同様に求めているものは望達、特殊スキルの使い手の力だ。
『レギオン』と『カーラ』の目論見は、愛梨に特殊スキルの力を使わせることによって、美羅の真なる力の発動させることだった。
だが、もしリノアの意識を失わせることができたら、愛梨の特殊スキル、『仮想概念(アポカリウス)を使うことができるかもしれない。
しかし、今この場で望とリノアが勇太と連携して波状攻撃を仕掛けても、リノアは信也の意思によって転移させられてしまう。
ならーー
「椎音紘よ、勇太が上手く誘引してくれるはずだ。吉乃信也の『明晰夢』の力を発動させて、リノアの意識を失わせるように仕向けてほしい」
有は意思を示すように直言する。
信也の攻撃をリノアに命中させる。
あくまでこれは超常の領域にある美羅の加護を受ける開発者達の一人を捕縛すること。
倒すを確約するものではなく、どれほどの情報を得ることができるかも未知数。
むしろ、信也は何らかの方法で口を割らない可能性もあった。
しかし、それでも開発者の一人を捕らえれば、賢達の動きに乱れが生じるはずだ。
「吉乃信也の『明晰夢』の力を発動させよう。だが、チャンスは一度だけだ」
その紘の言葉を聞いた瞬間、望とリノアは眸に決意の色を堪える。
「チャンスは一度だけだな……」
「チャンスは一度だけ……」
前を見据えた望とリノアは改めて自分が為すべきことを触発された。
「奏良よ、頼む」
「言われるまでもない」
有の指示に、奏良は弾丸を素早くリロードし、銃を構える。
発砲音と弾着の爆発音が派手に響き渡った。
「その行動は予測済み――」
信也の言葉が途切れる。
何故ならーー
「その行動も予測済みだぜ!」
「……っ」
勇太が跳躍し、信也の不意を突くようなかたちで大剣を振るってきたからだ。
「くっ……!」
信也は窮地に立たされた気分で息を詰める。
まるで愚かで浅い信也の妄念など、たったの一綴りで霧散するように。
退路は塞がれた。
だが、信也は諦めない。
自身が描く理想の実現を願ったまま、それでも藻掻き、足掻く。
今はもういない彼女ーー美羅のために、この世界が創られたというのなら、私の役割はただ一つーー。
「私の役目は君達をこの場に留めておくこと。そして密風望と椎音愛梨を捕らえることだ」
信也の狙いは変わらず、美羅から授かった『明晰夢』の力を行使して望と愛梨を捕らえることだ。
逆にそれを利用すればいいという望達の結論さえも信也の意思を突き動かす。
「どんな蕾でも、いつかは花開くものだ。そうだろう、美羅!」
たとえ、それが罪炎に彩られた花でもいつかは花開くものだと信也は信じていた。
この人生の根幹が、意味が、肯定されたあの時に。
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